αと嘘をついたΩ

赤井ちひろ

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第五章 運命

77文月 運命③

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「紫苑君、紫苑君」
 白城に呼ばれ、物思いに耽っていたと気がついた紫苑は、慌てて顔を振った。
「どうしたんだい、紫苑君」
「慣れませんね」
「何が?」
「その紫苑君ってやつです。白城さんは僕を美月って呼び捨てていたから」
「他の男を選んだ、かつての飼い犬を、ファーストネームで呼ぶ主義ではないのでね」
「飼い犬って……」 
「恋人と呼ぶにはちょっと違うかと、君に気を使ったつもりだがね」
 含み笑いをする白城に、紫苑はペコリと頭をさげて、また窓の外に視線を移した。
「こらこら、君と取る最後の朝食だ。少しはこちらも見てくれないか?」
 白城に後ろから抱きしめられると、自然に体が反応した。それを真っ赤な顔で、否定するように隠す紫苑が可愛くて、ついツンと触ってみたくなる。
「やめて下さい。逃がした魚は大きいですか?」
「逃がしたくて逃がした訳ではないのだがな。向こうの方が愛が深かっただけだ。それに私には白城家は捨てられない。守らねばならぬ従業員もいるからね」
「あなたはそれでこそ、白城圭吾様ですよ。旦那様」
「まったく、君ときたら、そんな事を言うから付け上がる男がでるんだよ」
 やわやわとペニスを触る白城の手をペチンと叩くと、ダイニングテーブルに歩きだした
「朝食は?」
「今日はこっちで食べよう」
 並んで座る二人がけ用のラブチェアにトーストにホットミルクだけの朝食が並んでいた。
「随分と簡素ですね」
 目を見開く紫苑に、ムッと口を結び、俺が作ったんだ。と小さな声で白城は答えた。
「あなたが?僕の為に?」
「悪いか?」
「いいえ。嬉しいです。頂きます」
 これが二人で食べる最後の朝食だった。 
「もうすぐ迎えがくるな」
 外の門が開いた合図が聞こえた。
「柊……」
「姫君の奪還か……」
 寂しそうに笑う白城に紫苑はただ頭を下げた。
 
 
 
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