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えらいことになりました
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クリストハルト様が「待ってて」と言って去ってから数日が経過していた。
原作通りならあの夜会でヒロインに一目惚れしたクリストハルト・クロウリーはその後あれやこれやとヒロインに付きまとうようになる。
しかしヒロインはもちろんフランシス・ヴィージンガーのことしか眼中にないのでクリストハルト・クロウリーから逃げ続ける。
クリストハルト・クロウリーがどんなにカッコイイことをしたって一切靡かずフランシス・ヴィージンガーを想い続けるヒロイン。そしてそのヒロインの邪魔をするルーシャ・マキオン。
そんな四角関係に動きが出るのは、クリストハルト・クロウリーが己の恋敵であるフランシス・ヴィージンガーの存在に気が付いた時。
ヒロインが自分に靡かないのは、あの男がいるからなのだと、結構な時間をかけて気が付くわけだが、気付いてからの行動はまぁまぁ素早かった。
王都のどこかに隠してあるという悪魔の書を探し出し、封印を解いて、さらには悪魔に魂を売って契約をしてしまうのだ。
邪魔なフランシス・ヴィージンガーを殺せるように、と。
漫画を読んでいるときは何もそこまでしなくても、と思っていたものだが、実際この目で見ていると、現在のフランシス・ヴィージンガーなんか私という邪魔な存在がいないせいでヒロインといちゃつきまくってるただの腑抜けなので悪魔の力なんかなくても簡単に消せそうなので……結局何もそこまでしなくても、という思いに行きつく。
いつか何かに使えるかもしれない、と私自身もフランシス・ヴィージンガーの恥ずかしい話を弱みとして握っているし、それを使えば社会的に殺すことも……出来なくもないしな。
とにもかくにも、クリストハルト様はどこに行ってしまったんだろうなぁ。あんまり危ないことはしてほしくないのだけれど。
……とはいえ、あの時のクリストハルト様の「待ってて」は結構軽かった気もする。
なんかちょっとコンビニ行ってくるから待ってて、程度の軽さだった。コンビニ行く感覚で悪魔に魂を売りに行ったということなのだろうか?
そうだとしたら……ちょっと面白いな。自分の魂軽く考えすぎじゃん、っていう。いや面白くはないんだけども。
そんなことを考えながら馬車に揺られて数時間。
私はマリカさんから貰った招待状を手に、オーバン家の領地へとやってきていた。
今日はこちらの領地でオーバン家のお店を見学して、つまみ細工の体験をして、から揚げとポテトを食べる予定なのだ。あぁ楽しみ楽しみ!
「ルーシャ様!」
「お久しぶりです、マリカさん!」
「えらいことになりました!」
「うん?」
なにやらえらいことになったらしい。
何事? と首を傾げると、オーバン家のお店と思われる建物の側に豪華な馬車が、えーっと、三台?
お店が繁盛しているってことであれば嬉しいことだろうけど、オーバン家のお店の客層は裕福な平民から下級貴族あたりだった気がする。
あの豪華な馬車は、明らかに上のほうの貴族だ。
「皆さんルーシャ様のお名前を出していましたし、お知り合いですよね! 助けてほしいんですっ」
涙目のマリカさんにぐいぐいと腕を引っ張られる。
私の名前を出していた? 知り合い? 誰!?
腕を引かれるままお店の中へと足を踏み入れれば、そこはお花のようないい香りが充満していた。
この香り、どこかで……?
「あらルーシャさん、遅かったですわね」
うわあああ社交界美人カルテットがいるぅ!! なんでぇ!?
「え、な、あ、みなさまごきげんよう」
ひっくり返りそうなほど驚いていたけれど、それを必死でこらえて一礼した。
「ごきげんよう。待っていましたのよ」
にっこりと笑ってそう言ったのはハンネローレ様だ。
なぜ待たれていたのだろう? 今日ここに来るなんて誰にも教えていないはずなのに。
「お、お待たせいたしました……?」
私が首を傾げながらそう言うと、カルテットの皆さんはけらけらと笑った。
「いえ、私たちが勝手に待っていただけなのですけれどね」
なんて、ハンネローレ様が笑っている。
「どういうこと、なのでしょう?」
私は混乱しながらぽつりと零す。
そこでマリカさんに「とりあえず座りましょう」と椅子をすすめられた。
断る理由もないし、とりあえず座る。すると私の前にとってもいい香りのお茶が用意された。心が落ち着く香りだ。まぁ動揺は激しいけれど。
「私たち、先日の夜会の後、ここに来ましたの。ルーシャさんに教えてもらったから」
「あ、そうだったんですね」
「その時に彼女とお話をしたの。ルーシャさんに教えてもらったって。そうしたら今度ルーシャさんもここに来るって言うから、しかもこの飾りを一緒に作るって」
「はい」
「だから私たちも一緒に作ってみたいわ、って話に」
「なるほど」
なるほどなるほど。一緒につまみ細工体験がやりたかったんだな。ビックリしたけどなんとなく分かった。
マリカさんが涙目なのは、社交界美人カルテットの皆さんは確か侯爵家の人だったり辺境伯家の人だったりするから、新興貴族のオーバン家のみでお相手をするのは荷が重いよね。
いや私にとっても荷が重いわ。
折角皆さんがここにいるのだから、とりあえずの営業活動みたいなことはするつもりだけど、万が一怒らせてしまったらと思うと……チビりそう。貴族の令嬢が言ってはならない言葉だが、マジでチビりそう。
いやでもこの状況が恐ろしいのは私よりもマリカさんだろうし、この状況を作ったのは私なので、頑張らなければ!
原作通りならあの夜会でヒロインに一目惚れしたクリストハルト・クロウリーはその後あれやこれやとヒロインに付きまとうようになる。
しかしヒロインはもちろんフランシス・ヴィージンガーのことしか眼中にないのでクリストハルト・クロウリーから逃げ続ける。
クリストハルト・クロウリーがどんなにカッコイイことをしたって一切靡かずフランシス・ヴィージンガーを想い続けるヒロイン。そしてそのヒロインの邪魔をするルーシャ・マキオン。
そんな四角関係に動きが出るのは、クリストハルト・クロウリーが己の恋敵であるフランシス・ヴィージンガーの存在に気が付いた時。
ヒロインが自分に靡かないのは、あの男がいるからなのだと、結構な時間をかけて気が付くわけだが、気付いてからの行動はまぁまぁ素早かった。
王都のどこかに隠してあるという悪魔の書を探し出し、封印を解いて、さらには悪魔に魂を売って契約をしてしまうのだ。
邪魔なフランシス・ヴィージンガーを殺せるように、と。
漫画を読んでいるときは何もそこまでしなくても、と思っていたものだが、実際この目で見ていると、現在のフランシス・ヴィージンガーなんか私という邪魔な存在がいないせいでヒロインといちゃつきまくってるただの腑抜けなので悪魔の力なんかなくても簡単に消せそうなので……結局何もそこまでしなくても、という思いに行きつく。
いつか何かに使えるかもしれない、と私自身もフランシス・ヴィージンガーの恥ずかしい話を弱みとして握っているし、それを使えば社会的に殺すことも……出来なくもないしな。
とにもかくにも、クリストハルト様はどこに行ってしまったんだろうなぁ。あんまり危ないことはしてほしくないのだけれど。
……とはいえ、あの時のクリストハルト様の「待ってて」は結構軽かった気もする。
なんかちょっとコンビニ行ってくるから待ってて、程度の軽さだった。コンビニ行く感覚で悪魔に魂を売りに行ったということなのだろうか?
そうだとしたら……ちょっと面白いな。自分の魂軽く考えすぎじゃん、っていう。いや面白くはないんだけども。
そんなことを考えながら馬車に揺られて数時間。
私はマリカさんから貰った招待状を手に、オーバン家の領地へとやってきていた。
今日はこちらの領地でオーバン家のお店を見学して、つまみ細工の体験をして、から揚げとポテトを食べる予定なのだ。あぁ楽しみ楽しみ!
「ルーシャ様!」
「お久しぶりです、マリカさん!」
「えらいことになりました!」
「うん?」
なにやらえらいことになったらしい。
何事? と首を傾げると、オーバン家のお店と思われる建物の側に豪華な馬車が、えーっと、三台?
お店が繁盛しているってことであれば嬉しいことだろうけど、オーバン家のお店の客層は裕福な平民から下級貴族あたりだった気がする。
あの豪華な馬車は、明らかに上のほうの貴族だ。
「皆さんルーシャ様のお名前を出していましたし、お知り合いですよね! 助けてほしいんですっ」
涙目のマリカさんにぐいぐいと腕を引っ張られる。
私の名前を出していた? 知り合い? 誰!?
腕を引かれるままお店の中へと足を踏み入れれば、そこはお花のようないい香りが充満していた。
この香り、どこかで……?
「あらルーシャさん、遅かったですわね」
うわあああ社交界美人カルテットがいるぅ!! なんでぇ!?
「え、な、あ、みなさまごきげんよう」
ひっくり返りそうなほど驚いていたけれど、それを必死でこらえて一礼した。
「ごきげんよう。待っていましたのよ」
にっこりと笑ってそう言ったのはハンネローレ様だ。
なぜ待たれていたのだろう? 今日ここに来るなんて誰にも教えていないはずなのに。
「お、お待たせいたしました……?」
私が首を傾げながらそう言うと、カルテットの皆さんはけらけらと笑った。
「いえ、私たちが勝手に待っていただけなのですけれどね」
なんて、ハンネローレ様が笑っている。
「どういうこと、なのでしょう?」
私は混乱しながらぽつりと零す。
そこでマリカさんに「とりあえず座りましょう」と椅子をすすめられた。
断る理由もないし、とりあえず座る。すると私の前にとってもいい香りのお茶が用意された。心が落ち着く香りだ。まぁ動揺は激しいけれど。
「私たち、先日の夜会の後、ここに来ましたの。ルーシャさんに教えてもらったから」
「あ、そうだったんですね」
「その時に彼女とお話をしたの。ルーシャさんに教えてもらったって。そうしたら今度ルーシャさんもここに来るって言うから、しかもこの飾りを一緒に作るって」
「はい」
「だから私たちも一緒に作ってみたいわ、って話に」
「なるほど」
なるほどなるほど。一緒につまみ細工体験がやりたかったんだな。ビックリしたけどなんとなく分かった。
マリカさんが涙目なのは、社交界美人カルテットの皆さんは確か侯爵家の人だったり辺境伯家の人だったりするから、新興貴族のオーバン家のみでお相手をするのは荷が重いよね。
いや私にとっても荷が重いわ。
折角皆さんがここにいるのだから、とりあえずの営業活動みたいなことはするつもりだけど、万が一怒らせてしまったらと思うと……チビりそう。貴族の令嬢が言ってはならない言葉だが、マジでチビりそう。
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