Seed of truth《真実の種》

赤井ちひろ

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6 吠えずらかくなよ!

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 その日は朝から雨だった。
 
 町は二分され、クリスマスに踊る国王派と はるか昔に端に追いやられた庶民とに別れていた。
 二分といっても2割に満たない華やかな国王派が全ての権利を握っていた。ただし食以外の……。
 グルメ大国で名を馳せたこの国は、医療従事者と並ぶ権威ある職業であるレストラン従事者には、ある程度の発言権もあたえられていた。

「慈しみ深きともなるイエスは、神とが憂いを取り去りたもう、心の嘆きを包まず述べて、などかはおろさぬおえる重荷を」
 街に讃美歌が流れ初めて、陽炎のようにぼんやりと照らされた明かりが幽玄を感じさせる。
 子供たちの歌うクリスマスソングは誰もが知る真っ赤なお鼻のトナカイさんだった。調子っぱずれのその歌は、下町育ちの子供ならではの無教養さが見てとれた。
 雨を避けるように走りながら軒下に入り、電柱の雀宜しく一直線に並んだ子供達は、横からチラチラとお互いの顔を伺いながら小さな声でそれでも楽しそうに歌っていた。
 腰に片手を添え、もう片方の手には一張羅の靴が濡らさぬように大事にかかえられていた。
 何度となく見上げる空は、灰色の絵の具をばら蒔いた様で、結局その日は1日雨がやむ事はないまま静かに日が暮れようとしていた。
 キラキラ光る数多あまたの色の玉達は電飾とよばれ、通りに面している常緑樹に綺麗にかけられていた。
「頭痛い」
「どうしたんだい、レイ」
「わからない、でも雨だとこうなるから、相性が悪いのかな」
 地上の小さな喧騒を、物陰から見たレイはそのまま地下シェルターへはいっていった。

「何で夜なると俺達庶民は狩られる獲物になるんだ?」
 レイはヨハスに聞いた。
「憂さ晴らしだよ」
 糞みたいな国の真実が夜なんだろう。
「いつかひっくり返してやるよその時になって吠えずらかくなよデービル」
 
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