1 / 88
序章 卯月
Prolog
しおりを挟む
この世には男と女以外に第二の性、αβΩというものが存在する。平凡で80パーセント以上を占めるベータに対し、企業やアスリート、アーティストなどのトップ層はαであらかた占められており人口の約一割に当たった。
更に少ないのはオメガであった。男女とも妊娠できる体の機能を持ち三か月に一度ヒートと呼ばれる発情期が訪れる。酷いものになると遠くからでもフェロモンがわかり、それに充てられたαの性犯罪は後を絶たない。
α至上主義の現代でまさかのΩだと診断されたものの中には発狂して自らの命を絶つものもいたし、親に隔離されて外に出れなくなったものもいた。αがらみの性犯罪は誘惑した方が悪いと言われ襲ったアルファが被害者になることも決してまれなことではなかった。オメガの幸せは裕福なアルファのもとに嫁ぎ股を開き子をなすことだと言われている。アルファと結婚して確実に子をなすことができるのはオメガだけであったし、生まれる子供の95パーセンがαとなることからオメガの需要は高かった。
大量の持参金をアルファにもらい厄介者払いする親も決して少なくはなかった、現代とはまさにオメガと診断されたものには生きずらい世の中である。
アルファ至上主義の世の中だからこそ、アルファになれなかったベータなど、悔しさからか秘密裏に売られている高額の疑似α剤を飲みオメガとセックスするものも出ていた。
♢
ここは青山に本店を構える陽気なイタリアン。【チャオチャオバンビーノ】
――今1番旬の店――
最近店内で写真を撮るものが増え、店の売りの選べるシュゼットなんかインスタグラマー達の動画配信のおかげで一躍時の物である。
――クレープシュゼット――
通常オレンジ果汁とグランマニエなんかのオレンジの香りのするお酒でソースを作り、目の前で火をつけ、香りを移すデザートのクレープである。
追加料金でバニラアイスやサワークリームをトッピング可能。
紫苑の十八番である。
「おい、紫苑これ食ってみろよ」
「何ですか?シェフ」
「カッテーナァ。マルコって呼べよ」
一回り以上も年の離れたシェフにそう言われて紫苑美月は苦虫を嚙み潰したような顔をし――マルコさん――と仕方なくと言う感じで言っていた。
犬の様にいつもニコニコと大口開けて笑う様はまるで子供のようであり、この時も紫苑に名前を呼ばれて嬉しそうにしていた。
「お前って不思議なやつだよなー」
マルコは不思議な者でもみるように紫苑をみつめた。
「あ、美味い!」
「だろだろ、チーズ入れたらこのリンゴのシュゼット最高じゃないか?」
「で何がですか?」
「――ん?不思議なやつって件か?」
「ええ」
常に大声を出さない紫苑は腹のそこから笑ってる姿も顔を真っ赤にしながら怒る様子も、涙ながらに訴える……なんて所も他人に見せたことはない。
「いや普通下の名前でよばれると俺は仲間意識がめばえて凄い近い感じがするんだが、例えば同じアルファなら闘争心がわいたりオメガなら守りたくなったりするんだよ。でも何故かお前だけは名前呼ばれてもそのどちらの感情もわかない。不思議なやつだ」
「知りませんよ、でも僕ベータじゃないですよ」
「わかっているよ。こんなにスーパーなベータ見たことないし明らかにその能力はアルファだろ」
「まあ見た目の綺麗さはオメガでも通用するくらいなんだが、オメガ独特の甘いいい匂いがしないからな」
紫苑はマルコが喋っているのを遮るように静かに言った。
「匂いなんか、しないに決まってます。オメガとか失礼なことをいわないで貰えますか」
「お前、アルファの癖にオメガ嫌いなのか?」
紫苑は飲んでいたコーヒーを机に置くと更に静かに言った。
「そうですね。繁殖するしか能がない」
「俺はそうでもないと思うがなぁ」
マルコは話をしながら次第に声が小さくなった。
「あなたはオメガを知らないだけだ。あんな下等種大嫌いですよ。股を開くしか能がない」
紫苑は汚いものを見るように静かに吐き捨てるように言った。
