αと嘘をついたΩ

赤井ちひろ

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第四章 会いたい

54如月 唯一の帰還者⑤

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 きょとんとしている神無月に「君、案外鈍いんだね」とおでん屋のご主人の意地悪な言葉が、銃弾の様に心臓めがけて飛んできた。
「涼風君だよ。今回白城があそこまで簡単に、誰にも見つからず紫苑君を連れ去れたのはまさか偶然だと思っていないよね」
「どういうことですか」
「ここまで言ってもまだ解らないとか本気?」
 呆れる四谷に恋人と呼ばれる男はまぁまぁと肩を抱き寄せた。
「神無月さん、ご主人の言ってる意味理解できませんか?」
「涼風君のヒートに当てられるなって言われているように聞こえてしまって、申し訳ない」
 冷めたコーヒーを飲み干すと、四谷の恋人は二杯目を入れにエスプレッソマシーンに足を運んだ。
「言っていますよ。わかっているではないですか」
 砂糖を三つ入れた。
「なんでうなじを嚙むんだ?愛し合っているわけじゃないのに」
「確かに愛し合っているわけではありません」
 会ってのところの語気を強め手を交差し肘を擦った。
「涼風君は君を狙っている」
「俺を?」
 いつもよりも数段高い声が裏返ったように響いた。
「そうだよ。知らなかった?ちなみに紫苑君は知っていたよ」
「なんで美月が……」
 エスプレッソを人数分入れに来た四谷は神無月の方を振り返りながら「ライバルだから」と繋げた。
「ライバル?」 
「そう……どちらも貴方を好きでしょう。しかも彼のアルファと偽っていた言動から考えれば、紫苑君は恐らく不妊体質だ。逆に涼風君はヒートも強い。所謂子供を孕みやすい。完璧なオメガ」
「でも俺が好きなのは……」
 神無月は拳を握り彼らを睨む目には怒気が宿っていた。
「そんなに睨まないで下さい。シェフが好きなのが紫苑君なのは涼風君だって解っています。だから強行手段にでたんでしょう」
「どういう事だ?」
 頭の中にはてなが沢山飛び思考回路はショート寸前だ。
「本当にシェフって紫苑君しか見えてないんですね。ある意味ラブラブですけど、盲目過ぎて策略に気がつかずでしたね」
「嵌められたって事か?」
「恐らく、涼風君は紫苑君がオメガだって知っていた。同族嫌悪ってやつですよ。ただの勘でしょうが、紫苑君の動揺からそれは正しいのだと判断した。で彼は白城の策略の片棒を担いだ」
「妥当だな」
 四谷の意見にさっきまで黙っていた恋人は口を挟んだ。
「あんたの意見は聞いてない」
「貴幸だ。飛騨貴幸ひだたかゆき
「は?」
「俺の名前だ、馬鹿。つまり今から紫苑君が帰ってくるかもしれない間に店を守るのは、愛するものを嵌めたオメガとだって事だと言っている」
 
 
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