αと嘘をついたΩ

赤井ちひろ

文字の大きさ
上 下
81 / 88
第五章 運命

80文月 抱擁

しおりを挟む
「折角皆そろったんだから、店しめて宴でもするかい?」
 手伝いにきていた仲間の台詞に紫苑は首を振った。
「折角手伝って下さっているなら、もう1日、お願いすることは出来ますか?」
 すぐにでも働きだすのではないかと、心配していた神無月は、不思議そうに紫苑を見た。
「僕だって何も仕事が一番って訳じゃありません。店が荒れているのでないのなら、今日くらいは……」
 紫苑の気持ちにすら気がつかず、元来鈍感なこの男は、さっさと上着を脱ぎハンガーにかけ、コックコートに袖を通した。
「ちょっとシェフ……」
「はい?」
「いやいや、ここは着替えちゃだめな所でしょう」
 呆れた様に若旦那に制止され、違和感を覚えた神無月は、辺りを見回した。
「やっぱりなんでも無いです。もういいです。仕事しましょう。仕事!僕も着替えます」
 ムッとする紫苑を見て、やらかしたと判断した神無月は、慌てて恋人に走りよった。紫苑の腕をつかみ、必死な顔で、紫苑の着替える手を止めながら、覗き込むように懇願する。
「まってくれ、ごめん。まさか美月がそんな風に思っくれているなんて……着替えない、着替えない。ほら、もう脱いだだろ?」
「知りません。着替えたらいいでしょう」
 仄かに染まったピンクの頬に、神無月はキスを繰り返し、睨む目にたまる涙をゆっくりと吸った。
「鈍感でごめん。そうだね。今日は皆に任せて家に帰ろう。俺の家でいいか?」
 無言で頷く紫苑を抱き抱え、後は頼むと振り返った。
「いや、それは恥ずかしいからおろして下さい」
「いやだ」
「おろしてってば……」
 睨む紫苑のおでこをペロリと舐め、耳元で囁いた。
「いいから、腹の子にさわるだろ。いい子にしてくれ」
「ずるい人……」
「したい」
 耳元で囁くダイナマイト級の三文字に、紫苑の秘部が濡れたような気がした。

 カラン
 しがみつく紫苑を抱えたまま、神無月は店を後にした。
「あの二人……やっときちんと繋がったなって気がします」
 若旦那の優しい目はのちの二人を案じるものだった。
「大丈夫ですよ。白城の子供を産みたいと言った紫苑君も、産ませたいと言った神無月君も、どちらも大切な物がきちんと見えていましたし、ひとまずは二人でゆっくりさせましょう」
 
 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

僕の罪と君の記憶

深山恐竜
BL
 ——僕は17歳で初恋に落ちた。  そしてその恋は叶った。僕と恋人の和也は幸せな時間を過ごしていたが、ある日和也から別れ話を切り出される。話し合いも十分にできないまま、和也は交通事故で頭を打ち記憶を失ってしまった。  もともと和也はノンケであった。僕は恋仲になることで和也の人生を狂わせてしまったと負い目を抱いていた。別れ話をしていたこともあり、僕は記憶を失った和也に自分たちの関係を伝えなかった。  記憶を失い別人のようになってしまった和也。僕はそのまま和也との関係を断ち切ることにしたのだが……。

[改稿版]これは百貨店で働く俺の話なんだけど

だいきち
BL
旭理人は、昔から寂しいとか辛いとか、そういうものをうまく口にできない性格であった。 人の顔色ばかり伺うせいで、デザイナーになるという幼いころからの夢を叶えても、身にならずに脆く崩れ去る。 ままならない人生、そんな人の隙間を縫うように生きてきた旭に変化を与えたのは、一人の男の言葉だった。 変じゃねーよ。お前は何も変じゃねえ。 再就職先である外資系ブランドの取引先相手という立場で再会したのは、専門学生時代に親しくしていた柴崎であった。 学生時代に少しずつ積もらせていた小さな思いが、ゆっくりと形になっていく。 ぶっきらぼうで適当で、顔しか取り柄のない男の隣が、こんなにも居心地がいいなんて。 ぶっきらぼうで適当なスパダリ雰囲気の柴崎(27)×自己肯定感低め、空元気流され不憫受け旭(24)が幸せになるまでの話(長!) 第二章は榊原×大林編です! これは百貨店で働く俺の話何だけどスピンオフ 大林(24)は、とある理由で体を売っていた。もちろん、勤め先であるブランドのスタッフには秘密である。 しかし、アパレルショップに来たもさい男、榊原(32)に、ひょんなことがきっかけで秘密がばれた! バラさない変わりに提案されたのは、まさかの榊原宅の家事手伝い! 「どうなるかは、君次第かな。」 「毛玉だらけのネクタイ締めてんじゃねえ!!」 ズレた性格をしている榊原に、日に日に絆されていく。恋心を自覚したとき、榊原の左手に光る指輪に気がついて… 陰湿豹変型溺愛攻め榊原×苦労性メンタルマゾ大林のドタバタラブコメディ! 2022,0928 改稿完了、完結しました! 改稿前の作品はなろうにて! 改稿前と改稿後を乗せるのはNGだったので、アルファポリスでは改稿後のみ掲載します! 前作をブクマしてくださっていて方々には申し訳ございません。近況にてなろうのURLを貼りましたので、お手数ですがお読み頂ける場合はそちらからお願いします。 20201026に初めて小説として書いたこの作品を、今の筆力で書き直しています。 他サイトのコミカライズ原作の公募に向けて鋭意執筆中。®️18はこちらでのみ投稿。 比較としてあえて改稿前も残しています。比較も楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

サイテー上司とデザイナーだった僕の半年

谷村にじゅうえん
BL
デザイナー志望のミズキは就活中、憧れていたクリエイター・相楽に出会う。そして彼の事務所に採用されるが、相楽はミズキを都合のいい営業要員としか考えていなかった。天才肌で愛嬌のある相楽には、一方で計算高く身勝手な一面もあり……。ミズキはそんな彼に振り回されるうち、否応なく惹かれていく。 「知ってるくせに意地悪ですね……あなたみたいなひどい人、好きになった僕が馬鹿だった」 「ははっ、ホントだな」 ――僕の想いが届く日は、いつか来るのでしょうか? ★★★★★★★★ エブリスタ『真夜中のラジオ文芸部×執筆応援キャンペーン  スパダリ/溺愛/ハートフルなBL』入賞作品 ※エブリスタのほか、フジョッシー、ムーンライトノベルスにも転載しています

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

処理中です...