上 下
11 / 44

11 裸が何だというのです。

しおりを挟む
 
  日舞の試験は本当に散々だった。
 さくらは独り言ひとりごちた。
 先ずすり足が出来ない。もうそれだけでスタート地点に立ってないように思う。
「南條さくら、またすり足が出来てない。何べん言ったらわかるんだ。すり足は日舞の動きの基本だぞ。かかとを床から離すなと言っている」
「ごめんなさい!」
「みんなストップ、全員最初からやり直し」
 10分休憩、トイレ行ってくる。高倉先生はちらりと中を見やり出ていった。
『子ネズミ達は自分達で解決できるかな?』

   □□□

「またあなた?だから上げるのはつま先、かかとは付けたまま滑らせて」
「わかってるけど、つい上がっちゃうんだから仕方がないじゃない」

 さくらの動揺した発言は桜華おうかを苛立たせるには十分だった。
「仕方がない?どう仕方がないの?こんなの基礎の基礎でしょう?舞台に立って配属された組が和物が得意だったら、あなたやりませんっていうの?」

 桜華おうかは小さな声で感情をあらわにしないように注意しながら、言った。
「着物脱いで!」
「は?そんなのいじめじゃない」
 すみれや向日葵も止めに入る。
 いじめと勘違いしたクラスメートは高倉先生を呼びに行く。
 高倉先生は、着物を脱げと言った桜華おうかの意図を読み取ると黙って見守る事にした。
「大丈夫なの?」
 向日葵ひまわりは心配そうに言ったが高倉先生は椅子に座って笑っていた。
「脱いだわよ」
 さくらは桜華おうかの真剣な顔つきに押されて帯を外した。
「ここから下着のまますり足して」
 さくらはかかとが浮かないようにすり足をする。
「そこよ」
「そこ?」
「そう、膝が曲がってない」
 
 そうか!皆は一様に理解した。
 ひざを曲げずにすり足はどうやったってできないのだ。
「もう一度」
 桜華おうかに言われもう一度やり直す。何と無く前よりできてはいるようだがちょっとすっきりしない。
「上半身が上下に揺れているからよ」
 さくらは言われたようにやっていると思っている。
 
「なら見せてみてよ」
 桜華おうかは黙ってすり足を繰り返す。何度やっても上半身はぶれないしそれは見事なすり足だった。
「わからないよ、着物着てるんだし」
 
 桜華おうかはちらりと高倉先生を見たが、おもむろに着物を脱ぎだした。
 
 周りのシーンとした空間に1人、高倉先生だけが声を発した。
 
「へ―やるじゃん。ヌード?」
「着物の下には昔から下着はつけないものですから。お見苦しくて申しわけございません」
 
 桜華おうかは何事もなかったかのようにさくらに向き直った。
「ですから膝はこう少し曲がるのですよ。でかかとは浮かさない」
 さくらは男性の前で全裸になっている桜華おうかに申し訳なさでいっぱいだった。
「浴衣着て……」
「裸が何だというのです。くだらない事を言っている時間なんかないのですよ。あなたができなければ先に進みません。全裸など大した問題ではありませんわ」
 強すぎる……。向日葵ひまわりも言いたいことは理解できるもののなかなか実行には移せないだろう。
 
「もう一度、南條さん」
 やれよ、さくら!足引っ張ってる場合じゃないでしょう!
「もう一度行きます!」
 さくらは集中した。
 
「だからこうです。真横から見て」
「違うと言っているでしょう?おしりの位置見て」
「だからそんなにお年寄りみたいにお尻突き出さないんですよ」
「馬鹿ですか?」
「お尻を出すのはおやめなさいな!アヒルですか?」
 

 あれから何十回やっただろう。
「そう、南條さん。出来たじゃないですか」
 玉のような汗が桜華おうかの肌を伝う。
 高倉先生は桜華おうかにタオルを渡すと全員に号令をかけた。
 桜華おうかは浴衣を着た。
「先生もう一度通しで確認お願いいたします」
「南條早くしろ」
 高倉先生は全員を並ばせ筑紫舞のすり足の部分を1からやり直した。

「OK」
「脱落者なし、クラスペナルティも無しだ」

「クラスペナルティ?あっぶなーい」
 みんなの桜華おうかを見る目が変わったのは言うまでもなかった。

「ありがとう!」
「別に」
「今度は私がバレエ教えてあげるね」
 桜華おうかは嫌そうな顔をしてさくらを見ていた……。

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【たいむりーぷ?】『私。未来であなたの奥様やらせてもらってます!』~隣の席の美少女はオレの奥様らしい。きっと新手の詐欺だと思う……たぶん。~

夕姫
青春
第6回ライト文芸大賞 奨励賞作品(。・_・。)ノ 応援と感想ありがとうございました(>_<) 主人公の神坂優斗は普通のどこにでもいるような平凡な奴で友達もほとんどいない、通称ぼっち。 でも高校からは変わる!そう決めていた。そして1つ大きな目標として高校では絶対に『彼女を作る』と決めていた。 入学式の帰り道、隣の席の美少女こと高宮聖菜に話しかけられ、ついに春が来たかと思えば、優斗は驚愕の言葉を言われる。 「実は私ね……『タイムリープ』してるの。将来は君の奥様やらしてもらってます!」 「……美人局?オレ金ないけど?」 そんな聖菜は優斗に色々話すが話がぶっ飛んでいて理解できない。 なんだこれ……新手の詐欺?ただのヤバい電波女か?それとも本当に……? この物語は、どこにでもいる平凡な主人公優斗と自称『タイムリープ』をしているヒロインの聖菜が不思議な関係を築いていく、時には真面目に、時に切なく、そして甘酸っぱく、たまにエッチなドタバタ青春ストーリーです。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

水曜日は図書室で

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
青春
綾織 美久(あやおり みく)、高校二年生。 見た目も地味で引っ込み思案な性格の美久は目立つことが苦手でクラスでも静かに過ごしていた。好きなのは図書室で本を見たり読んだりすること、それともうひとつ。 あるとき美久は図書室で一人の男子・久保田 快(くぼた かい)に出会う。彼はカッコよかったがどこか不思議を秘めていた。偶然から美久は彼と仲良くなっていき『水曜日は図書室で会おう』と約束をすることに……。 第12回ドリーム小説大賞にて奨励賞をいただきました! 本当にありがとうございます!

トリビアのイズミ 「小学6年生の男児は、女児用のパンツをはくと100%勃起する」

九拾七
大衆娯楽
かつての人気テレビ番組をオマージュしたものです。 現代ではありえない倫理観なのでご注意を。

処理中です...