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第1章 卵が暴れるソーサレス
「オレを小鳥だと思ってるなら、その瞬間は訪れないぞ」
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「小鳥よ! 好きなだけ空を舞うがいい! 力尽き、その肉血を我に捧げるその瞬間まで!」
「オレを小鳥だと思ってるなら、その瞬間は訪れないぞ」
凶悪な笑みを浮かべたヴィオラは、最初に襲い掛かってきた骸骨を真っ二つに斬り裂いた。残りの頭蓋骨を気配で補足しつつ、悪趣味な魔法使いを見据える。
(あそこまでデカい口を叩いたからには、悪趣味なだけじゃないんだろ?)
そして、高速飛翔の魔法を展開すると石剣を連続して閃かせ、頭蓋骨の群れを斬り捨てた。銀髪の魔法使いはその速度のまま、最後の標的へと襲いかかる――
「勝負だ!」
ヴィオラが石剣を振り上げると、男は左右に開いていた両手を頭部へと置いた。両者の距離は約十メートル。男が何か仕掛けるなら今しかない。
(その格好でどんな魔法つかうのか……見せてもらおうか!)
だが男はそのまま屈むと、膝を壁面に突いた。そのままうずくまる。
「……おい」
ヴィオラは剣を振り上げたまま、男へと半眼を向けていた。頭上の殺意に震える男は、あくまで大仰な口調を崩さない。いい根性ではあるが、ヴィオラの神経を逆なでしたようである。
「なにかね、愚か者よ」
「生殺与奪を握ってる相手に愚か者とは、いい根性してるなと言いたいが……その前に聞きたい。魔法は終わりか?」
「うむ。我が秘術はゴーレム作成であるからな。先ほどの冒険者どもと貴様のせいで、手勢を全て失ってしまった故、お手上げである」
「……つまり、さっきの頭蓋骨パニックでお前の財布はすっからかんってことだな。いや、自分でも何言ってるかわからないんだが、そんな感じか?」
「だから貴様は愚か者なのだ!」
男は妙に余裕たっぷりな仕草で立ち上がると、人差し指でヴィオラをびしりと指さした。額に怒りのマークを貼り付けたヴィオラに、決めのポーズなどとりつつ勝ち誇る。
「己の言動すら把握できぬ愚か者など魔法が使えても魔法使いとは呼べぬ! この勝負、我の勝利ということで閉幕――」
げしっ!
だが勝利宣言の直前、ヴィオラのブーツが黙らせた。
ブーツの踵は男の仮面を踏み砕き、その下の顔面に痛々しいまでにまでめり込んでいるが――ヴィオラは包帯を取り出すどころか気にした様子さえなく、冷たい声で言葉を紡ぐ。
「ろくな手札もない状態で挑んできた愚か者にがたがた言われたくない。ていうかあんた、こういうのに向いてないんじゃないか? いや、他人のオレにどうこう言われたくないだろうが、なんていうか」
途中で面倒くさくなったのか、ヴィオラはどうでも良さそう口調で――男の顔面に踵をめり込ませたまま――続けた。
「大体、秘術とやらが、ただ向かってくるだけのでかい顎ってどうなんだ? 鈍い弱い脆い上にグロテスクとはいえ、ゴーレムが創れるんだったら他の道で活かした方が怪我とかしないしお勧めだぞ。そもそも――」
「べほ」
ヴィオラはまだまだ言い足りない様子だったが、仮面を失った男は声とも呻きともとれない音を発すると、斜面を転がりながら落ちていき――ヴィオラは辟易とした様子で嘆息した。
「なあおい、逃げるなら全力疾走くらいしてもらわないと逃がしてやりようがないぞ」
それから剣を消滅させると、男が転がり落ちた岩肌に沿って降下していったが――男が転がり落ちていく先に、粗末ながら家が建っているのに気が付いて眉根を寄せた。
遺跡へと続く斜面の裏手なので、遺跡を出入りするだけなら気づくことはないだろう。
そして、この岩山に遺跡以外の用事というのは限られるので、隠れ家を建てるには適した地形といえる。
男が家の屋根を突き破ると、ヴィオラはその穴から家へと入った。
そこには――
「ここはお前の家か? いや、家とは呼べないな。墓場……食糧庫か? まさか遊技室とは言わねぇだろうな。女のオレにそんな冗談なんか言ったら八つ裂きにするぞ」
怒りに顔を歪ませたヴィオラの周りには、数えきれない遺体が転がっている。鎧やローブ、または盾やら剣、槍、そして杖らしきもの――遺品から見て冒険者たちだろう。
遺体の大半は腐敗が進んでいる上に、叩き潰されたように損傷が激しいため大半は性別すら判別できなかったが、新しいものの中には、明らかに若い女性だと分かるものもあった。
悲惨な最期を遂げたのか、目を見開き、叫ぶような表情で絶命している。
「美人がなんて顔してんだよ」
彼女の瞼を閉じようとヴィオラが手を伸ばすと、目を覚ましたらしい男が叫ぶ――
「我が作品に触るな! 愚か者があああ!」
「うるせえ」
その瞬間、ヴィオラは強烈な蹴りをお見舞いした。腹を蹴り上げられた男は宙で数回も回転してから床を転がり、仰向けで止まった。
激痛に呻く男に詰め寄ると、ヴィオラは全身に魔法力をまとい、髪を逆立たせる。
「この場にお前のものなんてないぞ。お前の命もな」
ぼきっ!
「ぎええええ!?」
足を踏み折られた男が苦痛の叫び声など上げたが、ヴィオラは欠片も気にした様子なく、もう片方の足に石剣を突き刺さした。
「ほげえええ!?」
「みんな寝てるんだから静かにしろ」
そして恐怖に身を縮こまらせた男に、新たな石剣を突きつけると静かに言った。ただし、双眸には獄炎の如き怒りを灯して。
「全部話せ。静かにな」
「ひ……!」
男はヴィオラの怒りに対抗する手段を持っていなかった。
「オレを小鳥だと思ってるなら、その瞬間は訪れないぞ」
凶悪な笑みを浮かべたヴィオラは、最初に襲い掛かってきた骸骨を真っ二つに斬り裂いた。残りの頭蓋骨を気配で補足しつつ、悪趣味な魔法使いを見据える。
(あそこまでデカい口を叩いたからには、悪趣味なだけじゃないんだろ?)
そして、高速飛翔の魔法を展開すると石剣を連続して閃かせ、頭蓋骨の群れを斬り捨てた。銀髪の魔法使いはその速度のまま、最後の標的へと襲いかかる――
「勝負だ!」
ヴィオラが石剣を振り上げると、男は左右に開いていた両手を頭部へと置いた。両者の距離は約十メートル。男が何か仕掛けるなら今しかない。
(その格好でどんな魔法つかうのか……見せてもらおうか!)
だが男はそのまま屈むと、膝を壁面に突いた。そのままうずくまる。
「……おい」
ヴィオラは剣を振り上げたまま、男へと半眼を向けていた。頭上の殺意に震える男は、あくまで大仰な口調を崩さない。いい根性ではあるが、ヴィオラの神経を逆なでしたようである。
「なにかね、愚か者よ」
「生殺与奪を握ってる相手に愚か者とは、いい根性してるなと言いたいが……その前に聞きたい。魔法は終わりか?」
「うむ。我が秘術はゴーレム作成であるからな。先ほどの冒険者どもと貴様のせいで、手勢を全て失ってしまった故、お手上げである」
「……つまり、さっきの頭蓋骨パニックでお前の財布はすっからかんってことだな。いや、自分でも何言ってるかわからないんだが、そんな感じか?」
「だから貴様は愚か者なのだ!」
男は妙に余裕たっぷりな仕草で立ち上がると、人差し指でヴィオラをびしりと指さした。額に怒りのマークを貼り付けたヴィオラに、決めのポーズなどとりつつ勝ち誇る。
「己の言動すら把握できぬ愚か者など魔法が使えても魔法使いとは呼べぬ! この勝負、我の勝利ということで閉幕――」
げしっ!
