αと嘘をついたΩ

赤井ちひろ

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第五章 運命

78文月 運命④

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 トントン
「圭吾様、神無月様がお見えになりました」
 ドアをノックする音に、白城が「来たか」と簡潔に答え 、「さよならだ」紫苑に握手を求めるように右手を差し出した。
 出したかった手も、言いたかった言葉も、恐らくは全く違うものであっただろうと、紫苑は理解した。少なくともそれを理解できる程には、関係は良好なものであった。
「白城さん……」
「紫苑君、最後に……一つだけ、我が儘言ってもいいか?」
「なんですか?」
 重い空気を飲み込むように、白城の喉が上下に嚥下した。
「……いや、なんでも……ない。早く帰れ」
 口ごもるように言葉を飲み込んだ白城を、紫苑は黙って抱きしめ耳元で囁く様に名前を呼んだ。
「圭吾さん」
 存外甘く響くその音色に、白城はゆっくりと心臓に手を当てた。
「あぁ……み……みつき……」
「圭吾さん、あなたが思っているより、僕はずっとずっと幸せでしたよ」
「わかったから、さっさと行け!愛しい男が待っているのだろう」
 ドアをあけ、紫苑を追い出すと、中からガチャリと鍵をかけた。
「幸せに!あなたも、幸せになってください」
 紫苑は扉に向かって額をつけ、10センチ先の扉の向こうにいるはずの白城に、伝わるように祈りを込めた。
「挨拶は、済んだか」
 そこに立っていたのは、会いたくて会いたくて仕方がなかった男だった。 
「お帰り、美月。俺たちの城に帰ろう」
 二人の唇が自然と重なり、それは甘く熱い口づけだった。


 
 
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