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伝染する動揺
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スイートポテトは本当に本当に美味しかった。
だから周囲に集まって来た人もきっとスイートポテト目当てだと思っていた。
だがしかし、よくよく見たら私の周囲に集まって来ていた人たちは皆男性である。
こんなに美味しい、しかも評判のスイートポテトがあるというのに男だけが集まってくるのは不自然か。
……そもそも皆スイートポテトのこと見てないな?
なんて間抜けなことを考えていたわけだが、私はこの皆様協力の元作られた己の美貌を忘れていたのだ。
なんかめちゃくちゃ自己紹介されるしヴィージンガー家の男との婚約を解消したことを確認される。
これはもしかして、いやもしかしなくても結婚相手として見られている……!?
「ちょ、ちょっとちょっと」
ふと聞き覚えのある声がした。
いつの間にか集まっていた人が壁のようになっており、その向こうから声がしているらしい。
「通してもらいますよー!」
人の壁をかき分けるようにして姿を現したのは、目を見開いて驚いたような顔をしたクリストハルト様だった。
「あ、クリストハルト様」
「……えっ!?」
めちゃくちゃ驚かれた。
「えっ!?」
なんか改めてもう一回驚かれた。
「クリストハルト様?」
「ルーシャ……」
クリストハルト様は驚いた顔のままこちらに近付いて来て、私の腕を掴み、ぐいぐいと私をその場から引っ張り出した。
ばたばたとその場を離れて連れてこられたのは……裏庭? 人はいないけれど綺麗に整えられた可愛らしい花壇があった。
「ルーシャ、どういうこと!?」
ハンネローレ様たちに綺麗にしてもらったんですよ! なんて、自慢げに言うつもりだった。
なんだったらその場でくるりと一回転してドヤ顔までキメてやろうと思っていた。
それなのに、何も出来なかった。だって、クリストハルト様の顔が真っ赤になっていたから。その顔のあまりの赤さに動揺して何も言えなかったのだ。
「え、ど、どういうことって」
「い、いつもと全然違う、から」
クリストハルト様も私も完全に動揺している。
「あの、えっと、ハンネローレ様に、やってもらって」
「そ、そうなんだ」
「変……ですか?」
「変じゃないよ!」
変じゃない、の部分だけ食い気味で言われたし、ちょっと強めに両肩を掴まれた。ビックリした。
なんかこの妙に甘酸っぱい空気にもビックリしてるけど。
「綺麗だよ、ルーシャ」
甘酸っぱいと思った次の瞬間、真剣な顔でそう言われたことにももちろんビックリしている。
そしてゆっくり近付いてくるクリストハルト様の顔面にもビックリしている。
……え、これ何? キスされる流れ!? 心の準備がまだですけど!?
いやでも心の準備はまだだけど別に嫌ではないな! なんて、瞳を閉じてしまおうかと思ったその瞬間、近くからがさがさと物音がした。
クリストハルト様と私の視線が、物音がした方向へと向く。
「あ」
「……あ」
一瞬、時が止まった気がした。
「あら、どうぞ続けて」
物音を立てたのは、社交界美人カルテットの皆さんとマリカさんで、皆ワクワクした様子でこちらを見ている。
しかも動きを止めてしまった我々に続きを促している。
……いや無理だよ。
「ハンネローレ嬢」
ほら、クリストハルト様もハンネローレ様に怒ってるもん。
「綺麗でしょ?」
クリストハルト様の怒気をものともしないハンネローレ様は、可愛らしく小首を傾げてそう言った。
「綺麗だけど! どうしてくれるんですか!」
クリストハルト様はまぁまぁ怒っているようだが、何に怒っているんだろう? 覗きに対して怒るのであれば「どうしてくれるんですか」ではなく「何をしてるんですか」じゃないだろうか?
「何をそんなに怒っているの? ルーシャがこんなにも綺麗なのに」
「綺麗だけど! 世界中の全員がルーシャの美しさに気が付いてしまったでしょう!」
何言ってんだこの人。
「それのどこが問題なのかしら?」
「ルーシャの美しさも可愛さも俺だけが知ってればそれでいいのに! これではルーシャが誰かに奪われてしまう」
「奪われる前にとっとと結婚してしまえばいいじゃない」
「それはそうだけど! でも、婚約を解消したばかりのルーシャに……待ってましたみたいな、こんなタイミングでプロポーズなんか」
「私が何もしなくてもルーシャの美しさなんかあのゴミ以外皆気付いているわ。タイミングがどうとか、ぐずぐずしてたら簡単に奪われるわよ」
何喧嘩してんだこの人たち。
「私が調べる限り、今ルーシャに結婚を申し込もうとしているのは8名いるわ。その中で家同士の繋がりを求めているのは2件。他は皆自分の意思でルーシャを選んでいる」
驚いた私が極めて小さな声で「そんなに!?」と零せば、それを拾ったハンネローレ様が頷きながら笑みを浮かべる。
あの美しい笑みは、冗談を言っているときの笑みではない。
「あの、ルーシャ……」
クリストハルト様に名を呼ばれた。
驚いた顔のままハンネローレ様を見ていた私は、弾かれたようにクリストハルト様の顔を見上げる。
するとクリストハルト様はそっと私の手を取って言うのだ。
「俺と、結婚を前提にお付き合いしてください」
と。
この世界らしくない、なんとも日本っぽい感じの言葉での告白だったから、私は思わず笑ってしまった。
「ふふ、はい。喜んで」
なんてお返事をしながら。
だから周囲に集まって来た人もきっとスイートポテト目当てだと思っていた。
だがしかし、よくよく見たら私の周囲に集まって来ていた人たちは皆男性である。
こんなに美味しい、しかも評判のスイートポテトがあるというのに男だけが集まってくるのは不自然か。
……そもそも皆スイートポテトのこと見てないな?
なんて間抜けなことを考えていたわけだが、私はこの皆様協力の元作られた己の美貌を忘れていたのだ。
なんかめちゃくちゃ自己紹介されるしヴィージンガー家の男との婚約を解消したことを確認される。
これはもしかして、いやもしかしなくても結婚相手として見られている……!?
「ちょ、ちょっとちょっと」
ふと聞き覚えのある声がした。
いつの間にか集まっていた人が壁のようになっており、その向こうから声がしているらしい。
「通してもらいますよー!」
人の壁をかき分けるようにして姿を現したのは、目を見開いて驚いたような顔をしたクリストハルト様だった。
「あ、クリストハルト様」
「……えっ!?」
めちゃくちゃ驚かれた。
「えっ!?」
なんか改めてもう一回驚かれた。
「クリストハルト様?」
「ルーシャ……」
クリストハルト様は驚いた顔のままこちらに近付いて来て、私の腕を掴み、ぐいぐいと私をその場から引っ張り出した。
ばたばたとその場を離れて連れてこられたのは……裏庭? 人はいないけれど綺麗に整えられた可愛らしい花壇があった。
「ルーシャ、どういうこと!?」
ハンネローレ様たちに綺麗にしてもらったんですよ! なんて、自慢げに言うつもりだった。
なんだったらその場でくるりと一回転してドヤ顔までキメてやろうと思っていた。
それなのに、何も出来なかった。だって、クリストハルト様の顔が真っ赤になっていたから。その顔のあまりの赤さに動揺して何も言えなかったのだ。
「え、ど、どういうことって」
「い、いつもと全然違う、から」
クリストハルト様も私も完全に動揺している。
「あの、えっと、ハンネローレ様に、やってもらって」
「そ、そうなんだ」
「変……ですか?」
「変じゃないよ!」
変じゃない、の部分だけ食い気味で言われたし、ちょっと強めに両肩を掴まれた。ビックリした。
なんかこの妙に甘酸っぱい空気にもビックリしてるけど。
「綺麗だよ、ルーシャ」
甘酸っぱいと思った次の瞬間、真剣な顔でそう言われたことにももちろんビックリしている。
そしてゆっくり近付いてくるクリストハルト様の顔面にもビックリしている。
……え、これ何? キスされる流れ!? 心の準備がまだですけど!?
いやでも心の準備はまだだけど別に嫌ではないな! なんて、瞳を閉じてしまおうかと思ったその瞬間、近くからがさがさと物音がした。
クリストハルト様と私の視線が、物音がした方向へと向く。
「あ」
「……あ」
一瞬、時が止まった気がした。
「あら、どうぞ続けて」
物音を立てたのは、社交界美人カルテットの皆さんとマリカさんで、皆ワクワクした様子でこちらを見ている。
しかも動きを止めてしまった我々に続きを促している。
……いや無理だよ。
「ハンネローレ嬢」
ほら、クリストハルト様もハンネローレ様に怒ってるもん。
「綺麗でしょ?」
クリストハルト様の怒気をものともしないハンネローレ様は、可愛らしく小首を傾げてそう言った。
「綺麗だけど! どうしてくれるんですか!」
クリストハルト様はまぁまぁ怒っているようだが、何に怒っているんだろう? 覗きに対して怒るのであれば「どうしてくれるんですか」ではなく「何をしてるんですか」じゃないだろうか?
「何をそんなに怒っているの? ルーシャがこんなにも綺麗なのに」
「綺麗だけど! 世界中の全員がルーシャの美しさに気が付いてしまったでしょう!」
何言ってんだこの人。
「それのどこが問題なのかしら?」
「ルーシャの美しさも可愛さも俺だけが知ってればそれでいいのに! これではルーシャが誰かに奪われてしまう」
「奪われる前にとっとと結婚してしまえばいいじゃない」
「それはそうだけど! でも、婚約を解消したばかりのルーシャに……待ってましたみたいな、こんなタイミングでプロポーズなんか」
「私が何もしなくてもルーシャの美しさなんかあのゴミ以外皆気付いているわ。タイミングがどうとか、ぐずぐずしてたら簡単に奪われるわよ」
何喧嘩してんだこの人たち。
「私が調べる限り、今ルーシャに結婚を申し込もうとしているのは8名いるわ。その中で家同士の繋がりを求めているのは2件。他は皆自分の意思でルーシャを選んでいる」
驚いた私が極めて小さな声で「そんなに!?」と零せば、それを拾ったハンネローレ様が頷きながら笑みを浮かべる。
あの美しい笑みは、冗談を言っているときの笑みではない。
「あの、ルーシャ……」
クリストハルト様に名を呼ばれた。
驚いた顔のままハンネローレ様を見ていた私は、弾かれたようにクリストハルト様の顔を見上げる。
するとクリストハルト様はそっと私の手を取って言うのだ。
「俺と、結婚を前提にお付き合いしてください」
と。
この世界らしくない、なんとも日本っぽい感じの言葉での告白だったから、私は思わず笑ってしまった。
「ふふ、はい。喜んで」
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