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第8話

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 グラスの半分くらいの量になったアイスティーを、佐伯さんがストローでかき混ぜる。カラカラと音をたてながら。一緒に運ばれてきたガムシロップには手をつけていない。

「苦手なの、ガムシロップって。人工的に無理やり甘くしたような味が、どうにも受け入れられないんだよねえ。そう、なんか、ニセモノって感じで」

「そうなんだ」

「翔太くんが大事なことを教えてくれたからね、わたしも嫌いなものを初公開してみたんだ」

「そう、なんだ」

 馬鹿の一つ覚えのように、頷いた。

 ねえ、と佐伯さんが手を止めた。

「どうして話してくれたの?」

「佐伯さんが、知りたそうだったから」

「知りたそうにしたら、誰にでも話すの?」

 質問ばかりだね、わたし、と視線を落とす。

「いつもそうなの。いろんなことを聞いてしまうの。なに話してるの、とか、なにが好きなの、とか、どうしてなの、とか。わたしは、相手のことが知りたくて、本当にそれだけなんだけど、まあ、鬱陶しいじゃない? それに、馴れ馴れしいでしょう。でも今さら治せないんだよねえ。気になって聞いちゃうんだ」

 ますます嫌われちゃうんだけどね、と自虐的な笑みを浮かべる。

「こんなに真摯に答えてくれたのは、翔太くんが初めてだよ」

 包み隠さず、というわけではなかった。さすがにニ号のことはいわなかった。誰にもいうつもりはない。俺だけの秘密だ。

「佐伯さんは、誰かにいいふらすために聞いてるんじゃないってわかるからね。それに、」

「それに?」

「いや、なんでもないよ」

 誰かにきいてほしかったのかもしれない、という言葉を飲み込んだ。

「ねえ。じゃあ、発言してもいいのかな?」

「どうぞ、ご自由に」

「翔太くんが責任を感じることはなにもないと思う。責任感だけで今の翔太くんがいるなら、もうやめた方がいいと思う」

「ばっさり切るね」

「だって翔太くんの人生だもの。それに、本当は違うんじゃないかなあ、と思うから」

「どういうこと?」

「幼なじみとか、責任とか、それだけで一緒にいられないよ。だから、好きなんじゃないのかなって思ってたの。二人を見てて、幼なじみなんて嘘でしょうって」

「佐伯さんっていつも直球なんだね」

 ははは、と俺は破顔した。

「そうなんだけど……今回ばかりは反省してるの。本当だよ、猛烈に反省してるの。個人的な問題に部外者のわたしが土足でズカズカ入り込んじゃって、無神経だったよね」

 俺はかぶりを振った。みなみもそんなことは思っていないだろう。

「俺はみなみに甘いんだ。みなみもそれをわかってる。だから俺といるんだと思う。佐伯さんがいなかったら、俺たちは一歩も動けなかったような気がする。それが進展なのか後退なのかはわからないけれど……大事なことだったように思うんだ。だから、ありがとう。俺たちに踏みこんできてくれて」


 佐伯さんはわずかに目を潤ませていた。

 それを隠すかのように俯いて、残りのアイスティーを一気に飲みほした。
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