43 / 88
第三章 共生
42睦月 狙われた紫苑③
しおりを挟む
「やぁ紫苑君。久しぶりだね」
白城が今日も定刻で現れると紫苑はぺこりと会釈をする。
「こんにちわ、今日はカスレかポトフですよ」
会釈なんて行為がこんなにも様になる。白城は自身の屋敷で泣きわめき諦めて尻を差し出し四つん這いになる紫苑を想像し、ゴクリと唾を飲んだ。
警戒心を持たせないためにも神無月にも無害アピールをしなければと爽やかに対応した。極力紫苑を見ない様に努めながら。
「神無月シェフのオススメはどちらですか?」
手に触れたくなる距離感をあえて広げ、神無月に聞いた。
神無月は眉間に寄った皺を手の指で伸ばすと、ちらりと白城を見た。
「自分のオススメですか?紫苑じゃなくて?」
「何をいっているんですか。シェフ以外に誰に聞くんです?」
「この前紫苑を推しだとおっしゃいましたから……」
言葉を選びながら神無月は白城の方をみた。
「いやだな、シェフ。あんな冗談を真に受けたんですか?」
「冗談なんて口振りじゃなかっただろう」
苛立ちを露にする。
「何、二人して微妙な空気が流れてて怖いですよ。それに冗談って何のことですか」
紫苑が横から口を挟み二人の間に流れていた空気を断ちに来た。
「相手はお客様なんですから、柊らしくない……」
小さな声で神無月に囁いた。
「わりぃ。でもアイツ」
「柊。お客様をアイツ呼ばわりはだめですよ」
神無月がムッとして黙りを決め込んだ。
紫苑はクルリと体を反転させ白城に頭をさげた。
「すいません。シェフも悪気はないんです。許して下さいませんか」
「怒ってなんかないですよ。いやね、僕がこの前紫苑君が休みの日に君を推しだと言ったんだよ。でその冗談を真に受けちゃって。僕の言い方が悪かったんですよ。紫苑君はアルファですから、選ばれる側ではなく選ぶ側の人間ですしね」
神無月の眉がぴくんと動いた。
紫苑はオメガだ。
ただアルファと偽って来たからお客様はアルファだと思っている。
紫苑は白城が紫苑をオメガだと気がついていることを知らなかった。
「選ぶ選ばれるとかは、ちょっと理解がし難いのですが、神無月の暴言を許していただけるなら何よりです」
神無月の無言の抵抗をあやすように、紫苑は大人の対応に努めた。
「ほんと神無月君は紫苑君を好きだよね。幼なじみかなんかかい?」
「あんたに関係ない」
「シェフ!」
「いやいや立ち入り過ぎた。申し訳ない……。今日はカスレにしましょうか。食べる時間がなくなりますから」
当たり障りのない会話を定期的に投げ込み神無月から白城の危険なイメージを消しに行こうとしているのは明白だった。でないと会合の欠席ですらさせそうな危うい匂いがした。
アルファは選ぶ側。
オメガは選ばれる側。
――嫌な言い方をする白城に紫苑はヘドが出る思いを飲み込み、営業スマイルを貼り付けた。
「カスレのご注文を頂きました」
白城が今日も定刻で現れると紫苑はぺこりと会釈をする。
「こんにちわ、今日はカスレかポトフですよ」
会釈なんて行為がこんなにも様になる。白城は自身の屋敷で泣きわめき諦めて尻を差し出し四つん這いになる紫苑を想像し、ゴクリと唾を飲んだ。
警戒心を持たせないためにも神無月にも無害アピールをしなければと爽やかに対応した。極力紫苑を見ない様に努めながら。
「神無月シェフのオススメはどちらですか?」
手に触れたくなる距離感をあえて広げ、神無月に聞いた。
神無月は眉間に寄った皺を手の指で伸ばすと、ちらりと白城を見た。
「自分のオススメですか?紫苑じゃなくて?」
「何をいっているんですか。シェフ以外に誰に聞くんです?」
「この前紫苑を推しだとおっしゃいましたから……」
言葉を選びながら神無月は白城の方をみた。
「いやだな、シェフ。あんな冗談を真に受けたんですか?」
「冗談なんて口振りじゃなかっただろう」
苛立ちを露にする。
「何、二人して微妙な空気が流れてて怖いですよ。それに冗談って何のことですか」
紫苑が横から口を挟み二人の間に流れていた空気を断ちに来た。
「相手はお客様なんですから、柊らしくない……」
小さな声で神無月に囁いた。
「わりぃ。でもアイツ」
「柊。お客様をアイツ呼ばわりはだめですよ」
神無月がムッとして黙りを決め込んだ。
紫苑はクルリと体を反転させ白城に頭をさげた。
「すいません。シェフも悪気はないんです。許して下さいませんか」
「怒ってなんかないですよ。いやね、僕がこの前紫苑君が休みの日に君を推しだと言ったんだよ。でその冗談を真に受けちゃって。僕の言い方が悪かったんですよ。紫苑君はアルファですから、選ばれる側ではなく選ぶ側の人間ですしね」
神無月の眉がぴくんと動いた。
紫苑はオメガだ。
ただアルファと偽って来たからお客様はアルファだと思っている。
紫苑は白城が紫苑をオメガだと気がついていることを知らなかった。
「選ぶ選ばれるとかは、ちょっと理解がし難いのですが、神無月の暴言を許していただけるなら何よりです」
神無月の無言の抵抗をあやすように、紫苑は大人の対応に努めた。
「ほんと神無月君は紫苑君を好きだよね。幼なじみかなんかかい?」
「あんたに関係ない」
「シェフ!」
「いやいや立ち入り過ぎた。申し訳ない……。今日はカスレにしましょうか。食べる時間がなくなりますから」
当たり障りのない会話を定期的に投げ込み神無月から白城の危険なイメージを消しに行こうとしているのは明白だった。でないと会合の欠席ですらさせそうな危うい匂いがした。
アルファは選ぶ側。
オメガは選ばれる側。
――嫌な言い方をする白城に紫苑はヘドが出る思いを飲み込み、営業スマイルを貼り付けた。
「カスレのご注文を頂きました」
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説



【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ
樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース
ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー
消えない思いをまだ読んでおられない方は 、
続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。
消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が
高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、
それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。
消えない思いに比べると、
更新はゆっくりになると思いますが、
またまた宜しくお願い致します。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる