αと嘘をついたΩ

赤井ちひろ

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第四章 会いたい

55如月 神無月の戦い

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 ――帰ってくる、かも、しれない。
 ――かも。
 つまり確率は5分5分だって事だ。
 言葉は凶器だと知っていた。知っていただけで本当の意味で理解は出来てはいなかった。
「言っていいことと悪い事がある」
 神無月は睨むように飛騨貴幸を見た。
「事実を冷静に理解しろ」
「ふざけんな!なら貴様は恋人が帰ってこないかもしれないなんて冷静でいられたのか」
「いられるわけないだろ。乗り込んだにきまってる」
「なら俺の気持ちも理解できるだろ、何で止めるんだ」
「後悔したからだ……」
 怒涛のやり取りに周囲の人間はさらに静かになっていき、飛騨のセリフに神無月は黙るしかなかった。
 静寂を切り裂いたのは四谷だった。
「貴ちゃんはね、神無月君。助けてって電話口で叫ぶ僕を助けに来てくれたよ。でもそれは僕にとっては悪夢の始まりだった。貴ちゃんが到達するの確認した白城に薬を打たれて、恋人の目の前で淫乱に叫ぶ自分を見られたショックで僕は精神を崩壊させていった。自分で呼んだのに何で来たんだ、って罵倒して……。それでも縛り付けられて僕が白城によって何度も逝かされるところを貴ちゃんは目をそむけもしなかったよ。僕は自分勝手な奴だから、目を背けない貴ちゃんにお前なんか人じゃないって叫んで、それが記憶を失う最後の会話」
「なんでそれを……」
「知ってるのかって?」
「白城に飽きられたときに貴ちゃんに返却してくれたんだよ。その時僕は貴ちゃんを忘れていて、白城に捨てられるのが嫌で彼に泣きついたんだ。恋人の目の前で、最低だよね。で最後にプレゼントだって目の前でビデオを見せられた。そこに映っていた僕は死んでしまいたいくらい最低な人種だったからだよ」
「もういいから、紅葉。帰ってきたんだから、もう、忘れよう。一から作り直すって約束しただろう」
 四谷ははにかむように可愛く笑うと――だから、貴ちゃんは自分が行かなければ僕がこんなに傷つくことは無かったんだって思っているんだ。と神無月に言った。
「俺は紅葉を追い詰めた。見られたくないだろう姿を見せることになったのは軽率に動いた俺のせいだ」
 拳を握り神無月をにらみ返した。
「だから簡単に誘いに乗るなと言っているんだ」
 皆は小さく頷いた。
「それよりも涼風にばれないように距離を置かないと、神無月君はフリーのアルファなんだから」
「辞めてもらうのはだめですか?」
 おでん屋のご主人が僕もそう言ったよ、でも二人に反対されたと教えてくれた。
「反対です。涼風の性格が細分まで理解できない以上、ヘタを打って紫苑君に被害が及ぶのは避けたいです」
「解った。とりあえずアルファ用の薬を服用し続けてみる。副作用のことは今は考えないよ」
 そろそろ出勤時間だと鍵を開けた。その十分後、涼風はバンビーノの扉を開けた。
「こんにちは、神無月さん声をかけてくれてありがとうございます」
「いや、こちらこそ、紫苑のわがままで海外に勉強に行くなんて電話一本で済まされたから困ってしまって、助かるよ」
 感情を押し殺すことがこんなにも難しいなんて神無月は初めて知った。
「紫苑さんて本当に神無月さんの事どうでもいいんですね」
 ピクリと口元がゆがむのを隠しながら「ほんとにな」というしかなかった。



 
 
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