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第四章 会いたい
69皐月 約束⑥神無月柊
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「美月……すげー匂いなんだ……。おかしくなりそうだよ、お前に会いてーよ」
意識を保つために付けた傷跡に力をこめた。
◇
「ねえ、柊、もしだよ、もし……」
怒涛の忙しさを終えた年末、ホットワインを持った紫苑が言いづらそうに神無月に歩み寄った。
「なんだよ、もしもしばっかり言って、もしもし星人かよ」
手渡されたホットワインに、シナモンスティックを突っ込みながら茶化すと、スタスタ勢い良く歩いてきた紫苑におでこにペチンとデコピンをされた。
「もしもし星人ってなんだよ」
小さなころに見たなんとか星人ってのを思いだして笑いながら月を見上げた。
「今日流星群なんだよね。見ようと思ってたのに忙しさで忘れていたな」
紫苑は窓辺によりかかりゆっくりと神無月の方に視線を向けた。
「いやな予感がするんだよ」
「なんの?」
鈍感な神無月には繊細な空気の流れは読み取れないらしく、紫苑のセリフに本気で首をひねっていた。
「約束覚えてるか?」
唐突に昔話を始めた紫苑に、たいして深く考えもせず、キッチンの端にあったブリオッシュに手を伸ばす。
「まだお互いに名前も知らなかった頃のあの約束か?」
真面目な話に、背筋をただした。
「うん、自分のバースすら知らなかったあの日、夢中で約束したよな」
「ああ」
「――もしこの先僕が誰かに抱かれても、それでも僕はいつか貴方と番たい。その為にはきちんとしたオメガになりたいな」
そんな内容だったな。神無月がおでこにキスをしながら言った。
「ああ、お前は俺以外抱かないとか出来もしないこと言っちゃってさ」
「出来なくはないぞ!未だに他のやつは抱いてない」
「まじで?なら箱根で俺と出会った時はまだ童貞君かよ」
まじかと笑う紫苑に右手が友達だと答えた。
二人はクスクス笑いながらホットワインに口をつけ、そのまま店のカウンターにもたれ掛かり、むしゃぼるような口づけをかわした。
「あの時別れ際に柊は言ったんだ。今は名前も聞かない。でもいつか俺は君を探しだし大人になったら君を抱く。それまで誰にも抱かれるなって」
「ああ……そしたらさ……」
神無月の口元が緩やかに笑うと小さな音がフフっと漏れた。
「僕だって男だから抱かれるんじゃなく、お前を抱いてやるって言い返していたな」
「だな」
「その約束って仮にこれから誰かに抱かれたり、誰かを抱いたりしたらなかった事になるのかな」
しきりに肘をさするその姿に、神無月は初めて嫌な予感がした。
「もし、僕が誰かに抱かれても、それでもお前はまだ僕を抱いてくれる?」
「縁起でもないこと言うな」
あの時、何故もっと深く聞かなかったのか、今さら後悔しても遅かった。
◇
「あー、お前が誰にぐちゃぐちゃにされても、俺はお前を抱いてやる。だから生きろよ、美月……」
流れる血を拭いながら遠くなる意識に美月の笑顔を思い出していた。
意識を保つために付けた傷跡に力をこめた。
◇
「ねえ、柊、もしだよ、もし……」
怒涛の忙しさを終えた年末、ホットワインを持った紫苑が言いづらそうに神無月に歩み寄った。
「なんだよ、もしもしばっかり言って、もしもし星人かよ」
手渡されたホットワインに、シナモンスティックを突っ込みながら茶化すと、スタスタ勢い良く歩いてきた紫苑におでこにペチンとデコピンをされた。
「もしもし星人ってなんだよ」
小さなころに見たなんとか星人ってのを思いだして笑いながら月を見上げた。
「今日流星群なんだよね。見ようと思ってたのに忙しさで忘れていたな」
紫苑は窓辺によりかかりゆっくりと神無月の方に視線を向けた。
「いやな予感がするんだよ」
「なんの?」
鈍感な神無月には繊細な空気の流れは読み取れないらしく、紫苑のセリフに本気で首をひねっていた。
「約束覚えてるか?」
唐突に昔話を始めた紫苑に、たいして深く考えもせず、キッチンの端にあったブリオッシュに手を伸ばす。
「まだお互いに名前も知らなかった頃のあの約束か?」
真面目な話に、背筋をただした。
「うん、自分のバースすら知らなかったあの日、夢中で約束したよな」
「ああ」
「――もしこの先僕が誰かに抱かれても、それでも僕はいつか貴方と番たい。その為にはきちんとしたオメガになりたいな」
そんな内容だったな。神無月がおでこにキスをしながら言った。
「ああ、お前は俺以外抱かないとか出来もしないこと言っちゃってさ」
「出来なくはないぞ!未だに他のやつは抱いてない」
「まじで?なら箱根で俺と出会った時はまだ童貞君かよ」
まじかと笑う紫苑に右手が友達だと答えた。
二人はクスクス笑いながらホットワインに口をつけ、そのまま店のカウンターにもたれ掛かり、むしゃぼるような口づけをかわした。
「あの時別れ際に柊は言ったんだ。今は名前も聞かない。でもいつか俺は君を探しだし大人になったら君を抱く。それまで誰にも抱かれるなって」
「ああ……そしたらさ……」
神無月の口元が緩やかに笑うと小さな音がフフっと漏れた。
「僕だって男だから抱かれるんじゃなく、お前を抱いてやるって言い返していたな」
「だな」
「その約束って仮にこれから誰かに抱かれたり、誰かを抱いたりしたらなかった事になるのかな」
しきりに肘をさするその姿に、神無月は初めて嫌な予感がした。
「もし、僕が誰かに抱かれても、それでもお前はまだ僕を抱いてくれる?」
「縁起でもないこと言うな」
あの時、何故もっと深く聞かなかったのか、今さら後悔しても遅かった。
◇
「あー、お前が誰にぐちゃぐちゃにされても、俺はお前を抱いてやる。だから生きろよ、美月……」
流れる血を拭いながら遠くなる意識に美月の笑顔を思い出していた。
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