愛の鎖が解ける先に

赤井ちひろ

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最終章

11

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 下からの景色は、キラキラと光り、清々しいほどの空気にそこは覆われていた。
 湿気た葉っぱを踏むと、何とも言えない緑の匂いに包まれた。滑れらないようにゆっくりと秋先が上がると、目を疑う光景がそこにはあった。縋るように腰に抱きつく東條、東條がいることが信じられないとばかりに周りもはばからず声をあげて泣く三淵。
 最初から決まっていたかのようなその光景に、秋先はその先に行く事は出来なかった。
「天使がいるじゃないか。東條……」
 漏れ聞こえた声は、空気に吸い込まれ二人には届かない。
 邪魔にならないように、そっと二人を見つめ、木の幹に体を預けた。
 

「葵……、葵……」
 名前だけを必死に繰り返す180も悠に超えた大男は、ひざを折り、縋るように力を入れた。
「なんでここに……いるの」
 信じられないくらい嬉しいのだろう。
 涙で濡れた顔は、秋先が今迄見たこともないほど綺麗な笑顔だった。
「思い出したのだよ」
「何を?」
「あの日、紬が死んでしまったあの日、俺は死のうとしていたのだよ」
「東條さん」
「他人行儀なんだな。もう意地悪をしないでくれないか」
「意地悪なんて……」
「あの日、小さな手が俺に触れて、声を殺して一緒に泣いてくれていた少年がいた。あれはお前なのだろう」
 そうだ。
 あの頃の俺は何もかもが許せなくて、何より自分が好きじゃなくて、神様ですら呪っていた。
 紬の二度の手術、歴然と弱っていくからだ。
 俺の性癖に黙って付き合い、蝕まれていく心臓に、それでも、自分のことだけを慕う紬を嬉しいと思い、追い詰めた。
 ああ、俺は狂っていた。
 ドナーの見つからない心臓は、俺が思っているよりはるかに弱く、脆かったのに……。
 それでも、自分だけのものでいて欲しい。
 どんな要求も受け入れて欲しい。
 浅ましい自分の心に、俺の中のもう一人の俺は言った。
 『なんでお前なんかが生きている』
 そうだ、俺は生きていることすら間違っていると思っていたのだよ。

 それなのに……
 
 
 
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