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第三章 共生
29霜月 揺れる想い
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解約するしない
ご飯の後にデザートを食べる食べない
コーヒーに砂糖を入れる入れない
洋菓子か和菓子か
肉か魚か
たばこを吸う吸わない
女も抱ける抱けない
なんなら目玉焼きは半熟か固焼きか
目玉焼きには塩か醤油かソースかケチャップか
最終的には、噛むか噛まないか……
神無月と紫苑には衝突するポイントは沢山あった。
譲れるポイントは神無月が全部譲った。
それでも項を噛む事とこの同棲問題は、頑として譲らなかった。
「全部譲っただろ。同棲は美月が折れろ」
店の中でコンソメを作りながらおもむろに神無月が発した言葉に、制服に着替えながら嫌そうに返事を返す。
「いやいやレベルが違うでしょう。なんで目玉焼きと同レベルなんですか」
「細かい事を言うなよ。それは数の差でペイされてるだろう」
「ペイされてるって今時なかなか聞きませんよ」
「話を逸らすなよ」
卵の殻が沢山置かれていた。神無月は見事な手際の良さで黄身と白身と殻をそれぞれ別のボールに入れていく。
「始めて見たとき衝撃的でしたよ。知識では知っていましたけど実際に見ると圧巻」
着替え終わった紫苑はキッチン前のカウンターから興味深げに覗き込み嬉しそうにフフフと笑いながら、窓を磨きにかかった。
「圧巻は美月の方だよ。そんなに窓やガラスがピカピカになるなんて思いもしなかった」
これで話が逸れるとは思っていない紫苑は庭に逃げるべきか考えていた。
「庭……今逃げようと思っただろ」
ギクリと肩に緊張が走った。
「まさか、何故逃げなければならないんですか」
神無月の顔を見ないまま、無心で窓磨きに精を出す。
「同棲しよう」
「してるでしょう」
顔を見ると動揺が伝わる様でどうしても神無月を見ることが出来ない。
「美月、こっち見ろよ!」
神無月の声が1オクターブ下がった。厄介な奴だ。
「声を荒げないで下さい」
仕方が無しにゆらりと体を回転させ、逆光を利用し窓際の壁にもたれ掛かる。これなら眩しくてあんまり見れないから調度良かった。
「なあ、俺はいつでも一緒に居たいし、いつでも顔を見ていたい。なんなら美月の今の家の家賃、俺が出すからせめて……帰る日数を減らしてくれ」
最大限の譲歩なのだろう。今すぐにでも抱きついてしまいたい。
――甘い夢、見すぎだろ。紫苑の頭に声がした。
「いつでも、ですか。今はそうかも知れませんけど、いつでもはいつまでもと同義ではありませんよ」
卵の殻をコンソメをひいている鍋に投入した。
「俺は卵の殻になりたいよ、美月」
また意味不明な事を言い出す。
「僕は卵の殻と恋人にはなりません」
相変わらずの塩対応に慣れているのか神無月は気にせず手招きして紫苑を呼んだ。
「卵の殻には不純物を取り除く作用があるんだ。コンソメを作るために沢山の野菜の皮や芯がはいる。そこから生まれる灰汁を卵の殻達が集めてくれるんだ」
「それは知っていますけど、殻になりたいって意味不明でしょう」
……神無月はじっと鍋を見つめ、ゆらりとエスプレッソマシンに移動した。
「飲むか?」
エスプレッソを飲むか……と言うことか。
素直になれない性格に嫌気をさしながら、それでもなるべく誘いには乗るように気を付けていた。
「はい、ダブルで」
優しく微笑んでいるだろう顔が、逆光で見えないのが残念だった。
「そこに座れよ。タルトタタン、切ってやる」
カウンターをさされ紫苑は黙って椅子を引いた。
昨日カゴ一杯にあった紅玉はアップルパイになるだろうと思っていたが、まさかタルトタタンを作っていたとは……。
「好きです」
「熱烈だな」
大きな笑い事が響いた。
「違いますよ……」
