タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ

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23 鬼のしごき

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 今年の課題曲が発表された。
「7つの中からのチョイスかー、さくら何にするの?」

 【今年の課題曲】
 アムール アムール
 浜千鳥
 追憶
 花の街
 他にも戦争と平和とかもあるよねー。

「私はアムールアムールが好きなんだけど、好きだからって」
「そうそう、うまいとは」
「限らないんだよねー」

 向日葵がかけてきた。
「ねぇみたー?募集要項」

「お弁当どうする?」
 チラッと横をみる。
 桜華の背後から怒号のオーラが見えるよ。
「お弁当、食べ過ぎたら踊れないでしょう?お腹がぽっこり出たタカラジェンヌなんかダメに決まっているでしょう!」
「ですよね……」

  
 ガラガラガラ
 扉が開いた。

「ほう、発声もせずピーチクパーチク雛鳥がうるさいな。余程余裕と見える。では今から追憶歌おうか!暗譜当然してあるよな」

 シーンと静まり返る教室……。
 飲み込む唾の音……。
 桐生先生のにこやかなる怒り……。
 またやっちゃった。
 

「背の順並べ!」
 私達はバタバタと並び始め、手をぎゅっと握り黙った。
「全員暗譜出来てるな」
 首を振る生徒、下を向いた生徒が列から引き出されていく。
「邪魔だ!端で余裕のお喋りでもしてろ!」

 残ったのは30人中10人にも満たなかった。
 

「先生横暴です。暗譜はどれでもいいじゃないですか!」

 鼻で笑う桐生先生は
「発声も大切に出来ないくせに、理屈だけはいっぱしか!辞めても良いぞ?」

 高らかに笑いながら、残っている生徒に怒号をあびせる。
「声楽は発声が命だ。この教室でそれすらしないなら帰れお前ら。俺は真剣じゃないやつが大嫌いだ。覚えとけ」

【追憶】
 何度も何度もやり直し……声が出なくなる私達に発声が出来てないからたかが1時間でだめになる。

「舞台にたつ資格なんか、ないよなーお前ら」

 その日居残りを申し出たさくらとサツキ、桜華は先生の果てしない扱きに最後まで根をあげる事はなかった。

「絶対受かってやる!」
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