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第五章 運命
74水無月 懇願②
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「大切にします。お願いです。白城さん」
神無月の言葉を無視するように、紫苑の肩を抱き寄せ、視線を神無月に寄せる彼の頬に、キスをした。
「やめてください」
神無月に見られる事に、抵抗があるのだろう。子供はおろせない。その段階で選択肢は一つだ。それでも愛しい男に見られてのキスには、心が傷んだ。
「大切にするのは紫苑君でしょう、そりゃあ好きなんだから当たり前だ。俺が言ってるのは、この優しい彼に、子供をおろす選択を、君は迫れるのかと言っている」
ジョーカーを切った白城には、紫苑を手に入れるという、ゴールへの方程式が見えていた。それほどに紫苑は心底優しい男だった。
「柊、今度は……もっと完璧なオメガを見つけて、幸せになって欲しい」
「嫌だ」
神無月の目は紫苑一点を見つめ、その視線はただ愛しいものを見るひとりの人間だった。アルファもオメガも関係ない。紫苑美月という一人の男を、真剣に見つめる、それだけのものだった。
「柊……」
「お願いだから、帰ってきてくれよ。大切にする。お腹の子供も、大切に育てると約束する。頼む、白城さん」
「何言ってるの、この子はあなたの子供じゃないんだよ」
さっきまで黙っていた紫苑は、堰を切った様に話し始めた。
「だから何だ。そんなこと解ってるよ。それでも美月、お前の子供だ。俺にはそれだけで大切な宝物なんだ。どうして解ってくれない」
声は病室から廊下に漏れ、静かな廊下にこれでもかという程に響いていた。
「だって柊……僕に似るとは限らない。段々白城さんに似てくるかもしれない。あなたはそうなっても愛せるって思っているの?」
「当たり前だろ。お前が言ったんだ。生まれてくる子供に罪はないだろう」
「バカなの?一回子供ができたからって次もできるとは限らないんだよ」
「だから?必要か?血がそんなに大切か」
神無月が笑っていった。
「だって、普通なら」
「なぁ普通ってなんだ。お前がいる。俺がいる。白城さんもいる。この子は幸せだと思わないか。それこそ普通って言葉を借りるなら、普通なら二人しかいない親が、最初から三人いるんだぞ。1.5倍だ」
「バカだ……」
諦めていた幸せが目の前にある事が、紫苑にはにわかには信じがたかった。白城の手の中からふらふらと抜け出し、神無月の元に吸い寄せられるように歩き出す紫苑を、寂しそうに白城は見つめた。
神無月は紫苑を愛していたし、だからこそ、白城もそうであると、神無月の直感は、告げていた。
「お願いします。白城さん、貴方が本気で美月を愛していたことは解っている。あなたの子供もきちんと本気で愛するから、自分が父親だなんて噓は付かない……だから、子供ごと俺に守らせて欲しい」
床に頭をこすりつける男を白城はただ黙って見下ろしていた。
紫苑の目には涙がたまり、その場でぺたりとしゃがみ込んだ。
――愛されていた。
――知っていた。白城さんもきちんと愛してくれていた。
それでも、柊が望むなら――。
――僕は。
神無月の言葉を無視するように、紫苑の肩を抱き寄せ、視線を神無月に寄せる彼の頬に、キスをした。
「やめてください」
神無月に見られる事に、抵抗があるのだろう。子供はおろせない。その段階で選択肢は一つだ。それでも愛しい男に見られてのキスには、心が傷んだ。
「大切にするのは紫苑君でしょう、そりゃあ好きなんだから当たり前だ。俺が言ってるのは、この優しい彼に、子供をおろす選択を、君は迫れるのかと言っている」
ジョーカーを切った白城には、紫苑を手に入れるという、ゴールへの方程式が見えていた。それほどに紫苑は心底優しい男だった。
「柊、今度は……もっと完璧なオメガを見つけて、幸せになって欲しい」
「嫌だ」
神無月の目は紫苑一点を見つめ、その視線はただ愛しいものを見るひとりの人間だった。アルファもオメガも関係ない。紫苑美月という一人の男を、真剣に見つめる、それだけのものだった。
「柊……」
「お願いだから、帰ってきてくれよ。大切にする。お腹の子供も、大切に育てると約束する。頼む、白城さん」
「何言ってるの、この子はあなたの子供じゃないんだよ」
さっきまで黙っていた紫苑は、堰を切った様に話し始めた。
「だから何だ。そんなこと解ってるよ。それでも美月、お前の子供だ。俺にはそれだけで大切な宝物なんだ。どうして解ってくれない」
声は病室から廊下に漏れ、静かな廊下にこれでもかという程に響いていた。
「だって柊……僕に似るとは限らない。段々白城さんに似てくるかもしれない。あなたはそうなっても愛せるって思っているの?」
「当たり前だろ。お前が言ったんだ。生まれてくる子供に罪はないだろう」
「バカなの?一回子供ができたからって次もできるとは限らないんだよ」
「だから?必要か?血がそんなに大切か」
神無月が笑っていった。
「だって、普通なら」
「なぁ普通ってなんだ。お前がいる。俺がいる。白城さんもいる。この子は幸せだと思わないか。それこそ普通って言葉を借りるなら、普通なら二人しかいない親が、最初から三人いるんだぞ。1.5倍だ」
「バカだ……」
諦めていた幸せが目の前にある事が、紫苑にはにわかには信じがたかった。白城の手の中からふらふらと抜け出し、神無月の元に吸い寄せられるように歩き出す紫苑を、寂しそうに白城は見つめた。
神無月は紫苑を愛していたし、だからこそ、白城もそうであると、神無月の直感は、告げていた。
「お願いします。白城さん、貴方が本気で美月を愛していたことは解っている。あなたの子供もきちんと本気で愛するから、自分が父親だなんて噓は付かない……だから、子供ごと俺に守らせて欲しい」
床に頭をこすりつける男を白城はただ黙って見下ろしていた。
紫苑の目には涙がたまり、その場でぺたりとしゃがみ込んだ。
――愛されていた。
――知っていた。白城さんもきちんと愛してくれていた。
それでも、柊が望むなら――。
――僕は。
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