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不思議な訪問者
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ティナちゃんと散々お話した翌日のこと。
起きて一番に確認したのは例の不思議なブローチだった。
昨日の出来事やティナちゃんの話があまりにも非現実的すぎて、もしかしたら夢だったのかもしれないと思ったから。
『あ、おはよう泉美ちゃん!』
「おはようティナちゃん」
夢じゃなかった!
相変わらず透けているけれど、ティナちゃんはしっかりそこにいた。
いてくれて良かった、なんて思いながら、私は一応お店に行くための支度をする。まだ立ち退きと決まったわけではないから、働かねば。
『私もついに外を出歩けるのねぇ!』
支度をする私をよそに、ティナちゃんはわくわくした様子で窓の外を見ている。
今までずっと骨董品店から外を眺めるだけだったのだから、出歩けるとなればそりゃあわくわくもするだろう。
しかし、こんなにもわくわくしているとこ申し訳ないのだけれど、私の行動範囲はめちゃくちゃ狭い。
今から行くところだってもちろんうちの喫茶店だし、家から喫茶店までの距離は歩いて五分かかるかどうか……。
そもそも喫茶店と骨董品店はお隣だ。喫茶店に入ってしまえば景色なんて骨董品店と大して変わらないだろう。
『準備出来た?』
「あ、はい」
『じゃあ早く行きましょ!』
「はいはい。あ、神社に寄っていい?」
『もちろんいいわよ!』
野田山様に朝の挨拶をしなければならないので、何を言われようと神社には絶対に寄るつもりだけれども。
朝から野田山様のお顔が見られるだけで一日を幸せに過ごすことが出来る、私はそんな単純な女なのである。
野田山様野田山様ぁ~なんてルンルンで靴を履き、玄関から飛び出すような気持ちで外に出る。
ティナちゃんはティナちゃんで『外だ~!』とテンションを上げている。
外に出る時間が短すぎてティナちゃんががっかりしないかと少し不安に思いながら、神社のほうへと足を向ける。
『神社ってのはあのもっさりしてるとこね?』
「そうそう」
大きなクスノキが沢山あるので、確かにティナちゃんの言う通りもっさりしている。鬱蒼としているとも言う。
そしてその境内の側に、いつもならもふもふの尻尾をゆらりゆらりと揺らしながらお掃除をしている野田山様がいる……はずだったのだが。
「誰かいる……」
お目当ての野田山様がいたのだが、私の知らない人と一緒にいる。
知らない人の気配を察知した私は、その場で足を止めた。
『なんで止まるのよ』
「知らない人がいるから」
『だからってこんなに遠くで止まる!? まだあれは背が高いから男だろうな、くらいしか分からないじゃないの!』
「あっちに気付かれないうちにこの場から去りたいなぁって」
『そんなことしたらあの狐とお話出来ないけどいいの?』
「ううう……」
野田山様ぁ。
野田山様に朝の挨拶をしたい気持ちはあるけれど、知らない人と一緒にいる野田山様に声をかける勇気はない。
『あの男なら大丈夫だからさっさと行きましょ』
「なんで大丈夫だって分かるの?」
『勘!』
「シンプル! いや無理無理知らない人無理」
私は見ず知らずの人間が怖いのだ。
知らない人は私の赤い瞳を見て、必ず怖がるか気味悪がるか不躾な好奇心をぶつけてくるか……とにかくいい印象を持たれることはない。いつだってそうだった。
そんな目で人に見られるたびに情けなくなってみたり惨めな気持ちになってみたり、とにかく無性に悲しい。好きでこんな色に生まれたわけではないのに。
ちなみにカラコンは無理だった。アレルギーで。
とにかく朝っぱらからそんな気持ちになりたくないし野田山様の前でそんなことになるなんて絶対に嫌だ。
ここは野田山様に挨拶するのを諦めて店に滑り込んでやろう。人生諦めが肝心だ。
『あ、ほら狐が気付いた』
「は!?」
まだこんなに距離があるのに!? と思いながら野田山様のほうを見ると、そこにはこちらに向かって手招きしている野田山様がいた。
遠くて見えないけど、おそらくにこやかな笑顔で手招きをしている。
『呼ばれてるんだから行くしかないでしょ』
「う、うう……」
『私が付いてるんだから大丈夫よ』
そうだ。今は一人じゃない。皆に見えるかどうかは分からないけど、私の側にはティナちゃんがいるんだ。
……何かあったらティナちゃんのせいにすればいい。
そして、野田山様に呼ばれたのなら仕方ない、と渋々足を進めると、やっぱり野田山様は満面の笑みでそこにいた。
「おはよう」
「おはようございます、野田山様」
私が野田山様に頭を下げながら挨拶をすると、野田山様と一緒にいた知らない人がこちらに向けてぺこりと頭を下げる。
「杉光さんの娘さんですか?」
「……あ、はい」
声をかけられたので、おずおずと返事をする。
目を見るべきか、というかこちらの目を見せるべきかを悩んでいたら、彼がもう一度ぺこりと頭を下げた。
「杉光さん……えーっと、あなたのお父さんの紹介で来ました、樹風吏といいます」
「お父……さんの?」
失踪した父の紹介で来たってどういうことだ? と思わず顔を上げたら、樹さんとやらと目が合った。
彼は私の瞳を見ても驚きはしないようだ。
にこにこと笑いながら「一週間ほど前に杉光さんのお父さんに会ったんですよ」なんて言っている。
正直こちらのほうが驚いた。私の瞳を見て驚かなかったからではない。彼の瞳が緑色だったからだ。
もしかしたら彼は私と同じ人種なのかもしれない。
「あ、僕の目も特殊な色なんすよ。杉光さんも本当に赤いんすね。お父さんに聞きましたよ」
めちゃくちゃフランクな感じで言われた。
「えっと」
「僕は片親があやかしだからなんすけどね」
同じ人種じゃなかった。特殊だった。
「か、片親が、あやかし?」
「そうですそうです。母が古椿の霊っていうあやかしで」
そんな人もいるんだ。あやかしと人間のハーフ……っていうのかな?
艶やかな黒髪に緑色の瞳、細身で背は高いけどちょっと猫背で、どこからどう見ても普通の人間だけれど、半分はあやかしなのだという。
『顔はいいわね』
と、ティナちゃんが呟く。
「そちらは?」
樹さんの視線がティナちゃんのほうへ向いている。
「え、見えるんですか?」
「え、はい。半分あやかしなんで大体のものは見えますね。幽霊っすか?」
『幽霊ではないと思うのよねぇ』
ティナちゃんは顎に手を当てながら、うーんと首を捻っている。
そんなティナちゃんに、樹さんは「透けてるのに?」と質問を続けていて、ティナちゃんもティナちゃんで『透けてるのに』と答えていた。
野田山様の視線は二人の会話に合わせるように行ったり来たりしているので、野田山様もティナちゃんのことは見えているのだろう。
野田山様は位の高いあやかしだそうだから、私には見えないものも見えていそうだもんな。
『ところで泉美ちゃんの父親からの紹介ってどういうこと? あなた何しに来たの?』
二人でぽんぽんと会話をしているな、と思ったら、突然私の話になっていた。
「喫茶店で働かせてくれるって話だったんすよ。だから働きに来ました」
「え」
樹さんは喫茶店の従業員として来たらしい。
その言葉を聞いて、私だけじゃなく野田山様もティナちゃんも驚いて目を丸くしている。
なぜならうちの喫茶店は今にも潰れそうな、閑古鳥が鳴くほどの店なのだ。
働き始めた途端潰れることもあり得るし、お給料が払えない。
「お、おおおお給料なんか払えませんよ!?」
「って言うと思うって杉光さんも言ってたんで、内情は知ってます。だからその辺は大丈夫です」
「えぇ?」
「前払いで貰った分があったりとか、まぁ、こっちはこっちで色々あって……」
樹さんはそう言うと、どこか物悲し気な顔で遠くを見ていた。なんか、あるんだろうな。色々と……。
こっちもこっちで色々あるわけだし、深く追求するのはやめておこう。
他人を詮索したってろくなことはない。多分。
「樹さんが大丈夫ならいいんですけど」
「大丈夫です。杉光さんに娘を助けてやってほしいって言われて来たんで、僕に出来ることがあればなんでもします」
「ありがとう……ございます」
父め、何も言わずに失踪したくせに、他人に私を任せるなんて。
「父は、どこで何をしてるんでしょうか?」
「え、僕もそれは知りません。僕も助けてもらっただけなんで」
「そうですか」
別に、どこで何をしていようと、生きてるならそれでいいんだけど。迷惑さえかけてこなければ。
元々好きなようにやってた人だから、突然の失踪だってそこまで驚いたって仕方ないとすら思っているくらいだもの。
……しかし、そんなことよりも気になるのが、初対面の人と一緒に働いていけるのかってことだよな。
うちで働くってことは、一緒にやっていかなければならないわけで、己のコミュニケーション能力に不安がある……不安しかない……。
『喫茶店で働くってことは接客? 調理?』
「あ、僕祖父の影響で子どもの頃からコーヒーとか紅茶とかに詳しいんすよ。あとスイーツ作るのも好きで」
『即戦力じゃないの』
不安しかないけど、今の私にはティナちゃんがいるんだった。
ティナちゃんがいてくれるならなんとかなるような気もする。そんなことを思いながら、ちらりと野田山様のほうを見上げると、見事に目が合った。
「大丈夫」
何も聞いていないけれど、野田山様はにっこりと笑ってそう言ってくれた。
野田山様が大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろう。
何が何だか分からないけれど、大丈夫。……だったらいいなぁ。
起きて一番に確認したのは例の不思議なブローチだった。
昨日の出来事やティナちゃんの話があまりにも非現実的すぎて、もしかしたら夢だったのかもしれないと思ったから。
『あ、おはよう泉美ちゃん!』
「おはようティナちゃん」
夢じゃなかった!
相変わらず透けているけれど、ティナちゃんはしっかりそこにいた。
いてくれて良かった、なんて思いながら、私は一応お店に行くための支度をする。まだ立ち退きと決まったわけではないから、働かねば。
『私もついに外を出歩けるのねぇ!』
支度をする私をよそに、ティナちゃんはわくわくした様子で窓の外を見ている。
今までずっと骨董品店から外を眺めるだけだったのだから、出歩けるとなればそりゃあわくわくもするだろう。
しかし、こんなにもわくわくしているとこ申し訳ないのだけれど、私の行動範囲はめちゃくちゃ狭い。
今から行くところだってもちろんうちの喫茶店だし、家から喫茶店までの距離は歩いて五分かかるかどうか……。
そもそも喫茶店と骨董品店はお隣だ。喫茶店に入ってしまえば景色なんて骨董品店と大して変わらないだろう。
『準備出来た?』
「あ、はい」
『じゃあ早く行きましょ!』
「はいはい。あ、神社に寄っていい?」
『もちろんいいわよ!』
野田山様に朝の挨拶をしなければならないので、何を言われようと神社には絶対に寄るつもりだけれども。
朝から野田山様のお顔が見られるだけで一日を幸せに過ごすことが出来る、私はそんな単純な女なのである。
野田山様野田山様ぁ~なんてルンルンで靴を履き、玄関から飛び出すような気持ちで外に出る。
ティナちゃんはティナちゃんで『外だ~!』とテンションを上げている。
外に出る時間が短すぎてティナちゃんががっかりしないかと少し不安に思いながら、神社のほうへと足を向ける。
『神社ってのはあのもっさりしてるとこね?』
「そうそう」
大きなクスノキが沢山あるので、確かにティナちゃんの言う通りもっさりしている。鬱蒼としているとも言う。
そしてその境内の側に、いつもならもふもふの尻尾をゆらりゆらりと揺らしながらお掃除をしている野田山様がいる……はずだったのだが。
「誰かいる……」
お目当ての野田山様がいたのだが、私の知らない人と一緒にいる。
知らない人の気配を察知した私は、その場で足を止めた。
『なんで止まるのよ』
「知らない人がいるから」
『だからってこんなに遠くで止まる!? まだあれは背が高いから男だろうな、くらいしか分からないじゃないの!』
「あっちに気付かれないうちにこの場から去りたいなぁって」
『そんなことしたらあの狐とお話出来ないけどいいの?』
「ううう……」
野田山様ぁ。
野田山様に朝の挨拶をしたい気持ちはあるけれど、知らない人と一緒にいる野田山様に声をかける勇気はない。
『あの男なら大丈夫だからさっさと行きましょ』
「なんで大丈夫だって分かるの?」
『勘!』
「シンプル! いや無理無理知らない人無理」
私は見ず知らずの人間が怖いのだ。
知らない人は私の赤い瞳を見て、必ず怖がるか気味悪がるか不躾な好奇心をぶつけてくるか……とにかくいい印象を持たれることはない。いつだってそうだった。
そんな目で人に見られるたびに情けなくなってみたり惨めな気持ちになってみたり、とにかく無性に悲しい。好きでこんな色に生まれたわけではないのに。
ちなみにカラコンは無理だった。アレルギーで。
とにかく朝っぱらからそんな気持ちになりたくないし野田山様の前でそんなことになるなんて絶対に嫌だ。
ここは野田山様に挨拶するのを諦めて店に滑り込んでやろう。人生諦めが肝心だ。
『あ、ほら狐が気付いた』
「は!?」
まだこんなに距離があるのに!? と思いながら野田山様のほうを見ると、そこにはこちらに向かって手招きしている野田山様がいた。
遠くて見えないけど、おそらくにこやかな笑顔で手招きをしている。
『呼ばれてるんだから行くしかないでしょ』
「う、うう……」
『私が付いてるんだから大丈夫よ』
そうだ。今は一人じゃない。皆に見えるかどうかは分からないけど、私の側にはティナちゃんがいるんだ。
……何かあったらティナちゃんのせいにすればいい。
そして、野田山様に呼ばれたのなら仕方ない、と渋々足を進めると、やっぱり野田山様は満面の笑みでそこにいた。
「おはよう」
「おはようございます、野田山様」
私が野田山様に頭を下げながら挨拶をすると、野田山様と一緒にいた知らない人がこちらに向けてぺこりと頭を下げる。
「杉光さんの娘さんですか?」
「……あ、はい」
声をかけられたので、おずおずと返事をする。
目を見るべきか、というかこちらの目を見せるべきかを悩んでいたら、彼がもう一度ぺこりと頭を下げた。
「杉光さん……えーっと、あなたのお父さんの紹介で来ました、樹風吏といいます」
「お父……さんの?」
失踪した父の紹介で来たってどういうことだ? と思わず顔を上げたら、樹さんとやらと目が合った。
彼は私の瞳を見ても驚きはしないようだ。
にこにこと笑いながら「一週間ほど前に杉光さんのお父さんに会ったんですよ」なんて言っている。
正直こちらのほうが驚いた。私の瞳を見て驚かなかったからではない。彼の瞳が緑色だったからだ。
もしかしたら彼は私と同じ人種なのかもしれない。
「あ、僕の目も特殊な色なんすよ。杉光さんも本当に赤いんすね。お父さんに聞きましたよ」
めちゃくちゃフランクな感じで言われた。
「えっと」
「僕は片親があやかしだからなんすけどね」
同じ人種じゃなかった。特殊だった。
「か、片親が、あやかし?」
「そうですそうです。母が古椿の霊っていうあやかしで」
そんな人もいるんだ。あやかしと人間のハーフ……っていうのかな?
艶やかな黒髪に緑色の瞳、細身で背は高いけどちょっと猫背で、どこからどう見ても普通の人間だけれど、半分はあやかしなのだという。
『顔はいいわね』
と、ティナちゃんが呟く。
「そちらは?」
樹さんの視線がティナちゃんのほうへ向いている。
「え、見えるんですか?」
「え、はい。半分あやかしなんで大体のものは見えますね。幽霊っすか?」
『幽霊ではないと思うのよねぇ』
ティナちゃんは顎に手を当てながら、うーんと首を捻っている。
そんなティナちゃんに、樹さんは「透けてるのに?」と質問を続けていて、ティナちゃんもティナちゃんで『透けてるのに』と答えていた。
野田山様の視線は二人の会話に合わせるように行ったり来たりしているので、野田山様もティナちゃんのことは見えているのだろう。
野田山様は位の高いあやかしだそうだから、私には見えないものも見えていそうだもんな。
『ところで泉美ちゃんの父親からの紹介ってどういうこと? あなた何しに来たの?』
二人でぽんぽんと会話をしているな、と思ったら、突然私の話になっていた。
「喫茶店で働かせてくれるって話だったんすよ。だから働きに来ました」
「え」
樹さんは喫茶店の従業員として来たらしい。
その言葉を聞いて、私だけじゃなく野田山様もティナちゃんも驚いて目を丸くしている。
なぜならうちの喫茶店は今にも潰れそうな、閑古鳥が鳴くほどの店なのだ。
働き始めた途端潰れることもあり得るし、お給料が払えない。
「お、おおおお給料なんか払えませんよ!?」
「って言うと思うって杉光さんも言ってたんで、内情は知ってます。だからその辺は大丈夫です」
「えぇ?」
「前払いで貰った分があったりとか、まぁ、こっちはこっちで色々あって……」
樹さんはそう言うと、どこか物悲し気な顔で遠くを見ていた。なんか、あるんだろうな。色々と……。
こっちもこっちで色々あるわけだし、深く追求するのはやめておこう。
他人を詮索したってろくなことはない。多分。
「樹さんが大丈夫ならいいんですけど」
「大丈夫です。杉光さんに娘を助けてやってほしいって言われて来たんで、僕に出来ることがあればなんでもします」
「ありがとう……ございます」
父め、何も言わずに失踪したくせに、他人に私を任せるなんて。
「父は、どこで何をしてるんでしょうか?」
「え、僕もそれは知りません。僕も助けてもらっただけなんで」
「そうですか」
別に、どこで何をしていようと、生きてるならそれでいいんだけど。迷惑さえかけてこなければ。
元々好きなようにやってた人だから、突然の失踪だってそこまで驚いたって仕方ないとすら思っているくらいだもの。
……しかし、そんなことよりも気になるのが、初対面の人と一緒に働いていけるのかってことだよな。
うちで働くってことは、一緒にやっていかなければならないわけで、己のコミュニケーション能力に不安がある……不安しかない……。
『喫茶店で働くってことは接客? 調理?』
「あ、僕祖父の影響で子どもの頃からコーヒーとか紅茶とかに詳しいんすよ。あとスイーツ作るのも好きで」
『即戦力じゃないの』
不安しかないけど、今の私にはティナちゃんがいるんだった。
ティナちゃんがいてくれるならなんとかなるような気もする。そんなことを思いながら、ちらりと野田山様のほうを見上げると、見事に目が合った。
「大丈夫」
何も聞いていないけれど、野田山様はにっこりと笑ってそう言ってくれた。
野田山様が大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろう。
何が何だか分からないけれど、大丈夫。……だったらいいなぁ。
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