愛の鎖が解ける先に

赤井ちひろ

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最終章

6

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 走馬灯のように巡る記憶をもとに、まるで俯瞰するかのように俺は話し始めた。
 秋先は冷めていくコーヒーに手を付けることもできず、重苦しい沼に落ちていく俺の懺悔を聞いていた。

 そうだ。これは懺悔なのだと、俺は気が付いた。
 自分とって、幸せというのは開けてはいけない玉手箱だったのだ。
 俺自身が、三淵葵の思いにほだされ、ひと時でも紬を忘れ幸せになろうとしたから、自然とストッパーが働いた。
 三淵葵が社食に現れるまでの俺は、常に他人に距離を置き、SМという大義名分のもと、常に一線は越えてはいなかった。
 どのフロアにも、理解はできないが俺を良いと思うものは事実居たし、恋人になりたいという申し出は決して少なくはなかった。
 今までは何者にも決してほだされたりしなかったのだ。
 それなのに、葵が来てからの自分と言ったらどうだ。
 みっともないほどに葵を見つめ、みっともないほどに執着した。愛されている快感を享受し、あまつさえもっとと求めた。
 自分が人殺しであることすら忘れ、さも普通の幸せを手にできると勘違いした。
 その勘違いに、本能がストッパーをかけたのだ。
 そう思えば、俺自身……三淵葵を愛し探すふりをしながら、今一つ核心に迫ろうとしないことも頷けた。

 そんな懺悔のような独り言を聞きながら、秋先は「お前という男は難儀だなぁ」と呟いた。
「難儀?」
「ああ」
「なぜ」
「自覚がないのも、困ったものだ」
「……………………」
 徐に立ち上がると冷めた二つのコーヒーを流しに捨て、新しい物を差し出した。
 いらない、そういう思いで首を振ると、いいから飲め! 気持ちが落ち着くように甘くしている。と甘やかされた。
 諭されたというより、まさに甘やかされたが正しい。
「幸せというのは一度うまくいかなかったら、二度と手には入れてはいけないものか?」
 秋先の言葉に、頭では理解できても、……心が追い付かんのだよ。と、俺は答えたと思う。
 

 あの当時、俺のことを必死に追いかけていた紬を俺は玩具か何かのように軽んじていたのだ。
 決してどうでもよかったわけではない。
 ただ、心臓疾患がそれほどの物だという認識は希薄で、自分の抑えられない性癖の方が勝っていたのだと思う。
 そういう認識があるから、俺の時はもしかしたらあの日でストップしているのかもしれない。

 その心に深く刻まれたはずの罪を、忘れたから、罰として、三淵が消えたのだ。と東條は泣きそうな顔をして秋先に訴えた。
「馬鹿な奴だ……」
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