26 / 44
26 常勝相模学園②
しおりを挟む「だけどね、そんなの言い訳にならない。実際私は、二人に酷いことをしたんだから。しかも残酷なやり方で。奈々子と莉央は親友なのに、綾華と一緒になって引き裂いたんだよ」
「夏樹、それは」
「事情があったとしても、事実は認めなくちゃいけない」
頑なな夏樹を前に、私は何も言えず両手を握りしめる。
あれは綾華の策略。どちらか一人を孤立させるのが目的だった。
それがあの子のやり方なのだ。
「夏樹と同じように、莉央にも事情があったんだよね?」
綾華に逆らえない理由があったと、今なら確信を持って判断できる。
夏樹はうなずくと、莉央の事情について、やるせなさそうに説明した。
「莉央を外そうと言われて、奈々子は断ったよね。しかもきっぱりと。それが綾華にはあり得ない返事で、想定外の反逆だった。案の定、綾華はターゲットを奈々子に変えて、莉央を味方に引き入れようとした。奈々子を仲間外れにすると言われて、もちろん莉央も驚いてたよ。昨日まで自分が外されてたんだから、当然の反応だよね。でも綾華は今度こそ家来の反逆を許さず、ノーと言えない契約を莉央に持ちかけたんだ。父親の力を借りて」
莉央の家が大変な状態であるのを、綾華は知っていた。知っていて彼女を孤立させ、苦しめていたのだと夏樹が苦々しく吐き出す。
「綾華の父親が『かのう屋』に出向き、顧客の紹介と資金援助を申し出たのさ。おかげで店は倒産を免れ、後継ぎのお姉さんも無事に結婚して一家は安泰。その代償を莉央がすべて払うとは知りもせず」
莉央は綾華に借りを作った。家族を救われたという大きな借りである。
しかも莉央は、本当の事情を家族に話さなかった。すべては西野綾華との友情による善意という体で、ことを収めた。
親に負い目を持たせないための気遣いではあるが、綾華に釘を刺されてもいたのだ。
『これからは、私が莉央の一番の親友ね。奈々子とは付き合っちゃダメだよ? お家の人には、「奈々子は私を仲間外れにしたからもう友達じゃない」って説明して? 約束を破ったら援助は打ち切りだからね!』
莉央は条件を呑み、綾華のグループに完全復帰した。
それが、彼女の裏切りの真相だった。
「そんなわけで莉央は、綾華に服従することとなった。同じ立場の私は、あの子の気持ちが手に取るように分かったよ。私たちは仲良しグループを演じながら、心の中は惨めさと情けなさでいっぱいだった。でも抜けられない。家族を人質に取られて、仕方ないんだって自分に言い聞かせて。そうでもしなきゃ、罪悪感で潰れそうだったからね。莉央はもっと苦しんでたと思うよ。自分を庇ったせいで孤立した奈々子が、ひとりぼっちなのに……すぐそこに座っているのに、声もかけられないんだから」
私が保健室登校を始めた頃、莉央も体調を崩したと言う。それを綾華が面白そうに眺めていたとも。
「とにかく綾華は毎日楽しそうだったよ、うんざりするくらいに。ただ、奈々子が外部の高校を受けると知った時は苛立ってたな」
獲物に逃げられる悔しさだろうか。綾華の嗜虐的な目を思い出し、身震いする。
「夏樹、それは」
「事情があったとしても、事実は認めなくちゃいけない」
頑なな夏樹を前に、私は何も言えず両手を握りしめる。
あれは綾華の策略。どちらか一人を孤立させるのが目的だった。
それがあの子のやり方なのだ。
「夏樹と同じように、莉央にも事情があったんだよね?」
綾華に逆らえない理由があったと、今なら確信を持って判断できる。
夏樹はうなずくと、莉央の事情について、やるせなさそうに説明した。
「莉央を外そうと言われて、奈々子は断ったよね。しかもきっぱりと。それが綾華にはあり得ない返事で、想定外の反逆だった。案の定、綾華はターゲットを奈々子に変えて、莉央を味方に引き入れようとした。奈々子を仲間外れにすると言われて、もちろん莉央も驚いてたよ。昨日まで自分が外されてたんだから、当然の反応だよね。でも綾華は今度こそ家来の反逆を許さず、ノーと言えない契約を莉央に持ちかけたんだ。父親の力を借りて」
莉央の家が大変な状態であるのを、綾華は知っていた。知っていて彼女を孤立させ、苦しめていたのだと夏樹が苦々しく吐き出す。
「綾華の父親が『かのう屋』に出向き、顧客の紹介と資金援助を申し出たのさ。おかげで店は倒産を免れ、後継ぎのお姉さんも無事に結婚して一家は安泰。その代償を莉央がすべて払うとは知りもせず」
莉央は綾華に借りを作った。家族を救われたという大きな借りである。
しかも莉央は、本当の事情を家族に話さなかった。すべては西野綾華との友情による善意という体で、ことを収めた。
親に負い目を持たせないための気遣いではあるが、綾華に釘を刺されてもいたのだ。
『これからは、私が莉央の一番の親友ね。奈々子とは付き合っちゃダメだよ? お家の人には、「奈々子は私を仲間外れにしたからもう友達じゃない」って説明して? 約束を破ったら援助は打ち切りだからね!』
莉央は条件を呑み、綾華のグループに完全復帰した。
それが、彼女の裏切りの真相だった。
「そんなわけで莉央は、綾華に服従することとなった。同じ立場の私は、あの子の気持ちが手に取るように分かったよ。私たちは仲良しグループを演じながら、心の中は惨めさと情けなさでいっぱいだった。でも抜けられない。家族を人質に取られて、仕方ないんだって自分に言い聞かせて。そうでもしなきゃ、罪悪感で潰れそうだったからね。莉央はもっと苦しんでたと思うよ。自分を庇ったせいで孤立した奈々子が、ひとりぼっちなのに……すぐそこに座っているのに、声もかけられないんだから」
私が保健室登校を始めた頃、莉央も体調を崩したと言う。それを綾華が面白そうに眺めていたとも。
「とにかく綾華は毎日楽しそうだったよ、うんざりするくらいに。ただ、奈々子が外部の高校を受けると知った時は苛立ってたな」
獲物に逃げられる悔しさだろうか。綾華の嗜虐的な目を思い出し、身震いする。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
クルーエル・ワールドの軌跡
木風 麦
青春
とある女子生徒と出会ったことによって、偶然か必然か、開かなかった記憶の扉が、身近な人物たちによって開けられていく。
人間の情が絡み合う、複雑で悲しい因縁を紐解いていく。記憶を閉じ込めた者と、記憶を糧に生きた者が織り成す物語。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる