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第四章 会いたい
60弥生 紫苑の覚悟⑤
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太陽の光で目が覚めた。
「いたっ」
腰をさすりながら寝返りをうった。振り向いたすぐ先に白城の顔があり、紫苑は目の前の綺麗な顔に一瞬びくっとした。そのまま視線をずらすと、真っ黒な髪の毛が良い匂いをさせて枕に流れている。指先に髪の毛を絡めるとあまりの甘い香りに鼻先を埋め息を吸い込んだ。
「美月……何をしているんだ」
えらく優しい響きに夢と現の境目がぼやけていく。寝ていると思っていた白城の目が覚めているとわかって、そのまま背を向けた。
――俺は何をしているんだ。
――俺の幸せを壊したやつなのに。
「み――つき、こっちを向いて 」
冷たい足先を絡められ温度をわけあった。
「冷たいってば……」
「俺は暖かいよ」
小さな声で答えた紫苑の頬にキスをし白城は紫苑を後ろから抱き締めた。
「腰痛いのか?」
「誰のせいだと思ってるんですか……」
昨夜は珍しく相当無茶をした。
従来なら女中達に二時間お尻を調教された後、突っ込める状態に仕上げられ、最後白城に30分程好き放題注挿されるのがこの屋敷の普通であるらしい。しかしながらそんなお遊びを紫苑はされたことがなく、なぜか最初からすこしばかりベクトルが違う様な気がした。
二時間の調教はあるものの、その後の白城との情事はなぜか少し甘い。
お風呂でイチャイチャしたり、普通の恋人のようにご飯を作ったり、テレビをみたり、たまに紫苑の失態で白城が嫉妬で狂うこともあるけれどそれだってラチってきてやることかと問われれば、首を捻る事になる。
「紫苑、キスしたい」
しても良いかとか、キスをしろとかではなかった。白城は基本的に王様体質だ。お願いなんか……しなかったのに。
「するよ?」
「さっさとしたらいいだ」
ろ、と言う唇に白城の唇が重なった。
今までのキスよりなんだか暖かくて柔らかかった。
優しく触れるようなバードキスをして白城が唇を離すと、二人はお互いを見つめあった。
――神無月の顔が浮かび、とっさに紫苑は目を閉じた。
白城に拉致されて神無月と引き剥がされて三ヶ月、約束の半年の半分が過ぎた。
その間に死にたいと思うほどの目には白城本人からは受けていない。
白城は本当に紫苑の事が好きなのだ。ただ家柄やいままでの生きざまから、真っ向から告白する。なんて芸当はとても出来ない。それがこんな自分勝手な行動に出る羽目になった。
「美月……そんな顔をするな」
「旦那様こそ、そんな泣きそうな顔をされないで下さい。大丈夫ですか?」
恋なのだと思った。紫苑が神無月に寄せる想いと同等の重さが白城から漏れてきていた。
ただ白城にとっては決して認めてはならない恋であった。沢山のものを背負う男には、自分の激情だけでは動けないしがらみがある。だからこその半年なのだと、元来優しくて気の回る紫苑は瞬間的に理解した。
――僕はどうすればいいのだろう。
「誰のものにもなるなよ……」
消えそうな悲痛な訴えに、聞こえない振りをするしかない紫苑は……ただ唇を貪る白城の背中に手を回した。
――ごめんなさい。
「いたっ」
腰をさすりながら寝返りをうった。振り向いたすぐ先に白城の顔があり、紫苑は目の前の綺麗な顔に一瞬びくっとした。そのまま視線をずらすと、真っ黒な髪の毛が良い匂いをさせて枕に流れている。指先に髪の毛を絡めるとあまりの甘い香りに鼻先を埋め息を吸い込んだ。
「美月……何をしているんだ」
えらく優しい響きに夢と現の境目がぼやけていく。寝ていると思っていた白城の目が覚めているとわかって、そのまま背を向けた。
――俺は何をしているんだ。
――俺の幸せを壊したやつなのに。
「み――つき、こっちを向いて 」
冷たい足先を絡められ温度をわけあった。
「冷たいってば……」
「俺は暖かいよ」
小さな声で答えた紫苑の頬にキスをし白城は紫苑を後ろから抱き締めた。
「腰痛いのか?」
「誰のせいだと思ってるんですか……」
昨夜は珍しく相当無茶をした。
従来なら女中達に二時間お尻を調教された後、突っ込める状態に仕上げられ、最後白城に30分程好き放題注挿されるのがこの屋敷の普通であるらしい。しかしながらそんなお遊びを紫苑はされたことがなく、なぜか最初からすこしばかりベクトルが違う様な気がした。
二時間の調教はあるものの、その後の白城との情事はなぜか少し甘い。
お風呂でイチャイチャしたり、普通の恋人のようにご飯を作ったり、テレビをみたり、たまに紫苑の失態で白城が嫉妬で狂うこともあるけれどそれだってラチってきてやることかと問われれば、首を捻る事になる。
「紫苑、キスしたい」
しても良いかとか、キスをしろとかではなかった。白城は基本的に王様体質だ。お願いなんか……しなかったのに。
「するよ?」
「さっさとしたらいいだ」
ろ、と言う唇に白城の唇が重なった。
今までのキスよりなんだか暖かくて柔らかかった。
優しく触れるようなバードキスをして白城が唇を離すと、二人はお互いを見つめあった。
――神無月の顔が浮かび、とっさに紫苑は目を閉じた。
白城に拉致されて神無月と引き剥がされて三ヶ月、約束の半年の半分が過ぎた。
その間に死にたいと思うほどの目には白城本人からは受けていない。
白城は本当に紫苑の事が好きなのだ。ただ家柄やいままでの生きざまから、真っ向から告白する。なんて芸当はとても出来ない。それがこんな自分勝手な行動に出る羽目になった。
「美月……そんな顔をするな」
「旦那様こそ、そんな泣きそうな顔をされないで下さい。大丈夫ですか?」
恋なのだと思った。紫苑が神無月に寄せる想いと同等の重さが白城から漏れてきていた。
ただ白城にとっては決して認めてはならない恋であった。沢山のものを背負う男には、自分の激情だけでは動けないしがらみがある。だからこその半年なのだと、元来優しくて気の回る紫苑は瞬間的に理解した。
――僕はどうすればいいのだろう。
「誰のものにもなるなよ……」
消えそうな悲痛な訴えに、聞こえない振りをするしかない紫苑は……ただ唇を貪る白城の背中に手を回した。
――ごめんなさい。
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