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第1章 卵が暴れるソーサレス
「生きてないんだから死んだって文句言わないわよね!?」
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「わたしが誰かを教えてあげる!」
ばりばりばりっ!
両目を吊り上げたアレクシアは、憂さ晴らしでもするように凄まじい雷撃を放った。稲妻状の破壊は余波で地面をえぐりながら標的へ迫り、ジェイコブに食らいつこうとしていた死体を哀れなまでに破壊した。
雷撃に脇をかすめられたらしいジェイコブが、涙目で叫ぶが――
「俺とあいつらの区別は付いてるよな!? 腐ってねえのは味方だぜ!?」
「味方の位置くらい確かめたわよ! 素人扱いすると射線があんたを跨ぐわよ!?」
少女は叫び声で反論すると、前方に赤いクマのぬいぐるみを出現させた。やはり叫ぶ。
「この子はジェシカ! 女の子なの!」
「おいおいおい! まさかそれも雷なのか!?」
悲鳴を上げたディゴは交戦していた死体を蹴り飛ばし、頭を抱えながら大きく飛び退いた。
そして――
「……」
ばちばちと放電するぬいぐるみは、拳闘士のように顔の前で左右の拳?を数回も交差させると、ディゴの頭部すれすれを旋回して死体に飛びつき、赤い電撃と共に爆散する。
どんっ!
「ひいいいっ! 危なくねぇ魔法ってねえのかよ!?」
「あんたを巻き込まないようにジェシカを使ったのよ!」
「ほら! 魔法様がお通りになるから道を開けな!」
グローリーは涙目のディゴたちに射線を開けさせると、三人揃って地面に伏せた。障害物がなくなったと判断した魔法使いの卵は、遠慮なく暴れる所存のようである。
「生きてないんだから死んだって文句言わないわよね!?」
アレクシアはよく分からないことを叫ぶと両手を掲げ、赤黒い球体を出現させた。彼女の方に向き直った死体に、容赦なく放つ――
きゅんっ!
球体は死体の足下に高速で着弾すると、電撃の竜巻に形を変えた。放電する竜巻は甲高い音と共に一気に収束し――竜巻が消滅した後には、炭のようなものが僅かに残っているだけだった。
敵を殲滅したアレクシアは左手を腰に置くと、右手で髪をかき上げてから、まくし立てる。
「腐っただけの死体なんてわたしにとってはただの死体と同じなのよ! 全力疾走くらいできるようになってからきなさい!」
「……その通りだね」
グローリーは地面から立ち上がると、落ち着かせるようにアレクシアの肩を叩き、それから手近な岩に座らせた。呼吸を整えるのに必死な様子の少女に水筒を差し出す。
「水飲むかい?」
「……考えとくわ」
だが受け取りはしたものの、アレクシアは口をつけずに地面に置いた。両手で顔を覆い、うなだれるような姿勢で荒い息を吐き始める――そんな様子を見たグローリーがディゴたちの方を向くと、彼らは揃って首を左右に振った。
(潮時だね。最初の実戦があんな化け物どもじゃあ、仕方ないってもんさね……)
どうやら大人たちの意見は一致しているようである。
グローリーは、ディゴたちに手招きするとアレクシアの横に並ばせた。できる限りの明るい声で提案する。
「ギルドの話と随分と違う事態さね! このまま無理して進むか、ギルドに報告して違約金を貰って出直す。さあ、どっちにする?」
「そりゃ違約金っすよね!?」
「もちろんすよ! あんなゲテモノが出てきたのは予想外も予想外っす! 全力疾走する死体が出てくる前にずらかるのが当然すよ!」
グローリーの意図を察したディゴとジェイコブは――やや演技過剰な声で――強く撤退を推したが、アレクシアは勢いよく立ち上がると異論を唱えた。
「いやよ! 出直すって任務失敗ってことでしょ!? 後はピクニックがてら獣人をやっつけるだけなんだから、やり遂げましょうよ!?」」
「いやいやいや! さっきの死体どもが野良の化け物って保障はねぇんだぜ!?」
ディゴはものすごい勢いで首を左右に振りながらアレクシアに向き直ると、必死な形相で続ける。
「もしお嬢ちゃんの魔法が通じないような魔物が絡んでたらどうなる!? 俺たちは全滅しちまうよ!」
「こんな遺跡に閉じこもってるような奴が、わたしの魔法に対抗できるわけないわよ!」
「でもお嬢ちゃんは顔色真っ青だぜ!? ジェイコブ! お嬢ちゃんの顔色が悪いように見えるのは俺の目玉が腐り始めてるせいか! 俺は臭うか?」
「臭うのはいつものことだが、目玉は腐ってねぇと思うぜ」
「おい!? 毎日風呂はいってんだけどなぁ!?」
「わたしを無視して口論始めないでくれる!?」
「落ち着きなって!」
なにやら激高して立ち上がったアレクシアを、グローリーが宥めるように座らせた。
パーティーのリーダーであるグローリーは、頬の引っ張り合いなど始めたディゴとジェイコブを眺めつつ、胸中でぼやく。
(ディゴが臭うのは確かにいつものことだけど――じゃなくて、アレクシアはどうにも気性が荒いね)
魔法が使えるとは言っても、アレクシアはこのパーティーにおいては新参である。
その立ち位置でディゴとジェイコブの意見を真っ向から否定した上に怒鳴り散らしては、彼らの不興を買ってしまうだろう――本来であれば、言われなくても控えめな姿勢で臨むべきなのだが。
(想定外の状況でいらいらしちまったにしても、この娘の場合は度が過ぎるよ。不味いね……)
アレクシアが原因でパーティーが崩壊しかけている。
グローリーの判断次第では、この場でばらばらになってしまうほどに――
(この娘の師匠は、魔法しか教えなかったみたいだね)
グローリーは、気合を入れるように大きく息を吸うと両手のひらを強く打ち付け、その破裂するよう音は岩肌を震わせた。びくりと体を強張らせたアレクシアに言う。
「その二人は間違いなく腕利きの戦士だよ。汗くさい酒臭い足が臭いってのはあるけど、なんやかや有能なのさ」
「そのオチいらないんじゃ……」
控えめな声の提案を見事に無視しするとグローリーは、アレクシアの肩に手を置いた。親が子に言い聞かせる時のように、瞳を覗き込みながら続ける。
「あたしにはパーティーに誘った責任があるから、あんたを一人では行かせられない。でも二人だけだったら絶対、無事には終わらないよ。そこがあたしらの最期の場所になるかもしれない」
「そ、そんな弱気にならないでよ……」
強い眼差しで気勢を削がれたのか、アレクシアが微妙に怯む。
それを見て取ったグローリーは、今度はディゴとジェイコブに向き直った。
「すまないんだけど、もう少しだけ力を貸してくれないかい? ギルドから違約金を頂くにしても、獣人の姿を確認してるのとしてないのじゃ、差が出てくるかもしれないからね」
つまり討伐対象が間違っていたのか、討伐対象の他にも脅威となる存在がいたのかの差なのだろう。
普通に考えれば、安全に帰還できるというメリットの前では報酬の差など大した問題ではなかったが。
「姉御に着いていきますよ。なぁ、ディゴ?」
「ピクニックで金が貰えるなら、悪く無い話すよ」
何かを察したのか、どちらも断りはしなかった。
懐の広い仲間たちに感謝しつつ、グローリーは念を押すような声でアレクシアに言った。
「遺跡で毛皮どもの様子を見たら南端の町に戻るよ。いいね?」
「……それで良いわよ」
アレクシアが僅かに不満げな顔をしながらも頷くと、ディゴとジェイコブも安堵のため息をつく。それから髭面で微笑む。
「よろしくな、お嬢ちゃん」
「頼りにしてるぜ」
「分かったわよ」
アレクシアは困ったような表情を返すと、ぷいっと横を向いた。どう接してよいかわからないのだろう――そんな少女をどこか微笑ましく思ったのか、グローリーたちは頬を緩めた。
ばりばりばりっ!
両目を吊り上げたアレクシアは、憂さ晴らしでもするように凄まじい雷撃を放った。稲妻状の破壊は余波で地面をえぐりながら標的へ迫り、ジェイコブに食らいつこうとしていた死体を哀れなまでに破壊した。
雷撃に脇をかすめられたらしいジェイコブが、涙目で叫ぶが――
「俺とあいつらの区別は付いてるよな!? 腐ってねえのは味方だぜ!?」
「味方の位置くらい確かめたわよ! 素人扱いすると射線があんたを跨ぐわよ!?」
少女は叫び声で反論すると、前方に赤いクマのぬいぐるみを出現させた。やはり叫ぶ。
「この子はジェシカ! 女の子なの!」
「おいおいおい! まさかそれも雷なのか!?」
悲鳴を上げたディゴは交戦していた死体を蹴り飛ばし、頭を抱えながら大きく飛び退いた。
そして――
「……」
ばちばちと放電するぬいぐるみは、拳闘士のように顔の前で左右の拳?を数回も交差させると、ディゴの頭部すれすれを旋回して死体に飛びつき、赤い電撃と共に爆散する。
どんっ!
「ひいいいっ! 危なくねぇ魔法ってねえのかよ!?」
「あんたを巻き込まないようにジェシカを使ったのよ!」
「ほら! 魔法様がお通りになるから道を開けな!」
グローリーは涙目のディゴたちに射線を開けさせると、三人揃って地面に伏せた。障害物がなくなったと判断した魔法使いの卵は、遠慮なく暴れる所存のようである。
「生きてないんだから死んだって文句言わないわよね!?」
アレクシアはよく分からないことを叫ぶと両手を掲げ、赤黒い球体を出現させた。彼女の方に向き直った死体に、容赦なく放つ――
きゅんっ!
球体は死体の足下に高速で着弾すると、電撃の竜巻に形を変えた。放電する竜巻は甲高い音と共に一気に収束し――竜巻が消滅した後には、炭のようなものが僅かに残っているだけだった。
敵を殲滅したアレクシアは左手を腰に置くと、右手で髪をかき上げてから、まくし立てる。
「腐っただけの死体なんてわたしにとってはただの死体と同じなのよ! 全力疾走くらいできるようになってからきなさい!」
「……その通りだね」
グローリーは地面から立ち上がると、落ち着かせるようにアレクシアの肩を叩き、それから手近な岩に座らせた。呼吸を整えるのに必死な様子の少女に水筒を差し出す。
「水飲むかい?」
「……考えとくわ」
だが受け取りはしたものの、アレクシアは口をつけずに地面に置いた。両手で顔を覆い、うなだれるような姿勢で荒い息を吐き始める――そんな様子を見たグローリーがディゴたちの方を向くと、彼らは揃って首を左右に振った。
(潮時だね。最初の実戦があんな化け物どもじゃあ、仕方ないってもんさね……)
どうやら大人たちの意見は一致しているようである。
グローリーは、ディゴたちに手招きするとアレクシアの横に並ばせた。できる限りの明るい声で提案する。
「ギルドの話と随分と違う事態さね! このまま無理して進むか、ギルドに報告して違約金を貰って出直す。さあ、どっちにする?」
「そりゃ違約金っすよね!?」
「もちろんすよ! あんなゲテモノが出てきたのは予想外も予想外っす! 全力疾走する死体が出てくる前にずらかるのが当然すよ!」
グローリーの意図を察したディゴとジェイコブは――やや演技過剰な声で――強く撤退を推したが、アレクシアは勢いよく立ち上がると異論を唱えた。
「いやよ! 出直すって任務失敗ってことでしょ!? 後はピクニックがてら獣人をやっつけるだけなんだから、やり遂げましょうよ!?」」
「いやいやいや! さっきの死体どもが野良の化け物って保障はねぇんだぜ!?」
ディゴはものすごい勢いで首を左右に振りながらアレクシアに向き直ると、必死な形相で続ける。
「もしお嬢ちゃんの魔法が通じないような魔物が絡んでたらどうなる!? 俺たちは全滅しちまうよ!」
「こんな遺跡に閉じこもってるような奴が、わたしの魔法に対抗できるわけないわよ!」
「でもお嬢ちゃんは顔色真っ青だぜ!? ジェイコブ! お嬢ちゃんの顔色が悪いように見えるのは俺の目玉が腐り始めてるせいか! 俺は臭うか?」
「臭うのはいつものことだが、目玉は腐ってねぇと思うぜ」
「おい!? 毎日風呂はいってんだけどなぁ!?」
「わたしを無視して口論始めないでくれる!?」
「落ち着きなって!」
なにやら激高して立ち上がったアレクシアを、グローリーが宥めるように座らせた。
パーティーのリーダーであるグローリーは、頬の引っ張り合いなど始めたディゴとジェイコブを眺めつつ、胸中でぼやく。
(ディゴが臭うのは確かにいつものことだけど――じゃなくて、アレクシアはどうにも気性が荒いね)
魔法が使えるとは言っても、アレクシアはこのパーティーにおいては新参である。
その立ち位置でディゴとジェイコブの意見を真っ向から否定した上に怒鳴り散らしては、彼らの不興を買ってしまうだろう――本来であれば、言われなくても控えめな姿勢で臨むべきなのだが。
(想定外の状況でいらいらしちまったにしても、この娘の場合は度が過ぎるよ。不味いね……)
アレクシアが原因でパーティーが崩壊しかけている。
グローリーの判断次第では、この場でばらばらになってしまうほどに――
(この娘の師匠は、魔法しか教えなかったみたいだね)
グローリーは、気合を入れるように大きく息を吸うと両手のひらを強く打ち付け、その破裂するよう音は岩肌を震わせた。びくりと体を強張らせたアレクシアに言う。
「その二人は間違いなく腕利きの戦士だよ。汗くさい酒臭い足が臭いってのはあるけど、なんやかや有能なのさ」
「そのオチいらないんじゃ……」
控えめな声の提案を見事に無視しするとグローリーは、アレクシアの肩に手を置いた。親が子に言い聞かせる時のように、瞳を覗き込みながら続ける。
「あたしにはパーティーに誘った責任があるから、あんたを一人では行かせられない。でも二人だけだったら絶対、無事には終わらないよ。そこがあたしらの最期の場所になるかもしれない」
「そ、そんな弱気にならないでよ……」
強い眼差しで気勢を削がれたのか、アレクシアが微妙に怯む。
それを見て取ったグローリーは、今度はディゴとジェイコブに向き直った。
「すまないんだけど、もう少しだけ力を貸してくれないかい? ギルドから違約金を頂くにしても、獣人の姿を確認してるのとしてないのじゃ、差が出てくるかもしれないからね」
つまり討伐対象が間違っていたのか、討伐対象の他にも脅威となる存在がいたのかの差なのだろう。
普通に考えれば、安全に帰還できるというメリットの前では報酬の差など大した問題ではなかったが。
「姉御に着いていきますよ。なぁ、ディゴ?」
「ピクニックで金が貰えるなら、悪く無い話すよ」
何かを察したのか、どちらも断りはしなかった。
懐の広い仲間たちに感謝しつつ、グローリーは念を押すような声でアレクシアに言った。
「遺跡で毛皮どもの様子を見たら南端の町に戻るよ。いいね?」
「……それで良いわよ」
アレクシアが僅かに不満げな顔をしながらも頷くと、ディゴとジェイコブも安堵のため息をつく。それから髭面で微笑む。
「よろしくな、お嬢ちゃん」
「頼りにしてるぜ」
「分かったわよ」
アレクシアは困ったような表情を返すと、ぷいっと横を向いた。どう接してよいかわからないのだろう――そんな少女をどこか微笑ましく思ったのか、グローリーたちは頬を緩めた。
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