愛の鎖が解ける先に

赤井ちひろ

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第二章・始まりは突然に

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 その日葵は東條と一緒に彼の家に帰った。
「初めまして、だな」
 大きく手を広げ入るように促す。
「なんだよ、初めましてって」
 それでも葵は玄関から動かなかった。
 いや動けなかったのだろう。
 ずっと片想いだと思っていた相手と偶然にも両片思いだった。でもそれはどちらかと言うと、終わりへのプレリュードに過ぎないような気がした。
「ねえ東條さん」
 玄関で話しかける葵の足から、東條は靴を脱がす。自分の首に手を絡ませて腰を掴み肩に抱え上げた。
「ちょっと待って……」
「逃げようとしているやつのことなど、待たないのだよ」
「東條さんゲイなの?」
 肩の上から降りてくる、わけのわからない言葉に東條は啞然としたが、クククククと腹からあがる声を抑えて、抱えたまま寝室に行った。
「ゲイか、か? そうだなぁ、女も抱けるけど惚れたことはないな」
「抱けるの?」
「受け側と違って入れる側だからな、入れることは出来るぞ。でも恋愛対象ではないのだよ」
 葵は自分で仕掛けたくせに東條から帰ってきた受け答えに涙が滲んだ。
「何を泣いているんだ?」
 高見沢から常日頃、変態鈍感男と呼ばれているだけあって何を泣く事があるのか心底理解できない東條は、葵をゴロンと転がした横に腰を下ろすと、額に手を当ててゆっくり撫でた。
 葵の目が東條の目を見つめた。
「葵、折角両想いだと自覚したのに、泣かれると困るのだが、何が悲しかったんだ?」
 東條のいいところは素直なところだ。鈍感でドSでもひねくれてはいない。葵は深呼吸を一回して東條の服の袖を掴む。
「ゲイじゃなければ……いつか女の方が良くなるのかなって。そうしたら子供を産めない俺なんか……いらないなって思った」
 自然と涙が出てしまったのだと葵は言った。
「なるほど。でも俺の恋愛がいつも上手くいかないのはもっと別のところにあると思うのだが……」
「別のとこ?」
 軽いバードキスをすると、苦笑交じりに「お前だって嫌気がさすかもしれないぞ」と耳元で囁いた。
 葵は東條のその言葉が、今でも彼自身を苦しめているのだと悟り、何度も何度も大丈夫だよと繰り返していた。
「嫌なら言ってくれ。無理矢理になんかしたくない」
「うん、でもそれが貴方の愛し方なのでしょう?」
 小さく弱そうなくせに、一本芯の通った葵は実は割に強い。
「そんなことより、僕あなたの事『ありがとうのきみ』って呼んでいたから、なんて呼ばれたいかわからないよ。やっぱり東條さん?」
 と葵は真剣に聞いてきて、それがなんとも初々しくてかわいかったもんだから、東條はちょっと特別が欲しくなった。
「ヤマトは二丁目では定番なんだ。下の呼び捨ては黎人がするし、そうだ!大和さんって呼んでくれないか?」
 初めてを見つけた東條は嬉しそうに言った。
「それと、会社では眼鏡をかけないか? コンタクトでもいい。キチンと顔を見てもらいたい」
 
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