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第5話

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 あろうことか高坂は、ぽかんと口を開けている俺の顔を見て、大笑いし始めたのだ。

 おいおいおい、失礼なのはそっちだろ。だいたい高坂は、自分のことを棚に上げすぎなのだ。特技欄に【棚上げ】と書いておくべきだ。
 そんなことを考えながらまじまじと高坂を見ていて、たまらず言わずにはいられなくなった。

「お前さぁ……」

「何よ」

 俺は高坂の顔を指差してぽつり。

「やっぱり小さいなぁ……」

 思わず本音が漏れてしまったのだ。いつもは座っている姿ばかり見ているが、改めて全身を見ると思ってしまう。ちっこいのだ。

「は、はぁーーっ!?」

 高坂は、俺の一言に気分を害したみたいだった。頬が一気に紅潮する。俺的には褒め言葉だったのだが。

「なんだよ。別に間違ったことはいってねぇだろ」

「し、信じらんない。小さい言うな!っていうか、指差すな!うりゃああああ!」

 突如、高坂は足を振り上げた。

 うわ、やべっ、と思ったのも束の間、逃げる暇はなかった。

 俺は勘違い女の怒りに触れてしまったようで、回し蹴りを浴びせられたうえに、そのまま地面にねじ伏せられた。
 小さいくせに、力が半端じゃない。男の俺が敵わないのだから。何とかして起き上がろうと体に力を入れると、全身に激痛が走った。

……信じられないのはこっちだ。

 ちょっとは手加減しろよ。てか、蹴るなよ。暴力反対!

「あーら、みっともないわね。地面に寝転んじゃって」

「お前なぁぁ……」

 ついに本性を表した勘違い女は、これ見よがしに俺を見下し、口元に笑みまで浮かべている。怖くないといえば嘘になるわけで。若干恐怖。
 その身体のどこにそんな力があったんだよ。

「た、助けろよ」

「人にものを頼む態度ってものがあるでしょうよ」

「……ださぃ」

「んー? なんと仰いましたかー?」

クソッ、と心の中で舌打ちした。こんな女に頼むのは、出来れば避けたい。屈辱だ。

「だからぁ……助けてください」

 ってさっきから言ってんだろうが、とよっぽど付けてやりたがったが、また小言を言われるのは避けたいので喉元で飲み込んだ。

 高坂は、そんな俺をじっくり眺めた後に一言。

「ふん、マヌケね」

「は、は、はぁーーっ!?」

 俺の叫びも聞き入れず、高坂は清々しいほどクールに立ち去ろうとしていた。

「止まれぇぇ、止まれ高坂ぁぁ。おい、聞いてるのか。おい、俺を見捨てるのかよ!!」

 ピタ、と止まった。俺の声に反応して時間が止まってしまったのかと思ったが、違った。止まったのは、高坂一人だ。そのまま回転して、俺のもとに帰って来るなり、小さな体でせっせと自分が蹴り倒した俺を起こしたのである。

 あまりに素直に従うものだから拍子抜けしてしまった。

「悪いな」

 どうして俺が詫びを入れるのだ、と心の片隅で思いながらも、なんとなくそう言わざるを得なかった。大声で叫びすぎて気恥ずかしかったのだろう。

「……ちゃんと送ってよ」

 それだけの馬鹿力があれば一人で帰れるだろう、なんて無粋なことは言わなかった。

「おう」

 高坂の家は俺とはまったく逆の方向にあった。綺麗な庭付きの一戸建て。羨ましいな、と褒めたのだが「こんなの全然普通よ?」と返されてしまった。

 俺は、普通にはまだまだ遠いなと密かにショックを受けたのである。めでたしめでたし。……って、全くめでたくねぇ。

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