上 下
1 / 32
第1章 卵が暴れるソーサレス

プロローグ☆

しおりを挟む

「怪我はない?」
「ええ」
 夜の学び舎に少女が二人。
 異界の植物に侵食されたかつての学び舎で、彼女たちは魔物の群れに取り囲まれていた。

「んふふふ……希望なんてどこにも転がってないんだから、さっさと食われたら?」
 褐色の肌をした女の嗜虐的な声が響く。
 彼女が言った通り、この学び舎に少女たちが掴める希望など転がってはいなかった。

「魔法力は?」
「準備できてますわ」
 だが肩ごしに向き合った少女たちは、絶望とは程遠い表情で微笑む。

「目標はわたしたち以外」
「了解ですわ」
 共に学び、共に歩み、共に戦い、築き上げてきた絆。それが希望。その辺に転がってなどいない。

軟体動物タコ女なんか吹き飛ばしてやる!」
「肺で呼吸してるって何回も言わせないでくれる!?」
 褐色の肌をした女が怒声など張り上げたが、少女たちは取り合わずに魔法を紡ぎ始めた。

「あああああああもう! 食べちゃいなさい!」
 軟体動物タコ女呼ばわりに腹を立てたのか、女は額に怒りのマークを浮かべると、犬歯を剥き出しにする。
 そして――

『シャアアアアアアア!』
 魔物の群れが、あらゆる方向から少女たちに襲い掛かった。逃げ場がなければ希望もない。

「苦しみ抜いて死ぬといいわ!」
 この場にあるのは恐怖と絶望と、そして嘲り――

禁じられた魔法イリガール・マジック!』
「なっ!?」
 だが、少女たちの内側から顕現した希望が、何もかもを吹き飛ばす。


「がんがん焼き払っていくわよ!」
「研究棟には爆薬も保管されているはずですわ!」
「本当!? 楽しい夜になりそうね!」
 異界に沈みゆく南端の町ギズウォー

『パーティーしましょう!』
 アレクシアとヨランダ。最後の希望が輝く。
しおりを挟む

処理中です...