タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ

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10宝塚大劇場へ、夢の花組

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 8時半だ。ホームルームの時間だ。
 
「はい!皆、今度の遠足は2泊3日になりました」
「2泊ですか?どこに?」
 生徒たちが口々にいうと担任こと日舞教師の高倉 伊吹たかくら いぶきは栞を前から配りだした。
「お母さんにきちんと見せろよ!」

「はい。さくら」
 前の席の向日葵ひまわりからペラペラのペーパーを1枚受け取ると、1人でそれを見ていた。

 日程には宝塚歌劇団の公演も1つ、見られるようになっている。
 花組公演だ。
 一番好きな組。この話まだ見てないんだよ。東京宝塚劇場にはまだきてないからさ。

「洋服何組持っていく?」
向日葵ひまわりがそう言うと、さくらはモチベーションが上がっているようでニコニコしながら椅子ごと後ろを向いて言ってきた。
「そんなことより花組公演だよ。ヤバイテンション上がるー」
 
「うん。しかも赤川三郎の同名小説でしょ?小説も面白いけどこの作品ができるのは【メイさん】だけだよ。彼女のためのミュージカル作品だと思う!」
 
 盛り上がってるのはいつもは一匹狼の高井サツキたかいさつき
「サツキ花組ファンなんだ。ダンスめっちゃ上手だから、雪だと思ってた」
「うん。嶋田巴さんの大ファン」
「メイさん?」
「うん!!雪のダンスも月の歌も、星のバランスも、宙の演技力もどれも本当に私たちには雲の上の人なんだけど、でもメーさんはアウトローやらせたら一番で、歌がうまいとか……踊りが上手とか……芝居が上手とか、そんなことではないんだけど……なんていうんだろ、魅力?凄いんだよ。本当に凄いんだよ。何だろうね?鳥肌が立つよ。 実はこの前も大劇場まで見に行っちゃった」

 え?こんなにしゃべるの見たことなかった。サツキギャップ萌えだねぇ。

「どんな話?」
「ん?ンとね、一人の大学生がひょんなことから偽札事件に巻き込まれちゃって、二組のギャングを相手に戦いを繰り広げる話」

 主人公は?周りにわらわら皆が寄り出した。
「主人公はデイビット・パーサーってコロンビア大学の三年生だよ。恋愛要素もあるよ。娘役トップスターもいるわけだしね」
「娘役の名前は?」
「謎の美少女だよ。名前はナタリー」

 サツキはテンションが下がらず歌いだした。

「秘密 がいっぱい♪謎を呼ぶ事件が♪トリック仕掛けた罠の中♪冷静♪沈着♪あらゆる事態に♪この世のトラブルただすためひーとりぼっちでどこまでも♪」

「こらこら高井、落ち着け」
 ヤベー担任居たんだった。
「まぁ盛り上がる気持ちはわかるぞ。今年の学年は芸能系の中でもダントツに宝塚音楽学校受験組が多い学年だからな。しかもこの組先生も好きだな」
「え?伊吹ちゃんも好きなの?」
「先生はキングパイナップルが好きだぞ」
 ♪愛をベサメーロー♪
 ♪アイ キャン ランバ♪
「マジ?日舞の教師で、マジ!意外なんだけどー」
「雨情も好きだったと思うぞ」
 高倉先生の口から出てきた名前は……まさかの摩利ちゃんだった。

「雨情なぁ、マリーアとの兄弟の話が確か一番好きだったとおもうぞ。
 今度歌ってもらえ。上手いから」

 俄然楽しみになった2泊3日だった。

「さ……その前に今日は日舞のテストだぞ。遅れるなよ」
「えーーーーーーーーー」

 ブーイングの嵐の中、大笑いして出ていった。
 
 

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