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ヒミツを共有する
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「不審者だと思ってとっ捕まえていなくて正解でしたわ!」
国際問題に発展するところだったものね!
「気付かなかったことにしておいたほうが無難かな……」
サロモンが呟く。
それを見たキャサリンが、きょとんとした表情で首を傾げた。
「お母様を病気で失い、お父様を捨てで国を出たとおっしゃってました……わよね? ですのに、第二王子殿下から逃げる、とは?」
お二人と第二王子殿下に何かご関係が? という話だろう。
どう言い逃れるべきか、なんて考えていたら、サロモンがぽつりと零す。
「第二王子とリゼット姉さんを婚約させるわけにはいかないから」
と。
それを言ってしまったら、このあと適当に取り繕えないのでは? と思ったけれど一度口から出た言葉を飲み込むことは出来ない。
「もしかして、リゼットお姉様も一度死んだはずなのになぜか人生をやりなおすことになった感じでして?」
サロモンはどうするつもりだろうと思っていたところに、こそこそと、キャサリンの謎の言葉が飛んでくる。
一度死んだはずなのに、人生をやりなおしている? どういうこと?
リゼットお姉様”も”ということは、キャサリンは死んだはずなのに人生をやりなおしているということ?
っていうかキャサリン今私のことリゼットお姉様って呼んだ? そもそもなんで声を潜めた?
と、疑問は多々あるが、この場にいる全員が思った。
おそらくキャサリンも私のように、多分訳ありの人だ……と。
「ああ、いや、リゼット姉さんはそっちのタイプではなくて」
サロモンがさらによく分からないことを言い出した。
しかしキャサリンは真剣な顔でサロモンの言葉に耳を傾けようとしている。
これほど真剣ということは、さっきの謎の言葉も冗談で言っているわけではないのだろう。おそらくは。
サロモンや私に色々あるように、キャサリンにも色々あるのだ……と思うようにしよう。今のところは。
「リゼットお姉様は、人生をやりなおしているわけではないということですのね?」
「そう。そうなんだけど、もしかしたら、キャサリンと似たような状況ではあるかもしれない」
「リゼットお姉様とあの第二王子殿下が婚約してしまえば没落する可能性が?」
「没落じゃなくて、リゼット姉さんは殺されることになる」
「なるほど、それは危険ですわね」
サロモンとキャサリンが猛烈に真剣な顔をして話し合っている。
しかしキャサリン、当事者である私も、ティーモだって半信半疑だった話を「なるほど」のたった一言で済ますとは。
しかし彼女の言うことが嘘ではないのであれば、彼女は人生二周目の猛者ということ。よほど不思議な話でなければ「なるほど」で済ますことが……出来るか?
「それでは、第二王子殿下、いえ、あの不審者をリゼットお姉様に近付けてはならないということですわね!」
「そう。あれは不審者だ。不審者をリゼット姉さんに近付けてはいけない」
「ポヨ、聞いていまして?」
「ニャーン」
「さっき見かけた不審者をリゼットお姉様に近付けてはなりません!」
「ニャーン」
声を掛けられたポヨは、モルンの横腹に張り付いたままゴロンとお腹を見せながら返事をしていた。
そんなポヨの隣で、モルンはこちらを見ながら「にー」と立派な前歯を見せていた。何してるのかはちょっとよく分からないけど、かわいいのでよし。
「私は私で気を付けるわね」
なんだか気合十分といった様子のキャサリンに声を掛ければ、こくこくと頷かれる。
「それは当たり前ですわ! しかし何が起きるかは分からないものなのですわ。私もなんとかこうして聖獣を召喚して冒険者登録に漕ぎつけたけれど、色々ありましたもの」
「それはそうかもしれないけれど、平民になった私と第二王子が婚約をすることなんて、無理な話だもの」
私がそう言うと、この場がしんと静まり返った。
第二王子が不審者に成り下がってこの家の周囲をうろちょろしていたとしても、知り合いになるくらいが関の山だと思うのは私だけではないでしょう。
「確かに」
ほら、ティーモもそう言っている。
「確かに、それはそうだけどね。でもキャサリンが言う通り何が起きるか分からないんだから、用心はしておくべきだよ」
「そうですわ。今のところこちらに他国の王族が来る予定もないみたいですし、あの人はこっそりこの国に来ているみたいですわ」
キャサリンがクリスタル板を見ながら言う。あれはスケジュール管理用のクリスタル板かな。
「うん、やっぱり用心しておいてねリゼット姉さん。出来る限り一人で行動しないこと。そして出来る限り不審者とは接触しないこと」
「分かったわ」
どちらにせよ接触したっていいことはなさそうなので大人しく言うことを聞いておこう。
「わたくしもポヨも協力しますわ!」
「ニャーン」
息ぴったりのキャサリンとポヨの主従関係に、ふと笑ってしまった。あまりにもかわいい。
「ええ、ありがとう。私も気を付けるとして、キャサリンは大丈夫なのかしら? 一度死んで人生をやりなおしているということは、その、大丈夫じゃなければ家族の没落だけじゃなく死んでしまうということよね?」
「……そう。処刑されるのですわ」
「……処刑。サロモンは、なにか知らないの?」
私の未来を知っているのだから、なにかを知っていたりしないのだろうか? とサロモンを見る。
しかしサロモンは力なく首を横に振った。
「ごめん、俺の記憶にはない。派生ゲームかコミカライズあたりの追ってなかったやつにはあったのかもしれないけど」
ちょっとなに言ってるか分かんないけれども。
「記憶にないということは、キャサリンが今後どうなるのかは誰も分からないのよね」
「そういうことになる」
「じゃあ、似たような秘密を共有する仲ということで、同盟でも結びましょうか」
私がそう言うと、キャサリンの瞳が嬉しそうに輝いた。
「よろしくお願いいたしますわっ!」
こうして私たちは、不思議な話からお互いを守る仲間となったのだった。
国際問題に発展するところだったものね!
「気付かなかったことにしておいたほうが無難かな……」
サロモンが呟く。
それを見たキャサリンが、きょとんとした表情で首を傾げた。
「お母様を病気で失い、お父様を捨てで国を出たとおっしゃってました……わよね? ですのに、第二王子殿下から逃げる、とは?」
お二人と第二王子殿下に何かご関係が? という話だろう。
どう言い逃れるべきか、なんて考えていたら、サロモンがぽつりと零す。
「第二王子とリゼット姉さんを婚約させるわけにはいかないから」
と。
それを言ってしまったら、このあと適当に取り繕えないのでは? と思ったけれど一度口から出た言葉を飲み込むことは出来ない。
「もしかして、リゼットお姉様も一度死んだはずなのになぜか人生をやりなおすことになった感じでして?」
サロモンはどうするつもりだろうと思っていたところに、こそこそと、キャサリンの謎の言葉が飛んでくる。
一度死んだはずなのに、人生をやりなおしている? どういうこと?
リゼットお姉様”も”ということは、キャサリンは死んだはずなのに人生をやりなおしているということ?
っていうかキャサリン今私のことリゼットお姉様って呼んだ? そもそもなんで声を潜めた?
と、疑問は多々あるが、この場にいる全員が思った。
おそらくキャサリンも私のように、多分訳ありの人だ……と。
「ああ、いや、リゼット姉さんはそっちのタイプではなくて」
サロモンがさらによく分からないことを言い出した。
しかしキャサリンは真剣な顔でサロモンの言葉に耳を傾けようとしている。
これほど真剣ということは、さっきの謎の言葉も冗談で言っているわけではないのだろう。おそらくは。
サロモンや私に色々あるように、キャサリンにも色々あるのだ……と思うようにしよう。今のところは。
「リゼットお姉様は、人生をやりなおしているわけではないということですのね?」
「そう。そうなんだけど、もしかしたら、キャサリンと似たような状況ではあるかもしれない」
「リゼットお姉様とあの第二王子殿下が婚約してしまえば没落する可能性が?」
「没落じゃなくて、リゼット姉さんは殺されることになる」
「なるほど、それは危険ですわね」
サロモンとキャサリンが猛烈に真剣な顔をして話し合っている。
しかしキャサリン、当事者である私も、ティーモだって半信半疑だった話を「なるほど」のたった一言で済ますとは。
しかし彼女の言うことが嘘ではないのであれば、彼女は人生二周目の猛者ということ。よほど不思議な話でなければ「なるほど」で済ますことが……出来るか?
「それでは、第二王子殿下、いえ、あの不審者をリゼットお姉様に近付けてはならないということですわね!」
「そう。あれは不審者だ。不審者をリゼット姉さんに近付けてはいけない」
「ポヨ、聞いていまして?」
「ニャーン」
「さっき見かけた不審者をリゼットお姉様に近付けてはなりません!」
「ニャーン」
声を掛けられたポヨは、モルンの横腹に張り付いたままゴロンとお腹を見せながら返事をしていた。
そんなポヨの隣で、モルンはこちらを見ながら「にー」と立派な前歯を見せていた。何してるのかはちょっとよく分からないけど、かわいいのでよし。
「私は私で気を付けるわね」
なんだか気合十分といった様子のキャサリンに声を掛ければ、こくこくと頷かれる。
「それは当たり前ですわ! しかし何が起きるかは分からないものなのですわ。私もなんとかこうして聖獣を召喚して冒険者登録に漕ぎつけたけれど、色々ありましたもの」
「それはそうかもしれないけれど、平民になった私と第二王子が婚約をすることなんて、無理な話だもの」
私がそう言うと、この場がしんと静まり返った。
第二王子が不審者に成り下がってこの家の周囲をうろちょろしていたとしても、知り合いになるくらいが関の山だと思うのは私だけではないでしょう。
「確かに」
ほら、ティーモもそう言っている。
「確かに、それはそうだけどね。でもキャサリンが言う通り何が起きるか分からないんだから、用心はしておくべきだよ」
「そうですわ。今のところこちらに他国の王族が来る予定もないみたいですし、あの人はこっそりこの国に来ているみたいですわ」
キャサリンがクリスタル板を見ながら言う。あれはスケジュール管理用のクリスタル板かな。
「うん、やっぱり用心しておいてねリゼット姉さん。出来る限り一人で行動しないこと。そして出来る限り不審者とは接触しないこと」
「分かったわ」
どちらにせよ接触したっていいことはなさそうなので大人しく言うことを聞いておこう。
「わたくしもポヨも協力しますわ!」
「ニャーン」
息ぴったりのキャサリンとポヨの主従関係に、ふと笑ってしまった。あまりにもかわいい。
「ええ、ありがとう。私も気を付けるとして、キャサリンは大丈夫なのかしら? 一度死んで人生をやりなおしているということは、その、大丈夫じゃなければ家族の没落だけじゃなく死んでしまうということよね?」
「……そう。処刑されるのですわ」
「……処刑。サロモンは、なにか知らないの?」
私の未来を知っているのだから、なにかを知っていたりしないのだろうか? とサロモンを見る。
しかしサロモンは力なく首を横に振った。
「ごめん、俺の記憶にはない。派生ゲームかコミカライズあたりの追ってなかったやつにはあったのかもしれないけど」
ちょっとなに言ってるか分かんないけれども。
「記憶にないということは、キャサリンが今後どうなるのかは誰も分からないのよね」
「そういうことになる」
「じゃあ、似たような秘密を共有する仲ということで、同盟でも結びましょうか」
私がそう言うと、キャサリンの瞳が嬉しそうに輝いた。
「よろしくお願いいたしますわっ!」
こうして私たちは、不思議な話からお互いを守る仲間となったのだった。
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