タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ

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22 残り120日

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 遠足と称した鬼の2泊3日が終わり皆とりあえずは雨情先生に課題を提出した。メイさんはやはり凄くて……歌が上手いとかじゃないしサシスセソ多分苦手だし……でもあんなに光輝く男役って本当ひとにぎり。
 前に先生がいっていた、ダンスや歌が苦手でもトップスターに成れる人材はひとにぎりもいない。  
 メイさんはそのひとにぎりの逸材。
 
  私は凡人。
 なら練習あるのみだ!

 
 だーれかが僕をよーんでいる。だーれかが僕をまーっている。チャッチャチャラン・チャチャン。ひみーつが一杯なぞーを呼ぶ事件がトリック仕掛けた罠の中!!冷静、沈着……

「さくら何してんだ?」
 雨情先生。
「この前の名探偵はふたりぼっちのワンフレーズですよ」
 お気に入りの場所なのだとさくらは校内で歌い踊っていた。
「本当にお前最高だよ!一回みただけで覚えられるのは、才能のひとつさ。俺はお前がラインダンスを踊って、得意のコミカルな役を演じるのを見てみたいよ」

「雨情先生、私絶対受かってみせるよ」

「で話しはかわるんだが、今年演劇コンお前どうするんだ?」
 演劇コン→演劇コンクール、数々の名だたる学校が役者を揃えてっぺんを取りに来る!
 先生はすごく真面目な顔して言った。

「どっち付かずになるぞ!選べ」
 芝居を諦める?いやコンクールを諦めるんだ。


 私は演劇部を退部することにした。
「席だけ置いておかない?」
 部長はすごく優しくて、出来たら私もそうしたい。でも……多分追い込まないと私は頑張れない。
 今年も落ちたら、来年頑張れるかわからない。でもどっち付かずになって落ちたら100%頑張れない!ってことだけはわかる。

「頑張ったからって誰もが望むものを手に入れられる訳じゃない!でもなさくら、頑張らなければ、そのスタート地点にすら立てないんだ」

 私は黙って頷いた。

 

 【教室にて】

「最初は面接だ。そこでは何一つテクニックは披露出来ない。面接を通過して初めて課題曲をうたう機会が与えられる。残り120日だ」
 
「面接って何を見るんですか?」
 誰もが気になる内容だ。

「さあな、俺は面接官じゃないから知らないよ。ただ小手先で受かろうとしたやつを何人も見てきたが、そいつらが受かったのを見たことは無いな」
 切り捨てるように言った冷たい声で、その場の緩い空気は一気に消滅した。

「俺が言ってるのは面接の練習をしろってことじゃない!面接の練習なんかしたってだめだからテクニックを磨け!自信に裏付けされる練習量をこなせと言っている」

 さあ残り120日だ。




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