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第11話

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「壱草さんって変わったよな」

 夏休み明け一番にする話題がそれなのか。
 修一郎が俺に同意を求めてくるが、正直よくわからなかった。

「いいい壱草が?」

 い、多すぎじゃね? という当然のツッコミはスルーする。まだ呼び方に慣れてないだけだ。

「もっぱらの噂なんだぜ? 前より親しみやすくなったってね」

 どこの噂だ、それ。俺以外が壱草さんの噂をするとは。けしからん。

「壱草さんってあの美貌だからさ、前から噂にはあったんだよ。でもよ、何かとっつきにくいとも言われてたんだ。それを何かが変えたんだなぁ」

「そうなのかねえ」

「ってか見たか? 白より白かった壱草さんがちょっと日に焼けてたの。それもまた健康的でいいよなあ」

 修一郎は夏休みも何度か会ったような友人だ。壱草優梨子の話、高坂八千代との勘違い関係、話すことを考えなかったわけじゃない。
 ただ今の俺は、この状況と自分の気持ちをちゃんと言葉にする自信がなかった。

「壱草さん、好きな人とかいないのかなぁ」

 きた、と思った。出来れば触れてほしくない話題だった。

「知らねぇ……」

 まだ何か言いたそうな修一郎を置いて、俺はとっとと自分の席に戻った。

 そうだな、気になるところではあるな。

 壱草優梨子が好きになるような男は、どんな人なんだろうってな。



 なんとなく現状を維持したまま二学期になってしまったわけだが、俺はそろそろヤバいと感じ始めていたんだ。

 八千代はずっと勘違いしたままだ。

 いつかちゃんと言わなきゃ、と思いつつも言えなかった。あいつが俺の話を聞かないことにも原因はあるが、それだけじゃない。

 俺は今、毎日が楽しいのだ。
 八千代のいちいちコロコロ変わる表情を見ているのも、壱草と普通に会話できることに感動するのにも、ちょっとした幸せを感じている。


 誰だって、それを壊したくないと思ってしまうだろ?
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