耳まで真っ赤に染めた顔が、神無月を睨んだ。
「紅玉への愛か?まあそういう事にしておいてやるよ」
ご飯の後にデザートを食べる食べない
コーヒーに砂糖を入れる入れない
洋菓子か和菓子か
肉か魚か
たばこを吸う吸わない
女も抱ける抱けない
なんなら目玉焼きは半熟か固焼きか
目玉焼きには塩か醤油かソースかケチャップか
最終的には、噛むか噛まないか……
神無月と紫苑には衝突するポイントは沢山あった。
譲れるポイントは神無月が全部譲った。
それでも項を噛む事とこの同棲問題は、頑として譲らなかった。
「全部譲っただろ。同棲は美月が折れろ」
店の中でコンソメを作りながらおもむろに神無月が発した言葉に、制服に着替えながら嫌そうに返事を返す。
「いやいやレベルが違うでしょう。なんで目玉焼きと同レベルなんですか」
「細かい事を言うなよ。それは数の差でペイされてるだろう」
「ペイされてるって今時なかなか聞きませんよ」
「話を逸らすなよ」
卵の殻が沢山置かれていた。神無月は見事な手際の良さで黄身と白身と殻をそれぞれ別のボールに入れていく。
「始めて見たとき衝撃的でしたよ。知識では知っていましたけど実際に見ると圧巻」
着替え終わった紫苑はキッチン前のカウンターから興味深げに覗き込み嬉しそうにフフフと笑いながら、窓を磨きにかかった。
「圧巻は美月の方だよ。そんなに窓やガラスがピカピカになるなんて思いもしなかった」
これで話が逸れるとは思っていない紫苑は庭に逃げるべきか考えていた。
「庭……今逃げようと思っただろ」
ギクリと肩に緊張が走った。
「まさか、何故逃げなければならないんですか」
神無月の顔を見ないまま、無心で窓磨きに精を出す。
「同棲しよう」
「してるでしょう」
顔を見ると動揺が伝わる様でどうしても神無月を見ることが出来ない。
「美月、こっち見ろよ!」
神無月の声が1オクターブ下がった。厄介な奴だ。
「声を荒げないで下さい」
仕方が無しにゆらりと体を回転させ、逆光を利用し窓際の壁にもたれ掛かる。これなら眩しくてあんまり見れないから調度良かった。
「なあ、俺はいつでも一緒に居たいし、いつでも顔を見ていたい。なんなら美月の今の家の家賃、俺が出すからせめて……帰る日数を減らしてくれ」
最大限の譲歩なのだろう。今すぐにでも抱きついてしまいたい。
――甘い夢、見すぎだろ。紫苑の頭に声がした。
「いつでも、ですか。今はそうかも知れませんけど、いつでもはいつまでもと同義ではありませんよ」
卵の殻をコンソメをひいている鍋に投入した。
「俺は卵の殻になりたいよ、美月」
また意味不明な事を言い出す。
「僕は卵の殻と恋人にはなりません」
相変わらずの塩対応に慣れているのか神無月は気にせず手招きして紫苑を呼んだ。
「卵の殻には不純物を取り除く作用があるんだ。コンソメを作るために沢山の野菜の皮や芯がはいる。そこから生まれる灰汁を卵の殻達が集めてくれるんだ」
「それは知っていますけど、殻になりたいって意味不明でしょう」
……神無月はじっと鍋を見つめ、ゆらりとエスプレッソマシンに移動した。
「飲むか?」
エスプレッソを飲むか……と言うことか。
素直になれない性格に嫌気をさしながら、それでもなるべく誘いには乗るように気を付けていた。
「はい、ダブルで」
優しく微笑んでいるだろう顔が、逆光で見えないのが残念だった。
「そこに座れよ。タルトタタン、切ってやる」
カウンターをさされ紫苑は黙って椅子を引いた。
昨日カゴ一杯にあった紅玉はアップルパイになるだろうと思っていたが、まさかタルトタタンを作っていたとは……。
「好きです」
「熱烈だな」
大きな笑い事が響いた。
「違いますよ……」
耳まで真っ赤に染めた顔が、神無月を睨んだ。
「紅玉への愛か?まあそういう事にしておいてやるよ」
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