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第三章 共生
34師走 もう一人のオメガ②
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ふわりと風にのり強烈な甘いにおいが充満する。まるで沈丁花のような濃厚な香りに神無月は何も気が付かず、相変わらずの鈍感具合を発揮していた。
チッ、紫苑は心の中で舌打ちした。
「すいません。バイトの募集していませんか」
甲高いかわいらしい声がそう言った。
ヒート明けだろう、その少年は何ともはかなげな雰囲気を醸し出し、それなのに見た目の控え目さとは裏腹にえらく無遠慮に神無月に近づいた。
「こんにちは、君はなぜそれを」
差し出された少年の手をじっと見つめた神無月は、紫苑から醸し出される雰囲気には気が付かず、にっこり笑うと大きな右手を差し出した。
「握手会してるみたいですね。僕シェフのお料理のファンなんです」
喜びが隠せないくらいに声が弾んでいた。
「まだここが再オープンしてから5回しか来てないんですけどすっかりシェフを好きになっちゃいました」
――シェフヲスキニナッチャイマシタ?
「そんなにおいしいと言ってもらえて本当に嬉しいよ」
神無月は料理のことを言っていると思い込み、裏なんか何も考えない。それが神無月の良い所ではあるものの紫苑としては手放しでは喜べない状況であった。
「バイト採るか考えていたから嬉しいんだけど、うちはオメガは雇わないことにしているんだ。君はオメガだよね」
首のプロテクターを指し、神無月がそう言った。
「オメガは雇わない?いるのにですか?」
「何のことだ」
神無月の切り返しにその少年は紫苑を見ていった。
「僕の名前は涼風 芳流。確かに僕はオメガだけど……もうここには一人オメガがいるじゃない」
「だから何のことだ」
「この人はオメガでしょ」
初対面でオメガだとバレるほどにはわかりやすくはない紫苑としては、まさかにおいが漏れているのかと見えないように手を鼻の近くに持って行く。
「漏れてませんよ。僕の鼻は特殊なだけです」
神無月には聞こえないように小さな声が耳元でささやいた。神無月に向ける声とは明らかに違う低い声に紫苑はいい気がしない。
「紫苑のことか?こいつは特殊なんだ。抑制剤でほぼ安全、でも君はいかにもオメガだしそれも隠してないしね」
「これですか?」
プロテクターを指さした。
「正真正銘のオメガだろ、何かあってからでは困るしな。アルファのお客様もいるから」
「自分の身は自分で守りますよ。ヒートの時は休みますし迷惑かけませんから」
「イヤ、しかしな」
涼風は紫苑のもとに歩み寄り猫なで声を出した。
「お願いしますよ。紫苑さんからもシェフに行ってください」
そうすれば世間には貴方がフリーのオメガだなんて公表しませんから。しかもずっと嘘ついていたなんて。
そうじゃないとついぺらぺら言っちゃいそうですよ。
紫苑は普段出ない舌打ちをし、涼風をじろりとにらんだ。
「おおーこわ」
神無月に聞こえないようにやるあたり狙ってる。
「ねぇ紫苑さーん。いいでしょ?」
作られたかわいらしい声にゾッとした。
フリーのオメガだなんて吹聴はされたくない。
「なぁ神無月、料理のファンみたいだしクリスマスだけでもどうだ?」
「まあ、確かに2人くらい欲しいしお前がそう言うならいいか」
嵌められた紫苑は心底イヤだと思いながらも笑顔を張り付け手を出した。
「宜しくお願いします」
鈴風は口の端をあげながら何かを企むように、紫苑にだけ好戦的な視線を向けた。
クリスマス前の最悪のスタートだった。
チッ、紫苑は心の中で舌打ちした。
「すいません。バイトの募集していませんか」
甲高いかわいらしい声がそう言った。
ヒート明けだろう、その少年は何ともはかなげな雰囲気を醸し出し、それなのに見た目の控え目さとは裏腹にえらく無遠慮に神無月に近づいた。
「こんにちは、君はなぜそれを」
差し出された少年の手をじっと見つめた神無月は、紫苑から醸し出される雰囲気には気が付かず、にっこり笑うと大きな右手を差し出した。
「握手会してるみたいですね。僕シェフのお料理のファンなんです」
喜びが隠せないくらいに声が弾んでいた。
「まだここが再オープンしてから5回しか来てないんですけどすっかりシェフを好きになっちゃいました」
――シェフヲスキニナッチャイマシタ?
「そんなにおいしいと言ってもらえて本当に嬉しいよ」
神無月は料理のことを言っていると思い込み、裏なんか何も考えない。それが神無月の良い所ではあるものの紫苑としては手放しでは喜べない状況であった。
「バイト採るか考えていたから嬉しいんだけど、うちはオメガは雇わないことにしているんだ。君はオメガだよね」
首のプロテクターを指し、神無月がそう言った。
「オメガは雇わない?いるのにですか?」
「何のことだ」
神無月の切り返しにその少年は紫苑を見ていった。
「僕の名前は涼風 芳流。確かに僕はオメガだけど……もうここには一人オメガがいるじゃない」
「だから何のことだ」
「この人はオメガでしょ」
初対面でオメガだとバレるほどにはわかりやすくはない紫苑としては、まさかにおいが漏れているのかと見えないように手を鼻の近くに持って行く。
「漏れてませんよ。僕の鼻は特殊なだけです」
神無月には聞こえないように小さな声が耳元でささやいた。神無月に向ける声とは明らかに違う低い声に紫苑はいい気がしない。
「紫苑のことか?こいつは特殊なんだ。抑制剤でほぼ安全、でも君はいかにもオメガだしそれも隠してないしね」
「これですか?」
プロテクターを指さした。
「正真正銘のオメガだろ、何かあってからでは困るしな。アルファのお客様もいるから」
「自分の身は自分で守りますよ。ヒートの時は休みますし迷惑かけませんから」
「イヤ、しかしな」
涼風は紫苑のもとに歩み寄り猫なで声を出した。
「お願いしますよ。紫苑さんからもシェフに行ってください」
そうすれば世間には貴方がフリーのオメガだなんて公表しませんから。しかもずっと嘘ついていたなんて。
そうじゃないとついぺらぺら言っちゃいそうですよ。
紫苑は普段出ない舌打ちをし、涼風をじろりとにらんだ。
「おおーこわ」
神無月に聞こえないようにやるあたり狙ってる。
「ねぇ紫苑さーん。いいでしょ?」
作られたかわいらしい声にゾッとした。
フリーのオメガだなんて吹聴はされたくない。
「なぁ神無月、料理のファンみたいだしクリスマスだけでもどうだ?」
「まあ、確かに2人くらい欲しいしお前がそう言うならいいか」
嵌められた紫苑は心底イヤだと思いながらも笑顔を張り付け手を出した。
「宜しくお願いします」
鈴風は口の端をあげながら何かを企むように、紫苑にだけ好戦的な視線を向けた。
クリスマス前の最悪のスタートだった。
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