タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ

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40 いやいやのお掃除

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 久々の宝塚音楽学校。
「ただいまー」
「え?さくら?」

 目の前で水を飲みながらなぜか固まる同室の美都はまるで金魚の様だ。
「金魚みたいだよ?」
「え?さくら?」
「そうだけどどうしたの?」
「身長何センチ伸びた?」
 ああそういうことか……

 うふふーと笑ったさくらはピースをひっさげ言った。
「ただいま173センチですー」
「すごーい、男役確定じゃん」
 

 部屋で大騒ぎをしていたら扉が開いた。
「今学期の掃除当番見た?」
 サツキがイヤーな顔をして聞いてくるにはなかなかの場所かと……
「いや、見てないけど……ちなみにどこ?」
「さくらはダンス室、たしかあんずもだったかな」

 ダンス室が何で嫌なのか軽く流していた私はまさかの掃除の仕方に
「噓でしょ――――――――――?」
 叫んでいた。


 □□□

「さぁさっさと掃除機かけちゃおう!」
「……?」

「掃除機?何のこと?」
 あんずはさくらにかとみやすりヘアーピンとガムテープを渡す。
「何これ……」
「さくら物事知らなすぎ」

 説明会寝てたでしょ。と言われぐうの音も出なかった。
 バレエ教室はもちろん板張り。
 綺麗に塗装されたものだはなくまさに本物。
「……」
 だから簡単に傷がつくし薄皮の木がピンピンしたら足には傷がつくし、勿論わかってはいるのだけど、実感なかったわ。
「とげにひっかるとタイツ切れるじゃん」
 私達は四つん這いになり端から順に手でサラサラ床を触った。
「あったよ。とげ」
 紙やすりを取り出し丁寧にかけ始めた。
「こんな感じかな」
 私は自分の手でぴんぴん出る棘を確かめた。
「あんずは何してるの?」
 さくらは終わったとばかりにこっちに来ようとする。

「さくら、終わってないよ」
「え?何が?」
「ヘアピンあげたでしょ。それで間からゴミをほじくり返すのよ。床舐められるくらいにね」
 今なんて言った?
「なめ?」
 ん?とあんずは私をじっと見て
「連帯責任になる」
 というと優等生らしい姿勢で、ヘアピン作業を続行させた。
「ほうきやモップで取れないものは、ガムテープだよ」

 飽きた。
 内心本当に飽きた。
 もうかれこれ二時間以上やっている。
「こうしてる間にも本科生はレッスンしてるんだよね」
 私のボヤキにあんずは丁寧に対応する。
「初めて宝塚で踊るの何かさくら知ってる?」
「そのくらいは……ラインダンスでしょ?」
 ならこの地味な作業はみんなの健康の為にも必要だと思う。


「皆がきちんとそろったラインダンスを踊るための精神統一とか、そういうものって一見いじめかと思うようなこの掃除な気がする」
 とあんずに言われて

 確かにそうかもしれない。と思った。

 【清く正しく美しく】
 頑張らなきゃ!
 みんなで一緒に最高のラインダンスを
 
 
 
 
 
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