9 / 17
新しいお友達が増える
しおりを挟む
サロモンのストーカー……いえ、サロモンを尋ねて来た女の子の名はキャサリン・ゴールドストーンというそうだ。
ゆるく波打った薄紅色の髪に、きらめくサンストーンのようなオレンジ色の瞳が可愛い15歳の女の子。
ちなみに私が18歳でサロモンが17歳なので、私たちより少し年下だ。
キャサリンの聖獣は白く長い毛を持つ少し大きめな猫。名前はポヨ。
そんなキャサリンはサロモンに一目惚れをしたらしい。
サロモンもお母様似で中性的な顔をしているものね。姉の贔屓目もあるかもしれないけれど、綺麗な顔だと思う。
……だからまぁ、一目惚れをするのは分からなくもない、かもしれない。ただ、まさかそれで家まで押しかけてくるとは。
恋する乙女の行動力をなめてはいけない、ということだろうか。
そして、そんな主に似たのかポヨもどうやら一目惚れをしたらしい。まさかのモルンに。
さっきまで私になでられていたモルンだったが、不審者が去ったあたりでベッドに戻っていったのだ。
モルンのその様子を、じっと真ん丸の目で見ていたポヨは、モルンがベッドに寝そべったところでキャサリンの側を離れてモルンの脇腹にそっと寄り添った。
モルンの背に飛び乗ったネポスから、ちくりと小さなキックが入ったけれど、ポヨはそんなことお構いなし。
ゴロゴロと爆音で喉を鳴らしながらモルンに貼り付いている。それはもうぺったりと。
モルンのほうは我関せずといった様子で、ポヨを一瞥することもない。
なんとも不思議な光景だけれど、揉め事が起こるわけではないのでそっとしておいてもいい……のかな?
傍から見ていたらとてもかわいいし。
「皆さまはデザーウッド王国出身ですのね。……デザーウッド」
押しかけて来たキャサリンをさくっと追い返すのもなんだか悪い気がするし、ということで我々と彼女を含めた五人でティータイムとなった。
本日のお菓子はイヴォン特製のストロベリータルトである。とても美味しい。
「四人ともデザーウッド出身。俺とリゼット姉さんは完全に国を捨てて出てきたんだけどね」
「あら、そうなのですか?」
「そう。ちょっと色々あって」
「……と、いうことは、皆さま平民ということ」
「そういうことになるね。ゴールドストーンってことは、キャサリンは公爵令嬢かな」
「あ、ええ、まあ」
一人で押しかけて来ていい人じゃなかったのでは? まさかの公爵令嬢。
「ではキャサリン様とお呼びしたほうがいいのでしょうか?」
私がそう問いかけると、彼女はとても寂しそうな顔をした。
「いいえ……いいえ、わたくしのことはキャサリンと呼んでくださって構いませんわ」
そういうわけにはいかないのでは? 公爵令嬢なのに。
「だって、わたくしは皆さまと同じ、冒険者ですもの!」
「公爵令嬢が? 冒険者? 大丈夫?」
サロモンが矢継ぎ早に質問を飛ばした。
「現状は公爵令嬢ですわ。しかし近いうちに家を追い出されるでしょう」
「追い出される?」
首を傾げる我々四人を見たキャサリンは、深く頷いて見せる。
「わたくし、婚約者がいるのですけれど、その婚約者に恋人がいますの。婚約者はその恋人と結婚するために、婚約者とその取り巻きたちとで共謀し、わたくしに濡れ衣を着せて公爵家を没落に追い込もうと画策しているのですわ」
「とんでもない話が出てきたわね」
思わず口を挟んでしまった。
「わたくし、家族が大切ですの」
「……え、だから」
「だから、婚約者と取り巻きが面倒なことを起こす前にぐっちゃぐちゃにしてやるつもりで冒険者になったのですわ!」
とんでもないじゃじゃ馬かもしれない。
「……でも、本当はわたくしも、家も国も全て捨てたほうが、家族のためになったのかもしれないとは、思っていて……だから、お二人の勇気が羨ましいですわ」
「いやいや、俺たちは大切な家族である母親を病気で失って、さらに父親を憎んで捨てたんだから。大切な家族を守るために行動したキャサリンの勇気も大したもんだと思うよ」
サロモンが微笑みながらそう言うと、キャサリンの頬が薔薇色に染まった。完全に落ちた顔をしている。恋に落ちている。サロモンったら罪作りな男だこと。
「でも、冒険者になっただけで、ぐっちゃぐちゃになるのかしら?」
ふと私が首を傾げると、頬を薔薇色に染めてぼんやりしていたキャサリンが我に返った。
「わたくしの婚約者は侯爵家の男なのですが、そちらの侯爵家は職を持つ女は嫁にしないというしきたりがあるのですわ。ですから私が冒険者登録をした時点で結婚相手にふさわしくなくなる。現に彼のお母様である侯爵夫人が婚約解消の話を進めようとしているところですわ」
「じゃあ、丸く収まりそうなのかしら?」
「婚約の話さえなくなれば濡れ衣を着せられることもないでしょうし、大丈夫だと思いますわ。それにこのことは王子殿下にも話を通して……」
キャサリンが動きを止めた。
そしてサロモン、私、イヴォン、ティーモを見回して、己の胸の前でぱちんと手を叩く。
「思い出しましたわ! さっき外で見た不審者! あれは確か、デザーウッド王国の王族ですわ!」
「デザーウッドの王族?」
「どこかで見た顔だとは思っていましたの! そうですわ、きっとそう。数年前近隣諸国の交流会で見た……デザーウッド王国の、王子、弟のほう……第二王子殿下ですわ!」
やっと思い出せたらしいキャサリンのスッキリした顔とは裏腹に、我々四人は完全に青ざめてしまった。
なぜよりによって第二王子がこの国に!?
「俺たち、その第二王子から逃げてきたみたいなもんなのに!」
「ええ!?」
ゆるく波打った薄紅色の髪に、きらめくサンストーンのようなオレンジ色の瞳が可愛い15歳の女の子。
ちなみに私が18歳でサロモンが17歳なので、私たちより少し年下だ。
キャサリンの聖獣は白く長い毛を持つ少し大きめな猫。名前はポヨ。
そんなキャサリンはサロモンに一目惚れをしたらしい。
サロモンもお母様似で中性的な顔をしているものね。姉の贔屓目もあるかもしれないけれど、綺麗な顔だと思う。
……だからまぁ、一目惚れをするのは分からなくもない、かもしれない。ただ、まさかそれで家まで押しかけてくるとは。
恋する乙女の行動力をなめてはいけない、ということだろうか。
そして、そんな主に似たのかポヨもどうやら一目惚れをしたらしい。まさかのモルンに。
さっきまで私になでられていたモルンだったが、不審者が去ったあたりでベッドに戻っていったのだ。
モルンのその様子を、じっと真ん丸の目で見ていたポヨは、モルンがベッドに寝そべったところでキャサリンの側を離れてモルンの脇腹にそっと寄り添った。
モルンの背に飛び乗ったネポスから、ちくりと小さなキックが入ったけれど、ポヨはそんなことお構いなし。
ゴロゴロと爆音で喉を鳴らしながらモルンに貼り付いている。それはもうぺったりと。
モルンのほうは我関せずといった様子で、ポヨを一瞥することもない。
なんとも不思議な光景だけれど、揉め事が起こるわけではないのでそっとしておいてもいい……のかな?
傍から見ていたらとてもかわいいし。
「皆さまはデザーウッド王国出身ですのね。……デザーウッド」
押しかけて来たキャサリンをさくっと追い返すのもなんだか悪い気がするし、ということで我々と彼女を含めた五人でティータイムとなった。
本日のお菓子はイヴォン特製のストロベリータルトである。とても美味しい。
「四人ともデザーウッド出身。俺とリゼット姉さんは完全に国を捨てて出てきたんだけどね」
「あら、そうなのですか?」
「そう。ちょっと色々あって」
「……と、いうことは、皆さま平民ということ」
「そういうことになるね。ゴールドストーンってことは、キャサリンは公爵令嬢かな」
「あ、ええ、まあ」
一人で押しかけて来ていい人じゃなかったのでは? まさかの公爵令嬢。
「ではキャサリン様とお呼びしたほうがいいのでしょうか?」
私がそう問いかけると、彼女はとても寂しそうな顔をした。
「いいえ……いいえ、わたくしのことはキャサリンと呼んでくださって構いませんわ」
そういうわけにはいかないのでは? 公爵令嬢なのに。
「だって、わたくしは皆さまと同じ、冒険者ですもの!」
「公爵令嬢が? 冒険者? 大丈夫?」
サロモンが矢継ぎ早に質問を飛ばした。
「現状は公爵令嬢ですわ。しかし近いうちに家を追い出されるでしょう」
「追い出される?」
首を傾げる我々四人を見たキャサリンは、深く頷いて見せる。
「わたくし、婚約者がいるのですけれど、その婚約者に恋人がいますの。婚約者はその恋人と結婚するために、婚約者とその取り巻きたちとで共謀し、わたくしに濡れ衣を着せて公爵家を没落に追い込もうと画策しているのですわ」
「とんでもない話が出てきたわね」
思わず口を挟んでしまった。
「わたくし、家族が大切ですの」
「……え、だから」
「だから、婚約者と取り巻きが面倒なことを起こす前にぐっちゃぐちゃにしてやるつもりで冒険者になったのですわ!」
とんでもないじゃじゃ馬かもしれない。
「……でも、本当はわたくしも、家も国も全て捨てたほうが、家族のためになったのかもしれないとは、思っていて……だから、お二人の勇気が羨ましいですわ」
「いやいや、俺たちは大切な家族である母親を病気で失って、さらに父親を憎んで捨てたんだから。大切な家族を守るために行動したキャサリンの勇気も大したもんだと思うよ」
サロモンが微笑みながらそう言うと、キャサリンの頬が薔薇色に染まった。完全に落ちた顔をしている。恋に落ちている。サロモンったら罪作りな男だこと。
「でも、冒険者になっただけで、ぐっちゃぐちゃになるのかしら?」
ふと私が首を傾げると、頬を薔薇色に染めてぼんやりしていたキャサリンが我に返った。
「わたくしの婚約者は侯爵家の男なのですが、そちらの侯爵家は職を持つ女は嫁にしないというしきたりがあるのですわ。ですから私が冒険者登録をした時点で結婚相手にふさわしくなくなる。現に彼のお母様である侯爵夫人が婚約解消の話を進めようとしているところですわ」
「じゃあ、丸く収まりそうなのかしら?」
「婚約の話さえなくなれば濡れ衣を着せられることもないでしょうし、大丈夫だと思いますわ。それにこのことは王子殿下にも話を通して……」
キャサリンが動きを止めた。
そしてサロモン、私、イヴォン、ティーモを見回して、己の胸の前でぱちんと手を叩く。
「思い出しましたわ! さっき外で見た不審者! あれは確か、デザーウッド王国の王族ですわ!」
「デザーウッドの王族?」
「どこかで見た顔だとは思っていましたの! そうですわ、きっとそう。数年前近隣諸国の交流会で見た……デザーウッド王国の、王子、弟のほう……第二王子殿下ですわ!」
やっと思い出せたらしいキャサリンのスッキリした顔とは裏腹に、我々四人は完全に青ざめてしまった。
なぜよりによって第二王子がこの国に!?
「俺たち、その第二王子から逃げてきたみたいなもんなのに!」
「ええ!?」
12
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ほら、誰もシナリオ通りに動かないから
蔵崎とら
恋愛
乙女ゲームの世界にモブとして転生したのでゲームの登場人物を観察していたらいつの間にか巻き込まれていた。
ただヒロインも悪役も攻略対象キャラクターさえも、皆シナリオを無視するから全てが斜め上へと向かっていってる気がするようなしないような……。
※ちょっぴり百合要素があります※
他サイトからの転載です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
復讐のもふもふねこちゃんカフェ
蔵崎とら
恋愛
私は私を追い出した奴らを絶対に許さない。絶対に絶対に絶対にゆ、あっ、ちょ、待って待ってあーーーーー!
ある日突然社長に「俺の婚約者が、君と一緒に仕事をしてほしくないって言ってるから」とか意味の分からんことを言われ店を辞めさせられた。私副社長なのに。
こんな理不尽絶対に許さない、と復讐心に燃えかけていたところに突如三匹の猫ちゃんが転がり込んでくる。
行く宛がないという猫ちゃんたちを追い出すわけにもいかないし、私は猫ちゃんたちと一緒に暮らすことにしたわけだが、その決断が大変な嵐を巻き起こすことになろうとは!
といいつつ基本的には猫ちゃんたちに囲まれてゆるゆるもふもふライフを楽しんだりちょっと恋をしたりするお話。
※※こちらの作品はフィクションでありファンタジーです。リアリティをお求めの方はお読みにならないことをお勧めいたします。読んでからの苦情は受け付けておりません※※
この作品は他サイトにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢ではあるけれど
蔵崎とら
恋愛
悪役令嬢に転生したみたいだからシナリオ通りに進むように奔走しよう。そう決意したはずなのに、何故だか思った通りに行きません!
原作では関係ないはずの攻略対象キャラに求婚されるわ悪役とヒロインとで三角関係になるはずの男は一切相手にしてくれないわ……! そんな前途多難のドタバタ悪役令嬢ライフだけど、シナリオ通りに軌道修正……出来……るのか、これ?
三話ほどで完結する予定です。
ゆるく軽い気持ちで読んでいただければ幸い。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
小さな親切、大きな恩返し
よもぎ
恋愛
ある学園の交流サロン、その一室には高位貴族の令嬢数人と、低位貴族の令嬢が一人。呼び出された一人は呼び出された理由をとんと思いつかず縮こまっていた。慎ましやかに、静かに過ごしていたはずなのに、どこで不興を買ったのか――内心で頭を抱える彼女に、令嬢たちは優しく話しかけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる