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第4話
しおりを挟む「翔太くん、ノート出してもらってもいいかな?」
クラスの女子の中で、佐伯さんだけが俺を名前で呼ぶ。
あっ、先に言っておくが、決して俺が佐伯さんの中で特別な存在、というわけではない。
初めはうっかり思い上がりそうになったが、周囲に目を向けると、思い上がっている男子生徒ばかりだったので途端に冷静になった。
佐伯さんはクラスメイトのことを例外なく名前で呼ぶ。高校生にもなるとそういう人は少ないらしく、佐伯さんは俺の目からもわかるくらい浮いている。
「あとはみなみちゃんだけかあ」
おっとりと話すところや髪が長いところ、そして名前呼びの件、それでいて媚は売らないところ、挙げればいくつでも出てくる佐伯さんの素敵ポイント。
多くの男子生徒は好意を持っているだろうが、決して無理に近づこうとはしない。
「あ、みなみにいっておこうか。ノート出すようにって」
お昼休み、みなみは保健室でお弁当を食べている。
初めは誰もいない教室を探して食べていたが、そこが教師に見つかり、結局保健室で食べるということで話はまとまったらしい。戻ってくるのは毎回授業が始まる直前だ。
俺の提案に、佐伯さんは眉を潜めた。そして「どうして?」と首を傾ける。
「あ、いや、探すの大変かと思って」
「ありがとう、でも大丈夫。いる場所はわかってるから」
そういって佐伯さんは教室を後にした。
彼女はにっこり笑っていたが、俺は上手く笑い返すことができなかった。笑顔を作ろうと試みたが、明らかにひきつっていただろう。
佐伯さんの「どうして?」という問いにひやりとしたのだ。
どうして、という言葉に、どうして翔太くんがそこまでするの? という意味が含まれている気がしたのだ。
佐伯さんがときどき見せる、隙のなさ。
そういうものが人を寄せつけないのだろう。
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