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第四章 紬
1 代償
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「眼鏡かけるようになって可愛さが増したんじゃないの? おばちゃんたちのアイドル辞めないでよ」
「いやだなぁ、荒崎さん。僕そんなかわいい生き物じゃないですよ」
「可愛いわよぉ、ねー」
「そーよ、そーよ」
そろそろ昼時だ。
今日はひじきだと昨日伝えたから、僕は大和さんが来てくれるのを待った。
昼時の忙しさは半端ない。
1000人以上も入る大きな社食は美味しいと評判だ。
価格もコンビニより安く、よほどのことがない限り時間をずらしてでもここに食べにくる。
「誰か探しているの?」
そう声をかけられてキョロキョロしていたことに気が付いた。
自分より大きな上背に、見上げるように顔を上げた。
「あっ」
「この前はどうも」
ぺこりと頭を下げた。
「ヤマト?」
「いや、あの」
「来ないよ」
「なんでですか」
「やっぱりヤマトなんじゃないか。お前ら俺を巻き込みすぎ」
「僕、何にも……」
昼時はゆうに過ぎて時計は午後2時半を指していた。
「きみ、名前何だったっけ」
「三淵葵です」
「そうそう、三淵君だったね。君はヤマトの何なの?」
辺りにはもう人っ子一人いないものの、こんなところでする話でもない。
「ここではそう言った話は……」
「ふーん、世間体かぁ。まっいいけど、今日あいつは来ない」
「なんでですか」
「ここで話したくないって言ったの三渕君でしょ」
「そうですけど」
「ひじき定食、サバ味噌で、ご飯は中ね」
「………………」
「聞いてる?」
「あっ、すいません。何でしたか?」
トレーを持つ手がガタガタと震え、今にも泣きだしそうだった。
「ひじき、サバ味噌、ご飯は中」
「あっ、はい、すぐに」
差し出されたランチと引き換えに500円玉を出した。
「あっ、おつり100円玉切らしてて、ちょっと待ってください」
ランチが終わってあらかたのレジは締めてしまっていた。100円玉を探していたら、頭上から声がかかる。
「こんな時間に来た俺も悪いんだから、いいよ、釣り。もしどうしてもって言うなら、駅前のカフェ分かる? そこに持ってきて。午後8時ならそこにいる」
「待ってください」
「別に来なくても、気にしないよ」
一人で店番のこの時間帯じゃ動くこともできず、そうこうしているうちに高見沢さんは帰ってしまった。
帰りがけに言われた一言が、どうにも脳内から離れなかった。
――君さぁ、そんなに心配するくらいなら何で今日あいつを置いて出てきたの。
大和さんに何があったんだろう。
今日出てくるときは、一緒に出た。先に車を降りたときは、普通だった……と思う。
昨日、頭が痛いって言っていた。
考えてもわからない。
ただ、嫌な予感が頭から離れなかった。
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