18 / 77
第二章・始まりは突然に
4
しおりを挟む
その日葵は東條と一緒に彼の家に帰った。
「初めまして、だな」
大きく手を広げ入るように促す。
「なんだよ、初めましてって」
それでも葵は玄関から動かなかった。
いや動けなかったのだろう。
ずっと片想いだと思っていた相手と偶然にも両片思いだった。でもそれはどちらかと言うと、終わりへのプレリュードに過ぎないような気がした。
「ねえ東條さん」
玄関で話しかける葵の足から、東條は靴を脱がす。自分の首に手を絡ませて腰を掴み肩に抱え上げた。
「ちょっと待って……」
「逃げようとしているやつのことなど、待たないのだよ」
「東條さんゲイなの?」
肩の上から降りてくる、わけのわからない言葉に東條は啞然としたが、クククククと腹からあがる声を抑えて、抱えたまま寝室に行った。
「ゲイか、か? そうだなぁ、女も抱けるけど惚れたことはないな」
「抱けるの?」
「受け側と違って入れる側だからな、入れることは出来るぞ。でも恋愛対象ではないのだよ」
葵は自分で仕掛けたくせに東條から帰ってきた受け答えに涙が滲んだ。
「何を泣いているんだ?」
高見沢から常日頃、変態鈍感男と呼ばれているだけあって何を泣く事があるのか心底理解できない東條は、葵をゴロンと転がした横に腰を下ろすと、額に手を当ててゆっくり撫でた。
葵の目が東條の目を見つめた。
「葵、折角両想いだと自覚したのに、泣かれると困るのだが、何が悲しかったんだ?」
東條のいいところは素直なところだ。鈍感でドSでもひねくれてはいない。葵は深呼吸を一回して東條の服の袖を掴む。
「ゲイじゃなければ……いつか女の方が良くなるのかなって。そうしたら子供を産めない俺なんか……いらないなって思った」
自然と涙が出てしまったのだと葵は言った。
「なるほど。でも俺の恋愛がいつも上手くいかないのはもっと別のところにあると思うのだが……」
「別のとこ?」
軽いバードキスをすると、苦笑交じりに「お前だって嫌気がさすかもしれないぞ」と耳元で囁いた。
葵は東條のその言葉が、今でも彼自身を苦しめているのだと悟り、何度も何度も大丈夫だよと繰り返していた。
「嫌なら言ってくれ。無理矢理になんかしたくない」
「うん、でもそれが貴方の愛し方なのでしょう?」
小さく弱そうなくせに、一本芯の通った葵は実は割に強い。
「そんなことより、僕あなたの事『ありがとうの君』って呼んでいたから、なんて呼ばれたいかわからないよ。やっぱり東條さん?」
と葵は真剣に聞いてきて、それがなんとも初々しくてかわいかったもんだから、東條はちょっと特別が欲しくなった。
「ヤマトは二丁目では定番なんだ。下の呼び捨ては黎人がするし、そうだ!大和さんって呼んでくれないか?」
初めてを見つけた東條は嬉しそうに言った。
「それと、会社では眼鏡をかけないか? コンタクトでもいい。キチンと顔を見てもらいたい」
「初めまして、だな」
大きく手を広げ入るように促す。
「なんだよ、初めましてって」
それでも葵は玄関から動かなかった。
いや動けなかったのだろう。
ずっと片想いだと思っていた相手と偶然にも両片思いだった。でもそれはどちらかと言うと、終わりへのプレリュードに過ぎないような気がした。
「ねえ東條さん」
玄関で話しかける葵の足から、東條は靴を脱がす。自分の首に手を絡ませて腰を掴み肩に抱え上げた。
「ちょっと待って……」
「逃げようとしているやつのことなど、待たないのだよ」
「東條さんゲイなの?」
肩の上から降りてくる、わけのわからない言葉に東條は啞然としたが、クククククと腹からあがる声を抑えて、抱えたまま寝室に行った。
「ゲイか、か? そうだなぁ、女も抱けるけど惚れたことはないな」
「抱けるの?」
「受け側と違って入れる側だからな、入れることは出来るぞ。でも恋愛対象ではないのだよ」
葵は自分で仕掛けたくせに東條から帰ってきた受け答えに涙が滲んだ。
「何を泣いているんだ?」
高見沢から常日頃、変態鈍感男と呼ばれているだけあって何を泣く事があるのか心底理解できない東條は、葵をゴロンと転がした横に腰を下ろすと、額に手を当ててゆっくり撫でた。
葵の目が東條の目を見つめた。
「葵、折角両想いだと自覚したのに、泣かれると困るのだが、何が悲しかったんだ?」
東條のいいところは素直なところだ。鈍感でドSでもひねくれてはいない。葵は深呼吸を一回して東條の服の袖を掴む。
「ゲイじゃなければ……いつか女の方が良くなるのかなって。そうしたら子供を産めない俺なんか……いらないなって思った」
自然と涙が出てしまったのだと葵は言った。
「なるほど。でも俺の恋愛がいつも上手くいかないのはもっと別のところにあると思うのだが……」
「別のとこ?」
軽いバードキスをすると、苦笑交じりに「お前だって嫌気がさすかもしれないぞ」と耳元で囁いた。
葵は東條のその言葉が、今でも彼自身を苦しめているのだと悟り、何度も何度も大丈夫だよと繰り返していた。
「嫌なら言ってくれ。無理矢理になんかしたくない」
「うん、でもそれが貴方の愛し方なのでしょう?」
小さく弱そうなくせに、一本芯の通った葵は実は割に強い。
「そんなことより、僕あなたの事『ありがとうの君』って呼んでいたから、なんて呼ばれたいかわからないよ。やっぱり東條さん?」
と葵は真剣に聞いてきて、それがなんとも初々しくてかわいかったもんだから、東條はちょっと特別が欲しくなった。
「ヤマトは二丁目では定番なんだ。下の呼び捨ては黎人がするし、そうだ!大和さんって呼んでくれないか?」
初めてを見つけた東條は嬉しそうに言った。
「それと、会社では眼鏡をかけないか? コンタクトでもいい。キチンと顔を見てもらいたい」
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる