ゆるゆる冒険者生活にはカピバラを添えて

蔵崎とら

文字の大きさ
上 下
12 / 17

水草を採取する

しおりを挟む
「穏やかな天気ねぇ」
「本当、お散歩日和ですねぇ」

 なんて、穏やかな会話をしながら、私たちは徒歩でペサレの泉を目指している。
 ペサレの泉は冒険者ギルドの門を出てすぐの森の奥にあるとのことで、地図を見てみたらそれほど遠くなかったので移動は徒歩を選んだわけだ。
 ギルドの敷地内もギルドの外も、いろんな聖獣がいて、皆違って皆かわいい。
 そして私の足元をのしのし付いて来ているモルンもとてもかわいい。
 よく見たら時々私のことを見上げているようで、それはそれはとてもかわいい。
 お仕事が終わったらおやつを買ってあげようねぇ。
 私はギルドの敷地内に聖獣のおやつ屋さんというのを見付けていたのだ。
 このお仕事が終わって報酬を貰ったら一番におやつとアクセサリー的なものを買うと決めている。
 ちなみに聖獣は野生動物ではないので食べ物を食べなくても生きていける。
 食べたければ食べるし、食べることに興味がない聖獣は一生食べないこともあるのだとか。
 そして聖獣は聖獣を食べないので、肉食獣であるウォルクとモルンやネポスが一緒に生活していても問題はない。
 聖獣とは実に不思議でかわいい生き物なのである。

「森だわ。この奥にある泉ね」

 歩いて歩いて、時々モルンと目と目を合わせて微笑んで、そんなことをしていたらあっという間に森に着いていた。

「水の音もしてますし、迷うこともなさそうですね」
「そうね」

 森に足を踏み入れたあたりから、小川のせせらぎが聞こえ始めていた。
 森といっても鬱蒼とした森ではなく、ピクニックが出来そうな森のようだ。
 ギルドで見せてもらった依頼書にも猛獣や魔物の出現はなしと書かれていたから、初心者に優しい森なのかもしれない。

「しかし水草を急ぎで採取してほしいってどういうことなんでしょうね?」

 と、ティーモが首を傾げる。
 それに答えたのはイヴォンだった。

「ウンディーネの髪飾りは薬草だから、どこかで病人が出たんじゃないかな」

 ウンディーネの髪飾りって薬草だったんだ。

「薬草なんですねぇ」

 ティーモも知らなかったようで、感心している。

「そう、薬草。確かなんとかっていう疫病の薬を作る素材だったと思うけど」
「疫病?」
「はい。どっかで流行り病でも出たのかも……?」

 採取量も多ければ多いほど助かる感じだったし、あながち間違いではなさそうな気もする。

「じゃあ出来るだけたくさん採取して帰りましょうね」
「そうしましょうそうしましょう」

 採取するのはモルンなんだけど、モルンは大丈夫かしら?

「モルン、お願いね」
「きゅるるるる」

 やる気に満ちているようだ。いやまぁいつものかわいい顔だけれど。

 そんなこんなでペサレの泉に到着した。

「それじゃあモルン、ウンディーネの髪飾りっていう水草を取ってきてください」

 私がそう声を掛けると、モルンは「ふんっ」と気合いの鼻息を零して泉に飛び込んだ。

「泳ぐモルンもかわいいわねぇ」

 普段あんなにのしのし歩いてるのに、水に入ってしまえばすいすい泳いでいる。かわいい。
 あんよがびよーんってなっててかわいい。

「綺麗な泉ですね。泳ぐモルンさんがよく見える」

 ティーモが言った。

「本当ねぇ」

 泉のほとりで、モルンの仕事ぶりを眺めながら感心していると、イヴォンも泉を覗き込みに来た。

「ペサレの泉の水は裂傷によく効くポーションにも使われるから、持って帰れば売れるんじゃないかと」

 だそうだ。売れるのなら持って帰りたいところ。

「イヴォンさんって、さっきの薬草のこともですけど、そういうのに詳しいんですね」

 ティーモが呟いた。
 確かに、ウンディーネの髪飾りが疫病に効く薬の素材になるなんて、依頼書にも書いてなかったな。

「昔の知り合いに、魔法薬専門の薬師がいたもので」
「なるほど」
「魔法薬専門の薬師……ってことは、本当に流行り病だったとしたら、その知り合いさんも忙しくしてるかも?」

 私がそう問いかけると、イヴォンはふ、と微笑んだ。昔を懐かしむように。

「あ、モルンさんが戻ってきましたよ」

 さっきまで潜っていたモルンが、すい~、と上昇してきている。かわいい。

「え、なんかもっさり持ってきてますよね」
「本当だわ、もっさりしてる」

 モルンは一度に大量の水草を取って来たようで、口元が水草でもっさりしている。

「わぁ、ありがとうモルン!」
「きゅー」

 泉のほとりにもっさりとしたウンディーネの髪飾りを置いて、またすぐに潜っていった。

「じゃあ私たちはこれを袋に詰めましょうか」
「はい!」

 モルンが持ってきてくれたウンディーネの髪飾りを、アブルとネポスが長さごとに仕分けをしてくれているので、私とティーモとイヴォンの三人で黙々と袋に詰めていく。

「葉っぱの色も綺麗だし、なんか真珠みたいな実もついてるし、本当に髪飾りみたいですねぇ」
「確かにこのまま髪飾りに出来そう」
「でもこれ乾くとすぐに黒くなるんですよ」

 ティーモと私がウンディーネの髪飾りを髪に当ててみたりしていたら、イヴォンがぽつりと零した。
 こんなにも綺麗なのに、すぐに黒くなってしまうなんて。

「じゃあ髪飾りには出来ないのね。こんなに綺麗なのに」
「そうですね。俺は黒くなった状態の物しか見たことがなかったから、こんなに綺麗だったなんて知りませんでした」

 イヴォンがくすりと笑った。

「お、もっさり第二弾が来た!」

 どうやらモルンはとても働き者のようだ。
 もっさりを陸に置いてもう一度潜っていってしまった。
 そんなもっさりをせっせせっせと袋に詰めて、用意していた袋が全てぱんぱんになった。

「きゅるるる、きゅるるる」

 もうそろそろ終わりにしようと思っていたが、モルンがもう一度潜っていった。
 またもっさりを持ってくるのかと思ったが、上がって来たモルンの口元にもっさりはない。
 泳ぎたくなったのかな? と思ってモルンの動向を見ていると、モルンはかわいい鳴き声を零しながら私のところへ歩いてきた。

「どうしたの?」

 座って作業をしていた私の腕に鼻先を擦り付けているので何事かと思えば、モルンは私の膝の上に何かを置いた。

「何、あら、綺麗ね」

 どうやらモルンは泉の底で宝石のような物を見付けてきたらしい。

「私にくれるの?」
「きゅるる」

 ということは、私へのプレゼントということ!? 最高にかわいい!

「ありがとうモルン」

 そう言って耳のあたりをなでると、モルンは嬉しそうに目を細めて「くくく」と鳴いた。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ほら、誰もシナリオ通りに動かないから

蔵崎とら
恋愛
乙女ゲームの世界にモブとして転生したのでゲームの登場人物を観察していたらいつの間にか巻き込まれていた。 ただヒロインも悪役も攻略対象キャラクターさえも、皆シナリオを無視するから全てが斜め上へと向かっていってる気がするようなしないような……。 ※ちょっぴり百合要素があります※ 他サイトからの転載です。

復讐のもふもふねこちゃんカフェ

蔵崎とら
恋愛
私は私を追い出した奴らを絶対に許さない。絶対に絶対に絶対にゆ、あっ、ちょ、待って待ってあーーーーー! ある日突然社長に「俺の婚約者が、君と一緒に仕事をしてほしくないって言ってるから」とか意味の分からんことを言われ店を辞めさせられた。私副社長なのに。 こんな理不尽絶対に許さない、と復讐心に燃えかけていたところに突如三匹の猫ちゃんが転がり込んでくる。 行く宛がないという猫ちゃんたちを追い出すわけにもいかないし、私は猫ちゃんたちと一緒に暮らすことにしたわけだが、その決断が大変な嵐を巻き起こすことになろうとは! といいつつ基本的には猫ちゃんたちに囲まれてゆるゆるもふもふライフを楽しんだりちょっと恋をしたりするお話。 ※※こちらの作品はフィクションでありファンタジーです。リアリティをお求めの方はお読みにならないことをお勧めいたします。読んでからの苦情は受け付けておりません※※ この作品は他サイトにも掲載しております。

悪役令嬢ではあるけれど

蔵崎とら
恋愛
悪役令嬢に転生したみたいだからシナリオ通りに進むように奔走しよう。そう決意したはずなのに、何故だか思った通りに行きません! 原作では関係ないはずの攻略対象キャラに求婚されるわ悪役とヒロインとで三角関係になるはずの男は一切相手にしてくれないわ……! そんな前途多難のドタバタ悪役令嬢ライフだけど、シナリオ通りに軌道修正……出来……るのか、これ? 三話ほどで完結する予定です。 ゆるく軽い気持ちで読んでいただければ幸い。  

破滅フラグを折ったのは?

蔵崎とら
恋愛
転生悪役令嬢の元に転生ヒロインがカチコミに来るお話。 ノリと勢いで書いたゆるふわ系の短い話です。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

小さな親切、大きな恩返し

よもぎ
恋愛
ある学園の交流サロン、その一室には高位貴族の令嬢数人と、低位貴族の令嬢が一人。呼び出された一人は呼び出された理由をとんと思いつかず縮こまっていた。慎ましやかに、静かに過ごしていたはずなのに、どこで不興を買ったのか――内心で頭を抱える彼女に、令嬢たちは優しく話しかけるのだった。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...