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24 自分の甘さ 20キロのランニング

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「横隔膜を下げろと言っているのがわからんのか」
 私達は肩で息をするのが精一杯だった。
「Are you speak Japanese?」

「わかっています」
「ならやれよ!わかっています?随分といっぱしな口を聞くじゃないか」
 
 桐生きりゅう先生は基本的に恐い。
 雨情ちゃんみたいな雰囲気もないもんだから、私たちは恐怖で背中が固くなる。
「背中が硬い」
 誰のせいだと思っているんだ。……誰かが言った。
「凄い、誰?」
 私はそっとサツキに言った。
 サツキは口に指をあて黙れと合図した。

 巻き込まれている場合じゃない。声楽の時間はあまりないんだから、苦手な分野……やらなきゃいけない。
 私は拳に力を込めた。

「納得いきません!」
 先生に食って掛かった別高校のタカラジェンヌ希望者は、合格率の高さからうわさを聞きつけてわざわざやってきたと聞いた。
「ここに通うために引越ししたんですよ?」
 通用するわけがないのに……。私たちは雨情先生とは違う意味で、桐生先生を良く知っている。

「だから何だ?」
 静かさが怖い。
「引っ越したから特別に贔屓してくれとでも?あほくさい」

「ひどっ」
 先生の温度が何度か下がる気がして、サツキと桜華と三人で横で今日は【アムール・アムール】の練習をした。
 構ってられない。辞めるなら勝手にやめろ。その分レッスンは止まらまいんだから。
「何がひどいんだ?みんなの貴重なレッスン時間をお前のためにつぶされている彼女たちこそ、そのセリフを吐く権利があるんじゃないのか?」
 畳みかけるように桐生先生は言った。
「横隔膜を下げろ、体の臓器を感じろ、声は上からの出さなきゃ高くは出ない、横隔膜を下げなきゃ低くもならんと言っているんだ。甘やかせば出来んのか、やってやろうか?なぁ」

「ですからもっとわかりやすく教えてくれたら私は出来ると申しているんです」
「できねーよ」
 顔を真っ赤にして憤慨し、さらにまくしたてる。
「ぎゃぁぎゃぁと汚い声でよく泣くなー。大切な声だぞ。吠えるならイカシタ声でほえろよ」

「合格率が高い?そりゃあそうだろ」
「なにがです」
「だってお前みたいなついてこれん奴はやめていくからだよ」


 桐生先生は私達を見て、言った。
「基本がダメなんだ。体力もなけりゃ体幹も鍛えられてない。やり直しだ!ランニング20キロいってこい」
 これがこんなにもしんどいなんて……私達、声楽

 甘く見てた……。
 20キロどころか10キロも私は走れなかった。

 











 
 
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