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絵に描いたように混乱した
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「面倒臭かったでしょう。ほら、たくさんお食べなさい」
ハンネローレ様が、女神のような顔をして私に食べ物を勧めてくる。
テーブルの上には、香りから推察するに最高級の紅茶、そして王都で評判のいいお菓子があれやこれや……とにかく、おそらく我が家では絶対に食べられないような高級な品々がずらりと並んでいる。
どうやら私は労われているらしい。
現在私の身に何が起きているのかというと……ちょっとよく分からない。
フランシス・ヴィージンガーの親戚と思われる人物から夜会に招待されたあの日から数日後、マリカさんから「領地に遊びに来ませんか?」というお誘いを受けた。
だから意気揚々とマリカさんのお屋敷にやってきたのだが、そこにいたのはマリカさんだけではなく、なんとびっくり、社交界美人カルテットの皆さんが揃っているではないか。
心配そうにこちらを見ているマリカさんと、状況が理解出来ない私。そして至極真面目そうにお茶会のセッティングをしている社交界美人カルテットの皆さん。
カオスである。
そんな中、私の到着に気が付いた皆さんは「早くお座りなさいな」と言って私を強制的に座らせる。
何が起きているのか分からない私は流されるまま指定された席に着いたのだ。
そして冒頭に戻る……と。
「面倒臭かった、とは?」
「ほら、元婚約者の親戚に絡まれたのでしょう?」
なぜ知ってるんだろう?
「元婚約者にも絡まれかけたとか」
いやなぜ知ってるんだろう?
「えっと、そうですね。絡まれました」
こくりと頷いて見せれば、カルテットの皆さんがちょっとだけ騒がしくなる。一斉に喋り出したので聞き取りづらいが「本当だったのね」「恥知らずね」みたいなことを言っているようだ。
要するに、皆なんとなく知ってるということだろう。なぜ知ってるんだ? マジで。
ちらりとマリカさんのほうを見ると、彼女は彼女で私のほうを心配そうな目で見ているので、もしかしたらマリカさんも知っているのかもしれない。なぜ。
「少し調べたのだけれど、ヴィージンガー家の親戚が没落しそうなんですってね」
いやもう私すらも知らんことを知っているではないかハンネローレ様。
え、と言いかけたところでハンネローレ様が私の口にスコーンをぶち込んできたので私の口は完全に塞がれた。口の中の水分が全部持ってかれる。
「このままだとヴィージンガー家もろとも没落するかもしれないのだそうよ」
漫画にはそんな描写一切なかったけどなぁ。
「だから最近評判を上げてきたマキオン家を手放したのが惜しくなったようね。本当に今更」
「初耳です」
ようやくスコーンを飲み込んだ私がそう言うと、ハンネローレ様に微笑まれる。
「でしょうね。貴族というものは恥部を隠すのがお上手ですもの」
笑顔は女神のようなのに、言ってることはなかなかにどす黒い。
「……でもフランシス・ヴィージンガーが最後に私に言ったのは『うちの援助がなくて本当に大丈夫か?』みたいなことでしたけどね」
私のその言葉を聞いたカルテットの皆さんは揃って絶句していた。
没落の話が本当で、その話をフランシス・ヴィージンガー本人が知っていたのだとしたら、まさに厚顔無恥……。
「あんな男に引っ掛からなくて良かったわね、ルーシャさん」
アウローラ様が労うように私の肩をぽんと叩いてくれる。
「ありがとうございます。正直……好きにならなくて良かったなって、今では思ってます」
何も知らずにあの男に惚れていたら、きっと散々だったんだろうな。
「あら、全く好きじゃなかったの?」
「そうですね。あの男、初対面の頃からずーっとムスッとしていましたし、好きになる余地もありませんでしたね」
そう言って笑えば、この場にいた皆が笑った。
その笑顔を見て、心が少し軽くなった気がする。笑い話にしてくれる人がいて、本当に良かった。
「ところで……なぜ皆さんは私の身に起きた面倒なことをご存知なのでしょう……?」
絶対に言ってないはずなのに皆詳しすぎる。
「……以前、婚約者のいる女の子に恋をしてしまった間抜けな男がいるって言ったでしょう?」
……あぁ、確かいつぞやの夜会で言っていた気がする。
ハンネローレ様が助言をしてあげたって話だったはずだ。
「その間抜けな男があまりにも一生懸命だったから、手伝ってあげることにしたの」
ハンネローレ様が助言どころか手伝いまでしてくれるとは。その間抜けな男さんがちょっとうらやましい。
「その間抜けな男はね、将来私の義理の弟になるのよ」
「義理の弟……ですか」
なるほど、将来的に親族になるから親身になっているのか。
ハンネローレ様と親族になれるのもちょっとうらやましいな。身内にこんな美人がいるなんて自慢できるじゃん。
なんてぼんやりと考えていたところ、ふとマリカさんが口を開いた。
「ハンネローレ様の婚約者様といえば、次期公爵様でしたよね」
「そう。クロウリー家の嫡男なの」
そっかぁ。クロウリー家かぁ。
「……クロウリー家?」
クロウリー家……クリストハルト・クロウリー……クロウリー家!?
「え」
「ちなみにその間抜けな男はクロウリー家の三男」
「え!?」
クロウリー家の三男ってクリストハルト様じゃん!
クリストハルト様、ハンネローレ様に間抜けな男とか言われてるの! 面白過ぎない!?
いやそうじゃなくて。
クリストハルト様、ハンネローレ様に助言してもらったり手伝ってもらったりしてたのか。うらやましいな!
いや、そうでもなくて。
クリストハルト様、婚約者がいる相手に恋してたの!? 全然知らなかった!
「……え、待ってどういうこと?」
私は完全に混乱していた。
ハンネローレ様が、女神のような顔をして私に食べ物を勧めてくる。
テーブルの上には、香りから推察するに最高級の紅茶、そして王都で評判のいいお菓子があれやこれや……とにかく、おそらく我が家では絶対に食べられないような高級な品々がずらりと並んでいる。
どうやら私は労われているらしい。
現在私の身に何が起きているのかというと……ちょっとよく分からない。
フランシス・ヴィージンガーの親戚と思われる人物から夜会に招待されたあの日から数日後、マリカさんから「領地に遊びに来ませんか?」というお誘いを受けた。
だから意気揚々とマリカさんのお屋敷にやってきたのだが、そこにいたのはマリカさんだけではなく、なんとびっくり、社交界美人カルテットの皆さんが揃っているではないか。
心配そうにこちらを見ているマリカさんと、状況が理解出来ない私。そして至極真面目そうにお茶会のセッティングをしている社交界美人カルテットの皆さん。
カオスである。
そんな中、私の到着に気が付いた皆さんは「早くお座りなさいな」と言って私を強制的に座らせる。
何が起きているのか分からない私は流されるまま指定された席に着いたのだ。
そして冒頭に戻る……と。
「面倒臭かった、とは?」
「ほら、元婚約者の親戚に絡まれたのでしょう?」
なぜ知ってるんだろう?
「元婚約者にも絡まれかけたとか」
いやなぜ知ってるんだろう?
「えっと、そうですね。絡まれました」
こくりと頷いて見せれば、カルテットの皆さんがちょっとだけ騒がしくなる。一斉に喋り出したので聞き取りづらいが「本当だったのね」「恥知らずね」みたいなことを言っているようだ。
要するに、皆なんとなく知ってるということだろう。なぜ知ってるんだ? マジで。
ちらりとマリカさんのほうを見ると、彼女は彼女で私のほうを心配そうな目で見ているので、もしかしたらマリカさんも知っているのかもしれない。なぜ。
「少し調べたのだけれど、ヴィージンガー家の親戚が没落しそうなんですってね」
いやもう私すらも知らんことを知っているではないかハンネローレ様。
え、と言いかけたところでハンネローレ様が私の口にスコーンをぶち込んできたので私の口は完全に塞がれた。口の中の水分が全部持ってかれる。
「このままだとヴィージンガー家もろとも没落するかもしれないのだそうよ」
漫画にはそんな描写一切なかったけどなぁ。
「だから最近評判を上げてきたマキオン家を手放したのが惜しくなったようね。本当に今更」
「初耳です」
ようやくスコーンを飲み込んだ私がそう言うと、ハンネローレ様に微笑まれる。
「でしょうね。貴族というものは恥部を隠すのがお上手ですもの」
笑顔は女神のようなのに、言ってることはなかなかにどす黒い。
「……でもフランシス・ヴィージンガーが最後に私に言ったのは『うちの援助がなくて本当に大丈夫か?』みたいなことでしたけどね」
私のその言葉を聞いたカルテットの皆さんは揃って絶句していた。
没落の話が本当で、その話をフランシス・ヴィージンガー本人が知っていたのだとしたら、まさに厚顔無恥……。
「あんな男に引っ掛からなくて良かったわね、ルーシャさん」
アウローラ様が労うように私の肩をぽんと叩いてくれる。
「ありがとうございます。正直……好きにならなくて良かったなって、今では思ってます」
何も知らずにあの男に惚れていたら、きっと散々だったんだろうな。
「あら、全く好きじゃなかったの?」
「そうですね。あの男、初対面の頃からずーっとムスッとしていましたし、好きになる余地もありませんでしたね」
そう言って笑えば、この場にいた皆が笑った。
その笑顔を見て、心が少し軽くなった気がする。笑い話にしてくれる人がいて、本当に良かった。
「ところで……なぜ皆さんは私の身に起きた面倒なことをご存知なのでしょう……?」
絶対に言ってないはずなのに皆詳しすぎる。
「……以前、婚約者のいる女の子に恋をしてしまった間抜けな男がいるって言ったでしょう?」
……あぁ、確かいつぞやの夜会で言っていた気がする。
ハンネローレ様が助言をしてあげたって話だったはずだ。
「その間抜けな男があまりにも一生懸命だったから、手伝ってあげることにしたの」
ハンネローレ様が助言どころか手伝いまでしてくれるとは。その間抜けな男さんがちょっとうらやましい。
「その間抜けな男はね、将来私の義理の弟になるのよ」
「義理の弟……ですか」
なるほど、将来的に親族になるから親身になっているのか。
ハンネローレ様と親族になれるのもちょっとうらやましいな。身内にこんな美人がいるなんて自慢できるじゃん。
なんてぼんやりと考えていたところ、ふとマリカさんが口を開いた。
「ハンネローレ様の婚約者様といえば、次期公爵様でしたよね」
「そう。クロウリー家の嫡男なの」
そっかぁ。クロウリー家かぁ。
「……クロウリー家?」
クロウリー家……クリストハルト・クロウリー……クロウリー家!?
「え」
「ちなみにその間抜けな男はクロウリー家の三男」
「え!?」
クロウリー家の三男ってクリストハルト様じゃん!
クリストハルト様、ハンネローレ様に間抜けな男とか言われてるの! 面白過ぎない!?
いやそうじゃなくて。
クリストハルト様、ハンネローレ様に助言してもらったり手伝ってもらったりしてたのか。うらやましいな!
いや、そうでもなくて。
クリストハルト様、婚約者がいる相手に恋してたの!? 全然知らなかった!
「……え、待ってどういうこと?」
私は完全に混乱していた。
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