だが勝利宣言の直前、ヴィオラのブーツが黙らせた。
ブーツの踵は男の仮面を踏み砕き、その下の顔面に痛々しいまでにまでめり込んでいるが――ヴィオラは包帯を取り出すどころか気にした様子さえなく、冷たい声で言葉を紡ぐ。
「ろくな手札もない状態で挑んできた愚か者にがたがた言われたくない。ていうかあんた、こういうのに向いてないんじゃないか? いや、他人のオレにどうこう言われたくないだろうが、なんていうか」
途中で面倒くさくなったのか、ヴィオラはどうでも良さそう口調で――男の顔面に踵をめり込ませたまま――続けた。
「大体、秘術とやらが、ただ向かってくるだけのでかい顎ってどうなんだ? 鈍い弱い脆い上にグロテスクとはいえ、ゴーレムが創れるんだったら他の道で活かした方が怪我とかしないしお勧めだぞ。そもそも――」
「べほ」
ヴィオラはまだまだ言い足りない様子だったが、仮面を失った男は声とも呻きともとれない音を発すると、斜面を転がりながら落ちていき――ヴィオラは辟易とした様子で嘆息した。
「なあおい、逃げるなら全力疾走くらいしてもらわないと逃がしてやりようがないぞ」
それから剣を消滅させると、男が転がり落ちた岩肌に沿って降下していったが――男が転がり落ちていく先に、粗末ながら家が建っているのに気が付いて眉根を寄せた。
遺跡へと続く斜面の裏手なので、遺跡を出入りするだけなら気づくことはないだろう。
そして、この岩山に遺跡以外の用事というのは限られるので、隠れ家を建てるには適した地形といえる。
男が家の屋根を突き破ると、ヴィオラはその穴から家へと入った。
そこには――
「ここはお前の家か? いや、家とは呼べないな。墓場……食糧庫か? まさか遊技室とは言わねぇだろうな。女のオレにそんな冗談なんか言ったら八つ裂きにするぞ」
怒りに顔を歪ませたヴィオラの周りには、数えきれない遺体が転がっている。鎧やローブ、または盾やら剣、槍、そして杖らしきもの――遺品から見て冒険者たちだろう。
遺体の大半は腐敗が進んでいる上に、叩き潰されたように損傷が激しいため大半は性別すら判別できなかったが、新しいものの中には、明らかに若い女性だと分かるものもあった。
悲惨な最期を遂げたのか、目を見開き、叫ぶような表情で絶命している。
「美人がなんて顔してんだよ」
彼女の瞼を閉じようとヴィオラが手を伸ばすと、目を覚ましたらしい男が叫ぶ――
「我が作品に触るな! 愚か者があああ!」
「うるせえ」
その瞬間、ヴィオラは強烈な蹴りをお見舞いした。腹を蹴り上げられた男は宙で数回も回転してから床を転がり、仰向けで止まった。
激痛に呻く男に詰め寄ると、ヴィオラは全身に魔法力をまとい、髪を逆立たせる。
「この場にお前のものなんてないぞ。お前の命もな」
ぼきっ!
「ぎええええ!?」
足を踏み折られた男が苦痛の叫び声など上げたが、ヴィオラは欠片も気にした様子なく、もう片方の足に石剣を突き刺さした。
「ほげえええ!?」
「みんな寝てるんだから静かにしろ」
そして恐怖に身を縮こまらせた男に、新たな石剣を突きつけると静かに言った。ただし、双眸には獄炎の如き怒りを灯して。
「全部話せ。静かにな」
「ひ……!」
男はヴィオラの怒りに対抗する手段を持っていなかった。
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