届けドライフラワーに乗せて

赤井ちひろ

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遠距離恋愛の君へ~贈る花は希望~

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 【11時オープン】
 看板にはそう書いてある。
 

「しまったなー」
 恋人の誕生日プレゼント、悩みに悩んで結局決まらないまま約束の時間になっちまう。高校を卒業してお互い大学が違うから……自然消滅とかになるのかな……って、やだなって考えていたら……彼女がはっきりとデカい声で、しかも顔まで真っ赤にしていった。
「自然消滅なんて絶対嫌だから!」
 俺の彼女は本藤 小鞠もとふじ こまり
 小学校からの幼馴染だ。
 付き合いだしたのは高校に入ってから。それも何と無く?
 いつも図書室のお決まりの席で詩集を読んでいる。
 大きな声なんか出したことのない、もとい聞いたことのない小鞠があんなに声を張るなんてスッゲー大変だったと思う。
 
 で俺は気が付いちまった。

 俺は一度も好きだって言ったことがない。好きって言われてうんって答える。



 時をさかのぼること三時間前。
 大学の学食でモーニングコーヒーを飲んでいた時、小鞠の親友に声をかけられた。
「ねえちょっと聞いていい?」
「まだ七時だよずいぶん早いね。何?」
 俺は重ーい空気に耐えかねて逃げ出したい気満々なのに、今無理とか言える空気感はない。
「今何月か知ってる?」
 この友達何て名前だっけ……。
 俺の考えを察知したのか『安曇 花瑠あずみ はる』と名乗った。
「そうそう安曇さん」
「そんなことどうでもいいから、今 何月か知っているかって聞いてるの」
 ずいぶん棘がある言い方するなって思ったけれど、とりあえず俺は10月と答えた。
「夏休み東京に帰らなかったの?」
「バイトが忙しくて帰れなかったんだよ」
 それが何なんだって顔したら小鞠にモーションかけてる男いるから、振られたら笑ってあげるってもんだった。

「小鞠が浮気?」
 言うなり頬に重い力が加わった。
「痛いじゃないか!」
 殴られた俺としちゃ文句を言いたい気分だが……目の前の女の子に涙を浮かべられたら何にも言えない。
「ふざけないで!小鞠が浮気なんかするわけないでしょう。でもあんたが夏休みさえ帰らないもんで、外野が勝手に動き出したんだってば。振られたって噂までついてるよ」
「待ってよ。振ってない」
 俺は慌てて帰り支度を始めた。
 2限3限やばいのに今の俺は単位落とすってすっかり忘れてた。
「コーヒー1か月分で手を打つよ」
 安曇が何か言っている。
「ん?」
「ちっっかわいこぶんな!そんなデカい体のくせに」
 ティーシャツの首元から自身の鍛えられた胸筋をみた。
 バレーボールで鍛えられた諸々の筋肉は小鞠を抱きしめるためのものだ。
「代返しといてやるって言ってんの」
「レポートまだ書いてないからどうせ……」
「それもしてやってる!頭の良さなめんな」
「まじかよ……なんでそこまでしてくれんの?」
 

「別にあんたの為なんかじゃない。泣いてんだってば、小鞠。明日誕生日なことすら忘れていただろ」
「………………………………」
 忘れてた……。
「サイテーだよ」
「ごめん」
「私に謝っても意味ない。小鞠があんたを好きじゃなきゃ誰がここまでするもんか!」
 早くいけというジェスチャーに俺はバス停を目指して猛ダッシュをした。


 で新幹線に飛び乗って1時間半 
 さっき東京駅に着いた。
 新幹線に乗っている間に友達からラインが来た。
「安曇さんからの伝言、小鞠ちゃん最近代官山のドライフラワーショップがお気に入りらしい」
 俺はスタンプ一つ返すと、小鞠にラインをした。

 
 
 でここメモリアルの入口付近で俺はふらふらする羽目になった。

 カウベルの音がする。
 俺は慌ててその場からどいた。
「君さっきからいるよね」
 中から出てきたのは偉く綺麗な黒髪の青年だった。
「すいません、まだ開いてないと思ってなくて……」
 俺は事の顛末を話した。
 しょうがない。合流した後アクセサリーショップでも行くか。
「その子の写真ある?」
 俺は耳を疑った。
「はい?」
「いやだからその彼女さんの写真だよ」
「ありますけど……」
 携帯の待ち受けを見せた。
「あーやっぱり」
 小さな声でつぶやくと、その店長さんは手招きをした。
「やっぱりって何ですか?」
「こっちの話……」
 まだオープン前なのに店内はいい香りで充満している。
 若干薄暗く妖艶なその空間は、黒髪の青年にとてもよく似合っていた。

「その子知っている。最近よく来るよ。特に何を買うわけでもないのだけど、ちょっと寂しそうだった。作ってあげるよ。ドライフラワーのブーケ」
「いいんですか?そりゃあすごくうれしいけれど」
「花には魔法の力があるんだよ」
 店長さんの名前は深月忍さんといった。
「君は彼女が好きなんだよね?」
「地球上の誰よりも!!」

「そこに座って待っていて。魔法のかかったブーケを作るから」
 ドライフラワーだからこそできることがたくさんあるという。

 季節にとらわれなくて済むのもその1つだ。

 深月さんの作ってくれたブーケはデンファレという綺麗な赤紫の花をベースにシラーを混ぜ込み、差し色を生かすように白い花がレースのような役割をしていた。
「正直俺は花の名前すらわかりません。これはどういう意味ですか?」

「魔法をかけたといっただろう。さぁ時間はないんじゃないのかい?遅刻はだめだよ。俺を信じて、さぁ」

 まだまだ聞きたいこと沢山あったけど、深月さんの言う通り、今日は遅刻は終わりを意味する。
 代官山からタクシーを拾い待ち合わせの場所に行った。

 5分前に着いたらもう小鞠は待っていて、俺の心臓はバクバクだ。
「小鞠!」
 見開かれた大きな目は俺の手元に注がれた。
「お誕生日おめでとう」
 ブーケを差出し、それだけ言うのに全精力を使い果たしたかのようにぐったりした俺に、小鞠はウルルっとした目ブーケをジッと見つめて言った。
 
「お似合いだってさ……」
 小鞠は俺に抱きつき会いたかったんだから……と小さな声で言った。

 シラーの花言葉は変わらない愛。
 デンファレの花言葉はお似合いの二人。
 

 
「上手くいったかな」
 俺は窓を軽く開けながらオープン準備を進めた。
「どうしました?深月さん」
「ああ早瀬君、おはよう。いや、あの少女の事を思い出していただけだ」


「あの少女?」
 早瀬は少しばかり考え込んだ後ポンと手を鳴らした。
「ああ、今日ですよね。来たんですか?もしかして」
 少し声が弾んでいる。やはり人の幸せは嬉しいものだ。
「うん」

「何をブーケにしたんですか?」

 
   あの時あの少女はデンファレを見つめていた。

   『これが気になるの?』
   とっさに声をかけた俺にその子は
   『花言葉はお似合いの二人っていうんでしょ?貰いたい人がいたから……』
   『そう……貰えるといいね』
 

「希望をブーケにしたよ」


 かけてほしい魔法があったら代官山のドライフラワーショップ【メモリアル】を覗いてみて下さい。

 俺が誠心誠意お手伝いをいたします。
 
 








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