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第2章 雛を育てるソーサレス
「ちょっと、あなた! 淑女になんてことなさいますの!?」
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ケアリーという名の脅威が去ると、アレクシアはヴィオラに駆け寄った。先ほどまでの不機嫌な顔はどこへやら、笑顔で歓声を張り上げる。
「ケアリーに一発いれるなんて凄いわね! あいつ近接戦闘の専門家で、しかも教師長なのよ!? 次は本物の武器でやり合うところを見せてくれないかしら」
なにやら称賛を並べたアレクシアだったが、ヴィオラは少女の右耳を軽く引っ張り、半眼で指摘した。
「上官を呼び捨てにするのはやめろ。そういうところもお前に足りないものだぞ」
「軍隊じゃないんだから上官とかやめてよっていうか、呼び方なんてどうでもいいと思うんだけど?」
「お前、階級をただの呼び方だと思ってる奴か?」
めきぃっ!
「痛い!? 次は気をつけるから離して頂けると僥倖ですぅ!」
アレクシアは涙目で言葉を紡いだが、珍しく額に怒りのマークを浮かべたヴィオラは、少女の左耳にも手を伸ばす――
「ふぉーっふぉっふぉっ!」
だが聞いたことのある笑い声が彼女の手を止めさせた。
アレクシアの耳を解放して振り向けば、そこには大魔法院の理事長――クリフォードがいる。
彼はヴィオラと軽く挨拶など交わすと、耳がちぎれていないかを確認しているアレクシアに陽気に声をかけた。
「アレクシアよ、冒険者生活はどうじゃ? 新鮮じゃろう」
「……ヴィオラを送ったのがお爺だって、とっくにばれてるんだからね。なんで最初からそう言わなかったのよ? おかげで――」
アレクシアはそこまで言いかけて、慌てて口を噤んだ。
耳の状態を確認するのに集中していて、余計なことを口走りかけたのだろう――だがクリフォードは興味を引かれたらしく、眉をひそめてアレクシアを促す。
「ふむ? なにかあったのかのぉ」
「――!」
そっぽを向いて答えないことも可能といえば可能だが、そうすればヴィオラに聞くだろう。ヴィオラにとってクリフォードは雇い主である――適当にごまかしてはくれないかも知れない。
「余計な手間が掛かっただけだ」
「そ、そうよ! 非効率的ったらなかったんだから!?」
乙女は秘密を守ってくれたお姉さんに胸中で感謝しつつ、両手を腰において声を荒らげた。
愛弟子が顔全体を真っ赤に染めていることに疑問をもったらしいクリフォードだったが、それ以上の追求はせず、白いあご髭を触りながら口を開く。
「自然な形で会わせたかったんじゃよ。まぁ、上手くやっておるようでなによりじゃ」
それからアレクシアとヴィオラが近距離で肩を並べているのを見て、うんうんと頷いた。陽気さをました声で続ける。
「ヴィオラは優れた魔法使いであり、人格者でもある。学べることは多いじゃろう」
「お爺の人格者の定義って狂ってるんじゃないの?」
「耳いらないのか?」
「冗談! 冗談だから! もげちゃうぅ!」
「ふぉーふぉっふぉっ! やはりお主は口が過ぎるのぅ。我が校では礼儀作法も教えているはずだが、カリキュラムの見直しが必要かも知れんな」
「カリキュラムの変更で片付くとは思えないけどな」
ヴィオラは割と真剣に指摘したが、クリフォードは耳を引っ張られて涙目のアレクシアをにこにこと眺めており、聞いてはいないようだった。
「しっかりと叱られるがよい。では頼むぞ、ヴィオラよ」
「ああ。オレは人格者らしいから報酬の分はしっかりと叱る。それはもう、苛烈に熾烈に容赦なく」
「人格者の定義がわたしと違う!?」
なにやらアレクシアは悲鳴じみた声を上げたが、ヴィオラの返答に満足したらしいクリフォードは、二人に背を向けて立ち去る――かと思いきや、振り返った。
「それにしても、清掃に冒険者が来るとは聞いておったが……まさかお主らとは思わなんだ。ヨランダとも協力するんじゃぞ」
そして再び背を向けて去っていくところだったが、その背中を、ヴィオラの手を振り切ったアレクシアが引っ掴む。
少女は眉間に皺を寄せ、瞳には怒りの炎を燃えたぎらせている。おまけに彼女の全身は赤い輝きに覆われていた。
怒りに身を焦がす乙女に向けて、クリフォードが軽い声で呟く。
「まるで蝋燭じゃな」
「な・ん・で・あいつの名前が出てくるのよ!?」
軽い声に激怒の咆哮が返された瞬間、高笑いが響く。
「ほーっほっほっほっ!」
アレクシアが声の方――校舎を睨みつけると、手の甲を口元に当てたヨランダが中庭に向かって優雅な足取りで歩いてくる。彼女の後ろには十人ほどの女生徒――
「ほーっほっほっほっ!」
まだ距離があるはずだが、ヨランダの高笑いはやかましい程にはっきりと聞こえた。その声量で叫ぶ。
「その件につきましては、このわたくしが説明して差し上げますわ! ギルドに――」
「黙って滅び去りなさい!」
だがアレクシアが問答無用で投げつけた杖は、回転しながらヨランダの額に命中し、彼女は高笑いのポーズのまま仰向けに倒れた。
『……』
静まり返った中庭で、アレクシアは風になびくツインテールをそのままに、爽やかに微笑む。
「なんて素晴らしい弾道補正なのかしら……あの杖、とても気に入ったわ」
「一応は言っておくが、そういう魔法は掛かってない。あとお前、さすがにやり過ぎたとは思わないか?」
ヴィオラは眉根を寄せて指摘したがアレクシアは、ふふふ、と乙女そのものの笑声などあげながら首を左右に振った――その瞬間、女生徒たちに脇を抱えられて立ち上がったヨランダが、怒りに声を震わせた。
「ふ、ふふふ……ふ! こんなものをお投げになって! わたくしになにかあったらどうなさるおつもりだったんですの!?」
そして、左足を空に突き上げての豪快なモーションから、凄まじい勢いで杖を投げ返す――
「甘いわよ!」
どんっ!
アレクシアは光弾で杖を撃ち落としたが、彼女の上方からは高笑い――ヨランダは杖を投擲すると同時に、飛び上がったのだろう。お嬢様は両足で踏みつぶすような体勢をとり、アレクシアめがけて落ちてくる。
「ちっ!」
だが魔法を放った直後のアレクシアは動けない。彼女は舌打ちなどしつつ後方のクリフォードを引っ掴むと、盾のようにかざした。
アレクシア対ヨランダの番外乱闘が始まる――寸前、ヴィオラが動いた。
(どっちも筋力強化をつかってるな。生命魔法も使えるって点では誉めてやりたいが……)
教師長すら退けるお姉さんは、ヨランダの派手な下着など眺めつつ、落下してくる彼女を右手で捕らえると、そのまま宙づりにする。
「ちょっと、あなた! 淑女になんてことなさいますの!?」
「淑女は人を踏みつぶそうとするのか?」
罠にかかった獣そのものの格好で、これまた獣のように犬歯を剥き出しにした少女は両手でスカートを抑えながら抗議したが、ヴィオラに解放する気はなさそうである。
「その下着、色々とあれよね。下品なあんたらしいけど」
「いきなり杖をぶん投げといて品を語るな」
次いでヴィオラは、にやにやと笑うアレクシア。彼女の耳を、空いていた左手で思い切り引っ張った。
「この格好、とても屈辱的なんですけれど!?」
「耳が伸びちゃうでしょ!?」
「……」
甲高い声の挟撃に晒されたヴィオラは、少女たちを解放すると、横一列に並ばせ――しっかりと叱る。
ごつんっ!
「痛い!」
「痛いですわ!」
「息ぴったりだな」
ヴィオラは仲良く抗議の視線を送ってくる二人を見据え、両腕を胸の前で組んだ。やや鋭い口調で叱る。
「けんかで魔法を使うな。殺し合いになったらどうする?」
「死人なんか出てないわよ!?」
「これからも出てたまるかって話をしてるんだ。お前らは実質的には魔法使いなんだぞ。責任ある行動を心がけるべきだろ?」
「そりゃそうだけどさ……!」
また耳を引っ張られるのが嫌だったのか、アレクシアは大人しく引き下がったが――ヨランダはそうではなかった。ヴィオラにびしりと人差し指を突きつけると、反撃を仕掛ける。
「黙って聞いていれば偉そうに! わたくしの頭頂骨を小突くなんて、どういうおつもりですの!?」
「おまえこそ、アレクシアの胸骨柄を踏み砕く気だったろ。さすがにそれはどうかと思うぞ」
「先に手を出したのはアレクシアさんでしてよ!」
「連れの先制攻撃魔が申し訳ないことをしたとは思うが、ちょいとやり過ぎだったとは思わないか?」
「やりすぎですって!?」
ヴィオラの言葉にとことん血圧を上げたらしいヨランダは、口調に激しさを増して続ける。
「サレイ家の長女たるわたくしを下着丸出しの刑に処しておいてなんて言い草ですの!? あなた、さぞかし名のある家柄の方なんでしょうね!?」
「……ただのヴィオラだ。名乗るほどの家名はない」
「ほーっほっほっほっ!」
それから、先程よりもさらに大きな声で高笑いを始めた。余程に耳障りなのか、ヨランダの背後に並んでいる女生徒たちは、一様に耳を塞いでいる。
「でしょうね! そもそもわたくしの顔をご存じないなんて、庶民か平民か一般人の方に決まってますわ! 無知ゆえの怖いもの知らずほど愉快なものはありませんわね!」
「サレイといえば死滅魔法の名家だが……その跡取り娘がこんなんなのか?」
「深刻ではあるのぉ」
アレクシアの右手に掴まれたままのクリフォードは、地面にあぐらなど組んで呟いた。
「ケアリーに一発いれるなんて凄いわね! あいつ近接戦闘の専門家で、しかも教師長なのよ!? 次は本物の武器でやり合うところを見せてくれないかしら」
なにやら称賛を並べたアレクシアだったが、ヴィオラは少女の右耳を軽く引っ張り、半眼で指摘した。
「上官を呼び捨てにするのはやめろ。そういうところもお前に足りないものだぞ」
「軍隊じゃないんだから上官とかやめてよっていうか、呼び方なんてどうでもいいと思うんだけど?」
「お前、階級をただの呼び方だと思ってる奴か?」
めきぃっ!
「痛い!? 次は気をつけるから離して頂けると僥倖ですぅ!」
アレクシアは涙目で言葉を紡いだが、珍しく額に怒りのマークを浮かべたヴィオラは、少女の左耳にも手を伸ばす――
「ふぉーっふぉっふぉっ!」
だが聞いたことのある笑い声が彼女の手を止めさせた。
アレクシアの耳を解放して振り向けば、そこには大魔法院の理事長――クリフォードがいる。
彼はヴィオラと軽く挨拶など交わすと、耳がちぎれていないかを確認しているアレクシアに陽気に声をかけた。
「アレクシアよ、冒険者生活はどうじゃ? 新鮮じゃろう」
「……ヴィオラを送ったのがお爺だって、とっくにばれてるんだからね。なんで最初からそう言わなかったのよ? おかげで――」
アレクシアはそこまで言いかけて、慌てて口を噤んだ。
耳の状態を確認するのに集中していて、余計なことを口走りかけたのだろう――だがクリフォードは興味を引かれたらしく、眉をひそめてアレクシアを促す。
「ふむ? なにかあったのかのぉ」
「――!」
そっぽを向いて答えないことも可能といえば可能だが、そうすればヴィオラに聞くだろう。ヴィオラにとってクリフォードは雇い主である――適当にごまかしてはくれないかも知れない。
「余計な手間が掛かっただけだ」
「そ、そうよ! 非効率的ったらなかったんだから!?」
乙女は秘密を守ってくれたお姉さんに胸中で感謝しつつ、両手を腰において声を荒らげた。
愛弟子が顔全体を真っ赤に染めていることに疑問をもったらしいクリフォードだったが、それ以上の追求はせず、白いあご髭を触りながら口を開く。
「自然な形で会わせたかったんじゃよ。まぁ、上手くやっておるようでなによりじゃ」
それからアレクシアとヴィオラが近距離で肩を並べているのを見て、うんうんと頷いた。陽気さをました声で続ける。
「ヴィオラは優れた魔法使いであり、人格者でもある。学べることは多いじゃろう」
「お爺の人格者の定義って狂ってるんじゃないの?」
「耳いらないのか?」
「冗談! 冗談だから! もげちゃうぅ!」
「ふぉーふぉっふぉっ! やはりお主は口が過ぎるのぅ。我が校では礼儀作法も教えているはずだが、カリキュラムの見直しが必要かも知れんな」
「カリキュラムの変更で片付くとは思えないけどな」
ヴィオラは割と真剣に指摘したが、クリフォードは耳を引っ張られて涙目のアレクシアをにこにこと眺めており、聞いてはいないようだった。
「しっかりと叱られるがよい。では頼むぞ、ヴィオラよ」
「ああ。オレは人格者らしいから報酬の分はしっかりと叱る。それはもう、苛烈に熾烈に容赦なく」
「人格者の定義がわたしと違う!?」
なにやらアレクシアは悲鳴じみた声を上げたが、ヴィオラの返答に満足したらしいクリフォードは、二人に背を向けて立ち去る――かと思いきや、振り返った。
「それにしても、清掃に冒険者が来るとは聞いておったが……まさかお主らとは思わなんだ。ヨランダとも協力するんじゃぞ」
そして再び背を向けて去っていくところだったが、その背中を、ヴィオラの手を振り切ったアレクシアが引っ掴む。
少女は眉間に皺を寄せ、瞳には怒りの炎を燃えたぎらせている。おまけに彼女の全身は赤い輝きに覆われていた。
怒りに身を焦がす乙女に向けて、クリフォードが軽い声で呟く。
「まるで蝋燭じゃな」
「な・ん・で・あいつの名前が出てくるのよ!?」
軽い声に激怒の咆哮が返された瞬間、高笑いが響く。
「ほーっほっほっほっ!」
アレクシアが声の方――校舎を睨みつけると、手の甲を口元に当てたヨランダが中庭に向かって優雅な足取りで歩いてくる。彼女の後ろには十人ほどの女生徒――
「ほーっほっほっほっ!」
まだ距離があるはずだが、ヨランダの高笑いはやかましい程にはっきりと聞こえた。その声量で叫ぶ。
「その件につきましては、このわたくしが説明して差し上げますわ! ギルドに――」
「黙って滅び去りなさい!」
だがアレクシアが問答無用で投げつけた杖は、回転しながらヨランダの額に命中し、彼女は高笑いのポーズのまま仰向けに倒れた。
『……』
静まり返った中庭で、アレクシアは風になびくツインテールをそのままに、爽やかに微笑む。
「なんて素晴らしい弾道補正なのかしら……あの杖、とても気に入ったわ」
「一応は言っておくが、そういう魔法は掛かってない。あとお前、さすがにやり過ぎたとは思わないか?」
ヴィオラは眉根を寄せて指摘したがアレクシアは、ふふふ、と乙女そのものの笑声などあげながら首を左右に振った――その瞬間、女生徒たちに脇を抱えられて立ち上がったヨランダが、怒りに声を震わせた。
「ふ、ふふふ……ふ! こんなものをお投げになって! わたくしになにかあったらどうなさるおつもりだったんですの!?」
そして、左足を空に突き上げての豪快なモーションから、凄まじい勢いで杖を投げ返す――
「甘いわよ!」
どんっ!
アレクシアは光弾で杖を撃ち落としたが、彼女の上方からは高笑い――ヨランダは杖を投擲すると同時に、飛び上がったのだろう。お嬢様は両足で踏みつぶすような体勢をとり、アレクシアめがけて落ちてくる。
「ちっ!」
だが魔法を放った直後のアレクシアは動けない。彼女は舌打ちなどしつつ後方のクリフォードを引っ掴むと、盾のようにかざした。
アレクシア対ヨランダの番外乱闘が始まる――寸前、ヴィオラが動いた。
(どっちも筋力強化をつかってるな。生命魔法も使えるって点では誉めてやりたいが……)
教師長すら退けるお姉さんは、ヨランダの派手な下着など眺めつつ、落下してくる彼女を右手で捕らえると、そのまま宙づりにする。
「ちょっと、あなた! 淑女になんてことなさいますの!?」
「淑女は人を踏みつぶそうとするのか?」
罠にかかった獣そのものの格好で、これまた獣のように犬歯を剥き出しにした少女は両手でスカートを抑えながら抗議したが、ヴィオラに解放する気はなさそうである。
「その下着、色々とあれよね。下品なあんたらしいけど」
「いきなり杖をぶん投げといて品を語るな」
次いでヴィオラは、にやにやと笑うアレクシア。彼女の耳を、空いていた左手で思い切り引っ張った。
「この格好、とても屈辱的なんですけれど!?」
「耳が伸びちゃうでしょ!?」
「……」
甲高い声の挟撃に晒されたヴィオラは、少女たちを解放すると、横一列に並ばせ――しっかりと叱る。
ごつんっ!
「痛い!」
「痛いですわ!」
「息ぴったりだな」
ヴィオラは仲良く抗議の視線を送ってくる二人を見据え、両腕を胸の前で組んだ。やや鋭い口調で叱る。
「けんかで魔法を使うな。殺し合いになったらどうする?」
「死人なんか出てないわよ!?」
「これからも出てたまるかって話をしてるんだ。お前らは実質的には魔法使いなんだぞ。責任ある行動を心がけるべきだろ?」
「そりゃそうだけどさ……!」
また耳を引っ張られるのが嫌だったのか、アレクシアは大人しく引き下がったが――ヨランダはそうではなかった。ヴィオラにびしりと人差し指を突きつけると、反撃を仕掛ける。
「黙って聞いていれば偉そうに! わたくしの頭頂骨を小突くなんて、どういうおつもりですの!?」
「おまえこそ、アレクシアの胸骨柄を踏み砕く気だったろ。さすがにそれはどうかと思うぞ」
「先に手を出したのはアレクシアさんでしてよ!」
「連れの先制攻撃魔が申し訳ないことをしたとは思うが、ちょいとやり過ぎだったとは思わないか?」
「やりすぎですって!?」
ヴィオラの言葉にとことん血圧を上げたらしいヨランダは、口調に激しさを増して続ける。
「サレイ家の長女たるわたくしを下着丸出しの刑に処しておいてなんて言い草ですの!? あなた、さぞかし名のある家柄の方なんでしょうね!?」
「……ただのヴィオラだ。名乗るほどの家名はない」
「ほーっほっほっほっ!」
それから、先程よりもさらに大きな声で高笑いを始めた。余程に耳障りなのか、ヨランダの背後に並んでいる女生徒たちは、一様に耳を塞いでいる。
「でしょうね! そもそもわたくしの顔をご存じないなんて、庶民か平民か一般人の方に決まってますわ! 無知ゆえの怖いもの知らずほど愉快なものはありませんわね!」
「サレイといえば死滅魔法の名家だが……その跡取り娘がこんなんなのか?」
「深刻ではあるのぉ」
アレクシアの右手に掴まれたままのクリフォードは、地面にあぐらなど組んで呟いた。
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