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第二章 リ,スタート
6 長月 日常と言う名のデート
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「店いつから再開するんだっけ」
冷蔵庫をあけてお気に入りのハイボールを出す。
最近コンビニで売られているメタリックグリーンのハイボールはアイランドモルト好きな神無月好みの一本らしい。
「最近よく買ってきますね。僕にも下さい」
「赤缶と緑缶どっちがいい」
冷やしてあった2色のハイボールを出して紫苑の目の前にかざす。
「優しい味わいは赤缶でしたっけ」
紫苑がツマミのオイルサーディンをトースターで焼きながらのほほんと答えた。
「スモーク香がしないからな、香りが優しいんだよ」
「なら赤で」
床にしゃがみこみ棚に顔を突っ込んでなにやらごそごそ探してる。
「なに探してるんだ」
後ろから覗き込むように神無月が近寄ってきた。
「近いです」
手でぐいっと顔を押し返し距離をあける。
――やばいでしょ。なんでこんなにパーソナルスペースが狭いんだよ。
「いいじゃないか。ホールとキッチンが仲良しなのは良いことだぜ?」
「そうですけど、でも適度な距離感が有難いんですよ」
――勘弁してほしい。
「へー」
気にもしてなさそうな適当な返事をしながら固めのスクリューキャップを開けた。
「そもそも相容れないポジショニングだと思いますけど」
――ほらな、神無月さんはグラスにも入れないだろ。
押し返した紫苑は、その場から体をするっと抜いた。
「ふーん」
「適当だなぁ」
ほかの棚をあさっている。
「別に適当ではないでしょ。俺は距離近い方が相手のことがよくわかるって思うから、紫苑君はどう思う」
「さぁ、なら今僕が何を探しているかわかるんじゃないですか」
「だから近くないとわからないってば」
神無月は後ろから肩を抱くように覆いかぶさった。
「だからやめてくださいって言っているでしょう」
一気に顔が赤くなる。
――薬、少し飲む頻度あげた方が良さそうだ。
最近判ったことがある。神無月さんは心を許した人間にはゼロ距離になるのだ。
「顔真っ赤、こんなの友達同士なら海外では当たり前だろう。紫苑君は初心なんだな」
「ここは……だって……日本です」
歯切れの悪い返事だ。
「突然されたら誰でも赤くなるでしょう、びっくりしただけですよ。馬鹿にしないでください」
「馬鹿にはしていないだろう」
肩をすくめた。
「言っています」
「可愛いと言っているんだ。そんなにつっかかるなよ」
――だから勘弁してってば。バレたら困るんだよ。
紫苑が焼いたサーディン缶に、神無月はカバンから出した醬油を垂らした。
「なんてとこに醬油隠してるんですか」
口をぽかんと開けた。
「あぁ探し物はこれか、昨日使い切ったから外出ついでに同じものを買ってきた」
「なぁ紫苑君、明日、本屋に行かないか」
サーディンを摘まみながら読んでいた本をぱたんと閉じ、えらく真顔で聞いてきた。
昨日は公園、明日は本屋、この距離感何なんだろう。
そもそも僕たちの関係って主従関係?先輩後輩?友達?
――聞けない。紫苑は感情を飲み込んだ。いつだってこの感情は苦い。
「今日じゃダメなんですか」
「今日は真面目に試作しよう、だてに毎日遊んでいるわけじゃないぜ」
変わる空気感に紫苑自身もスイッチが入った。
「小田原の土地に合わせてフランクかつ海の物で行きますか」
紫苑がそう声をかけると、うみっこに魚で勝負したら寿司屋には絶対に勝てないよ。違うか、と首を傾げた。
「ですね。魚が一番うまいのは生だから」
一瞬僕の手に神無月さんの手が触れた。
――僕はアルファだ、アルファなんだ。
心臓が一人で歩き出す気がした。
冷蔵庫をあけてお気に入りのハイボールを出す。
最近コンビニで売られているメタリックグリーンのハイボールはアイランドモルト好きな神無月好みの一本らしい。
「最近よく買ってきますね。僕にも下さい」
「赤缶と緑缶どっちがいい」
冷やしてあった2色のハイボールを出して紫苑の目の前にかざす。
「優しい味わいは赤缶でしたっけ」
紫苑がツマミのオイルサーディンをトースターで焼きながらのほほんと答えた。
「スモーク香がしないからな、香りが優しいんだよ」
「なら赤で」
床にしゃがみこみ棚に顔を突っ込んでなにやらごそごそ探してる。
「なに探してるんだ」
後ろから覗き込むように神無月が近寄ってきた。
「近いです」
手でぐいっと顔を押し返し距離をあける。
――やばいでしょ。なんでこんなにパーソナルスペースが狭いんだよ。
「いいじゃないか。ホールとキッチンが仲良しなのは良いことだぜ?」
「そうですけど、でも適度な距離感が有難いんですよ」
――勘弁してほしい。
「へー」
気にもしてなさそうな適当な返事をしながら固めのスクリューキャップを開けた。
「そもそも相容れないポジショニングだと思いますけど」
――ほらな、神無月さんはグラスにも入れないだろ。
押し返した紫苑は、その場から体をするっと抜いた。
「ふーん」
「適当だなぁ」
ほかの棚をあさっている。
「別に適当ではないでしょ。俺は距離近い方が相手のことがよくわかるって思うから、紫苑君はどう思う」
「さぁ、なら今僕が何を探しているかわかるんじゃないですか」
「だから近くないとわからないってば」
神無月は後ろから肩を抱くように覆いかぶさった。
「だからやめてくださいって言っているでしょう」
一気に顔が赤くなる。
――薬、少し飲む頻度あげた方が良さそうだ。
最近判ったことがある。神無月さんは心を許した人間にはゼロ距離になるのだ。
「顔真っ赤、こんなの友達同士なら海外では当たり前だろう。紫苑君は初心なんだな」
「ここは……だって……日本です」
歯切れの悪い返事だ。
「突然されたら誰でも赤くなるでしょう、びっくりしただけですよ。馬鹿にしないでください」
「馬鹿にはしていないだろう」
肩をすくめた。
「言っています」
「可愛いと言っているんだ。そんなにつっかかるなよ」
――だから勘弁してってば。バレたら困るんだよ。
紫苑が焼いたサーディン缶に、神無月はカバンから出した醬油を垂らした。
「なんてとこに醬油隠してるんですか」
口をぽかんと開けた。
「あぁ探し物はこれか、昨日使い切ったから外出ついでに同じものを買ってきた」
「なぁ紫苑君、明日、本屋に行かないか」
サーディンを摘まみながら読んでいた本をぱたんと閉じ、えらく真顔で聞いてきた。
昨日は公園、明日は本屋、この距離感何なんだろう。
そもそも僕たちの関係って主従関係?先輩後輩?友達?
――聞けない。紫苑は感情を飲み込んだ。いつだってこの感情は苦い。
「今日じゃダメなんですか」
「今日は真面目に試作しよう、だてに毎日遊んでいるわけじゃないぜ」
変わる空気感に紫苑自身もスイッチが入った。
「小田原の土地に合わせてフランクかつ海の物で行きますか」
紫苑がそう声をかけると、うみっこに魚で勝負したら寿司屋には絶対に勝てないよ。違うか、と首を傾げた。
「ですね。魚が一番うまいのは生だから」
一瞬僕の手に神無月さんの手が触れた。
――僕はアルファだ、アルファなんだ。
心臓が一人で歩き出す気がした。
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