αと嘘をついたΩ

赤井ちひろ

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第三章 共生

42睦月 狙われた紫苑③

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「やぁ紫苑君。久しぶりだね」
 白城が今日も定刻で現れると紫苑はぺこりと会釈をする。
「こんにちわ、今日はカスレかポトフですよ」
 会釈なんて行為がこんなにも様になる。白城は自身の屋敷で泣きわめき諦めて尻を差し出し四つん這いになる紫苑を想像し、ゴクリと唾を飲んだ。
 警戒心を持たせないためにも神無月にも無害アピールをしなければと爽やかに対応した。極力紫苑を見ない様に努めながら。
「神無月シェフのオススメはどちらですか?」
 手に触れたくなる距離感をあえて広げ、神無月に聞いた。
 神無月は眉間に寄った皺を手の指で伸ばすと、ちらりと白城を見た。
「自分のオススメですか?紫苑じゃなくて?」
「何をいっているんですか。シェフ以外に誰に聞くんです?」
「この前紫苑を推しだとおっしゃいましたから……」
 言葉を選びながら神無月は白城の方をみた。
「いやだな、シェフ。あんな冗談を真に受けたんですか?」
「冗談なんて口振りじゃなかっただろう」
  苛立ちを露にする。
「何、二人して微妙な空気が流れてて怖いですよ。それに冗談って何のことですか」
 紫苑が横から口を挟み二人の間に流れていた空気を断ちに来た。
「相手はお客様なんですから、柊らしくない……」
 小さな声で神無月に囁いた。
「わりぃ。でもアイツ」
「柊。お客様をアイツ呼ばわりはだめですよ」
 神無月がムッとして黙りを決め込んだ。
 紫苑はクルリと体を反転させ白城に頭をさげた。
「すいません。シェフも悪気はないんです。許して下さいませんか」
「怒ってなんかないですよ。いやね、僕がこの前紫苑君が休みの日に君を推しだと言ったんだよ。でその冗談を真に受けちゃって。僕の言い方が悪かったんですよ。紫苑君はアルファですから、選ばれる側ではなく選ぶ側の人間ですしね」
 神無月の眉がぴくんと動いた。
 紫苑はオメガだ。
 ただアルファと偽って来たからお客様はアルファだと思っている。
 紫苑は白城が紫苑をオメガだと気がついていることを知らなかった。
「選ぶ選ばれるとかは、ちょっと理解がし難いのですが、神無月の暴言を許していただけるなら何よりです」
 神無月の無言の抵抗をあやすように、紫苑は大人の対応に努めた。
「ほんと神無月君は紫苑君を好きだよね。幼なじみかなんかかい?」
「あんたに関係ない」
「シェフ!」
「いやいや立ち入り過ぎた。申し訳ない……。今日はカスレにしましょうか。食べる時間がなくなりますから」
 当たり障りのない会話を定期的に投げ込み神無月から白城の危険なイメージを消しに行こうとしているのは明白だった。でないと会合の欠席ですらさせそうな危うい匂いがした。
 アルファは選ぶ側。
 オメガは選ばれる側。
 ――嫌な言い方をする白城に紫苑はヘドが出る思いを飲み込み、営業スマイルを貼り付けた。
「カスレのご注文を頂きました」
 

 
 
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