更に少ないのはオメガであった。男女とも妊娠できる体の機能を持ち三か月に一度ヒートと呼ばれる発情期が訪れる。酷いものになると遠くからでもフェロモンがわかり、それに充てられたαの性犯罪は後を絶たない。
α至上主義の現代でまさかのΩだと診断されたものの中には発狂して自らの命を絶つものもいたし、親に隔離されて外に出れなくなったものもいた。αがらみの性犯罪は誘惑した方が悪いと言われ襲ったアルファが被害者になることも決してまれなことではなかった。オメガの幸せは裕福なアルファのもとに嫁ぎ股を開き子をなすことだと言われている。アルファと結婚して確実に子をなすことができるのはオメガだけであったし、生まれる子供の95パーセンがαとなることからオメガの需要は高かった。
大量の持参金をアルファにもらい厄介者払いする親も決して少なくはなかった、現代とはまさにオメガと診断されたものには生きずらい世の中である。
アルファ至上主義の世の中だからこそ、アルファになれなかったベータなど、悔しさからか秘密裏に売られている高額の疑似α剤を飲みオメガとセックスするものも出ていた。
♢
ここは青山に本店を構える陽気なイタリアン。【チャオチャオバンビーノ】
――今1番旬の店――
最近店内で写真を撮るものが増え、店の売りの選べるシュゼットなんかインスタグラマー達の動画配信のおかげで一躍時の物である。
――クレープシュゼット――
通常オレンジ果汁とグランマニエなんかのオレンジの香りのするお酒でソースを作り、目の前で火をつけ、香りを移すデザートのクレープである。
追加料金でバニラアイスやサワークリームをトッピング可能。
紫苑の十八番である。
「おい、紫苑これ食ってみろよ」
「何ですか?シェフ」
「カッテーナァ。マルコって呼べよ」
一回り以上も年の離れたシェフにそう言われて紫苑美月は苦虫を嚙み潰したような顔をし――マルコさん――と仕方なくと言う感じで言っていた。
犬の様にいつもニコニコと大口開けて笑う様はまるで子供のようであり、この時も紫苑に名前を呼ばれて嬉しそうにしていた。
「お前って不思議なやつだよなー」
マルコは不思議な者でもみるように紫苑をみつめた。
「あ、美味い!」
「だろだろ、チーズ入れたらこのリンゴのシュゼット最高じゃないか?」
「で何がですか?」
「――ん?不思議なやつって件か?」
「ええ」
常に大声を出さない紫苑は腹のそこから笑ってる姿も顔を真っ赤にしながら怒る様子も、涙ながらに訴える……なんて所も他人に見せたことはない。
「いや普通下の名前でよばれると俺は仲間意識がめばえて凄い近い感じがするんだが、例えば同じアルファなら闘争心がわいたりオメガなら守りたくなったりするんだよ。でも何故かお前だけは名前呼ばれてもそのどちらの感情もわかない。不思議なやつだ」
「知りませんよ、でも僕ベータじゃないですよ」
「わかっているよ。こんなにスーパーなベータ見たことないし明らかにその能力はアルファだろ」
「まあ見た目の綺麗さはオメガでも通用するくらいなんだが、オメガ独特の甘いいい匂いがしないからな」
紫苑はマルコが喋っているのを遮るように静かに言った。
「匂いなんか、しないに決まってます。オメガとか失礼なことをいわないで貰えますか」
「お前、アルファの癖にオメガ嫌いなのか?」
紫苑は飲んでいたコーヒーを机に置くと更に静かに言った。
「そうですね。繁殖するしか能がない」
「俺はそうでもないと思うがなぁ」
マルコは話をしながら次第に声が小さくなった。
「あなたはオメガを知らないだけだ。あんな下等種大嫌いですよ。股を開くしか能がない」
紫苑は汚いものを見るように静かに吐き捨てるように言った。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」


消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる