タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ

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35 体幹って大事

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「島津先生、南條どうですか?」
「あれだけのタッパがあって勿体ないよね」
「もうこの際だから、ダンスは苦手みたいな感じの売り出しでは?」
 小高先生は笑って言っていたけれど、まぁ実際にそんなにいう程はひどくない。とびぬけて良いって程ではないだけだ。
 

 惜しむらくは体幹かと思われる。

「はい5番!」

「前、横、前、後ろ……違う違う、足かえて!なにやってんの!」
 間違えた……。あっまた……
「南條さん、またあなたのところで止まっているわよ」
「ごめんなさい」
「その悪い癖直しなさい!」
「だから、猫背は綺麗に見えないと何度言えばわかる」
「はい」

「足が低い」
「はい」
「手が綺麗じゃない」
「ごめんなさい」
「謝るな」
「はい」
「首――――」
「はい」
「ハイじゃない、わかってない!亀首やめろ!」
「はい」

 は―どっと疲れた。もうこの場で寝てしまいたい。
 
「南條さんちょっといい?」
「はい……」
「あらあら、眠そうね」
「どっと疲れが出ました……。猫背きにしているつもりなんですけど」

「腹筋を鍛えなさい」
「腹筋ですか……?」
「そう、腹筋は声楽をやるうえではとても大切な部位なの。そしてダンスにも勿論。
 だいたい日舞があんなに綺麗で、あの小高先生にあいつとなら本気で舞える!なんて言っていただけるなんて、今までの音楽学校の生徒の中では断トツよ。
 それなのにダンスがこんなじゃもったいないわ。
 根本は基本的に同じです。
 しかもこれから舞台に立つならお腹のたるんだタカラジェンヌなんか誰も見たくはないでしょう?」

 確かに私たちは夢を売る仕事に就く。
 宝塚のお客様は8割が女性だと言われている、女性は同姓には厳しい生き物だから。


「毎日腹筋やります」
 それからというもの朝の腹筋10回(10回ですらきついとルームメイトに言ったらありえないと馬鹿にされたけど……)夜お風呂の後で10回を繰り返す。
 次第に3回4回と回数が増やせるようになって、お腹に筋肉がつくようになったら、ダンスも先生の言わんとする事が体で理解できるようになった。今では腹筋30回までこなせるようになったし、そうなると俄然やる気になるのが人間だ。
 
「ハイハイ、スリー フォー ファイブ シックス セブン ターン 手を一気に広げる」

 そうそう出来たじゃないの。
「みんな集まってー」
 ひよこたちがわらわらと集まってきた。
「もうすぐ夏休みだ。各自苦手なものを必ず1つは克服するように。
 あと、先に言っておく。帰ってきたらテストだ」



 
 
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