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序章・見えないエール
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俺は三渕 葵。明星大学経済学部を優秀な成績で卒業するも何故か仕事は続かず、この度はからずも29回目の職をクビになったところだ。
「三渕君、試用期間の終了を待たずして申し訳ないが、縁がなかったと思ってくれたまえ。これは1ヶ月分の給料だ。少しだけ色をつけてあるよ」
「ちょっと待って下さい。家賃が……」
「他所を当たってほしい」
「そんな……、向こうが無理やり」
そう追い縋る俺を人事部の人間はちらりとみて、辛辣なまでの一言を放った。
「いやいや君が誘ったのかもしれないだろう。一か月分はきちんと出しているよ。色もついている。諦めてくれ」
こう言われたのがかれこれ30分前の出来事。
ロッカーから既に纏められていた紙袋を受けとると、とぼとぼと会社を後にした。
夢にまで見た大学院まで卒業して4年、28にして年齢以上の転職を繰り返す転職ハンター。望んだ訳ではないけれど、既に専門職では名前が売れ過ぎて、面接にすら漕ぎ着けない。
次の職を見つけないと生活がままならない。今回の職だって専門職を諦めて資材部での募集に入りこんだのに、何故か痴情の縺れで渦中の人になっている。
「喉も乾いたし、近くの喫茶店でランチにでもするか」
僕は辺りを見回すと井の頭公園の奥にある小さな喫茶店をみつけた。
カフェ・なんとか……薄汚れてしかも擦りきれて名前が良く見えないけれど、建物はいい雰囲気だし、煉瓦の建物に窓枠を飾る花と蔦、手入れの行き届いた庭に可愛い花がなんとなく呼んでる気がして、腹の虫には逆らえず、俺は店の扉を押した。
「いらっしゃい」
そう言ってこちらを振り向いた背の高い女性は、テキパキとかたずけの最中だった。
「ごめんなさい。もうお終いですかか」
「閉めようかと思ったのだが、かわいいお客さんが来たからね。もう少し開けていてあげる」
「ありがとうございます」
勧められるままテーブル席についた。
景色の見える窓辺から外を覗くとサンデッキ風の板には鳥の餌がおいてある。
俺はぼーとそれを食べに来る鳥を眺めていた。
「………………さん」
「…………の、……ません」
「…………くさん」
はたと呼ばれてる事に気がつき、声のする方をみた。
「お客さん」
「ごめんなさい、ランチを1つお願いします」
絶対迷惑な客だと思われた。
吹き出る冷や汗をハンカチで拭くと、外を見た。
「ナポリタンとトンカツ、煮魚定食どれがいいですか?」
目の前にメニューが置かれてる。
またもや失態だと、あわてて目をやる。写真付きのそれはどれも美味しそうなことに気がついた。
「ナポリタンで食後にカフェオレを」
「かしこまりました」
優しげな風貌でにこやかに笑う中性的なその人は、各テーブルに人材募集の紙を置いている。
僕はそれをちらりと片目で見ながら、今日貰った封筒を開けた。中を覗くと想像以上の額が入っていた。つまり口止め料というわけか。
「糞っ、んなことしなくても言わねーよ」
自分を巡って色恋沙汰なんてすでに慣れっこだし、あの小さな箱の中の暮らしに比べれば、選べる未来がある分何に巻き込まれても、百倍ましだ。
「募集か……」
何これ……。
こんな募集今だかつて見たことない。
「気になりますか?」
ナポリタンを手にさっきの女性がたっていた。
「三渕君、試用期間の終了を待たずして申し訳ないが、縁がなかったと思ってくれたまえ。これは1ヶ月分の給料だ。少しだけ色をつけてあるよ」
「ちょっと待って下さい。家賃が……」
「他所を当たってほしい」
「そんな……、向こうが無理やり」
そう追い縋る俺を人事部の人間はちらりとみて、辛辣なまでの一言を放った。
「いやいや君が誘ったのかもしれないだろう。一か月分はきちんと出しているよ。色もついている。諦めてくれ」
こう言われたのがかれこれ30分前の出来事。
ロッカーから既に纏められていた紙袋を受けとると、とぼとぼと会社を後にした。
夢にまで見た大学院まで卒業して4年、28にして年齢以上の転職を繰り返す転職ハンター。望んだ訳ではないけれど、既に専門職では名前が売れ過ぎて、面接にすら漕ぎ着けない。
次の職を見つけないと生活がままならない。今回の職だって専門職を諦めて資材部での募集に入りこんだのに、何故か痴情の縺れで渦中の人になっている。
「喉も乾いたし、近くの喫茶店でランチにでもするか」
僕は辺りを見回すと井の頭公園の奥にある小さな喫茶店をみつけた。
カフェ・なんとか……薄汚れてしかも擦りきれて名前が良く見えないけれど、建物はいい雰囲気だし、煉瓦の建物に窓枠を飾る花と蔦、手入れの行き届いた庭に可愛い花がなんとなく呼んでる気がして、腹の虫には逆らえず、俺は店の扉を押した。
「いらっしゃい」
そう言ってこちらを振り向いた背の高い女性は、テキパキとかたずけの最中だった。
「ごめんなさい。もうお終いですかか」
「閉めようかと思ったのだが、かわいいお客さんが来たからね。もう少し開けていてあげる」
「ありがとうございます」
勧められるままテーブル席についた。
景色の見える窓辺から外を覗くとサンデッキ風の板には鳥の餌がおいてある。
俺はぼーとそれを食べに来る鳥を眺めていた。
「………………さん」
「…………の、……ません」
「…………くさん」
はたと呼ばれてる事に気がつき、声のする方をみた。
「お客さん」
「ごめんなさい、ランチを1つお願いします」
絶対迷惑な客だと思われた。
吹き出る冷や汗をハンカチで拭くと、外を見た。
「ナポリタンとトンカツ、煮魚定食どれがいいですか?」
目の前にメニューが置かれてる。
またもや失態だと、あわてて目をやる。写真付きのそれはどれも美味しそうなことに気がついた。
「ナポリタンで食後にカフェオレを」
「かしこまりました」
優しげな風貌でにこやかに笑う中性的なその人は、各テーブルに人材募集の紙を置いている。
僕はそれをちらりと片目で見ながら、今日貰った封筒を開けた。中を覗くと想像以上の額が入っていた。つまり口止め料というわけか。
「糞っ、んなことしなくても言わねーよ」
自分を巡って色恋沙汰なんてすでに慣れっこだし、あの小さな箱の中の暮らしに比べれば、選べる未来がある分何に巻き込まれても、百倍ましだ。
「募集か……」
何これ……。
こんな募集今だかつて見たことない。
「気になりますか?」
ナポリタンを手にさっきの女性がたっていた。
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