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就活編
夢の中
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「で、何の会社なわけ?」
改めて浮浪者の男に問う。
本当にこの薄汚いオッサンが会社なんてものを経営しているかも疑わしいが。
「疑ってるな?」
男は健太の心中を察したようにニヤリと笑うと、胸ポケットから何かを取り出し、健太に差し出した。
「ほれ、やるよ」
その何かを受け取る。
それは名刺だった。
株式会社夢見屋 代表 マサムネ
と記載されている。
思わず言っていた。
「嘘くさっ!」
「いや何でだ」
「嘘くさいだろ。何だ夢見屋って。ダサっ。てか何であだ名を名刺にしてんの?寒っ」
「おまっ.....ロマンのカケラもない奴だなー。絶対ラーメンも汁から飲まねー派だろ」
「当たり前だマヌケ」
浮浪者の男、マサムネは咳払いをした後、薄汚れたカーディガンをパンパンとはたく。
「ま、とりあえずだ。そこに書いてある住所に行け」
「は?」
「そこに俺のオフィスの1つがある」
「ホントかよ」
「会社をいくつかやってんだが、その夢見屋ってのは、うまくいかなくてなー。ちょっと手のかかる奴らに追われちまって、気付いたら河川敷にいたんだ」
「どういう状況なんだソレ」
まさかとは思うがヤーさんに追われてるのだろうか。だとしたら、とんでもないことを押し付けられているような気もするのだが。
「ま、俺はあくまで経営者。野球でいったら監督なのよ。プレイヤー向きじゃなかったわけだ」
「野球できない監督についていく選手なんていないと思うけど」
「いちいち正論を言うんじゃないよ、まったく」
もう一度、マサムネが咳払いをする。
「とにかく最初の業務命令だ。いや配属を言い渡す。今日からお前は夢見屋だ!あ、夢見屋シラケンだ!」
「絶対、今考えただろ」
健太は呆れた。
名刺をペラペラと振りながら聞く。
「で、俺は何したらいいんだよ?」
今の話では肝心なことが分かっていない。
「何したら?今日と同じことをすりゃ良い」
「は?どーいうこと?」
意味が分からず聞き返す。
「今日と同じように、依頼人の夢を叶えてやれば良いって言ってんだよ」
「今日って....別に夢叶えた気がしないんだけど」
「あの男は自分の人生と向き合いたかった。ある意味、アイツはお前に出会えて人生に向き合えたんだ。夢叶えたんだよ」
「こじつけだろ」
「どーだろうな」
ふと、マサムネが空を仰ぐ。
「それに、何も夢を叶えてやる必要はない。夢を見せてやりゃ、それで良いんだよ」
「夢を、見せる?」
マサムネの言葉が理解できず、聞き返す。
マサムネは言葉を続ける。
「人は現実を生きようとする内は、いつまで経っても夢を見ようとしない。だが、夢を叶えろと成功者は言う。誰も夢なんて見えていないというのに、だ」
「......」
「夢を叶えるキッカケを与える。それが夢見屋だ。叶えるのは、あくまで依頼人自身。叶えるのまで、コッチがやってやったら、つまんねーだろ?」
マサムネが笑う。
それはいつかに見た、ロマンを語る人間のソレだった。
同じ顔で語る奴を、健太は2人知っている。1人は生きていて、もう1人は、もうこの世にはいない。
マサムネのその顔を見ていたくなくて、どこを見るわけでもなく、健太は目を逸らした。
「いや、知らねーけど。少なくとも、俺に夢はない」
「いずれ、お前にもわかるときがくるさ」
そう言うと、マサムネは急に踵を返した。
「ま、興味があるなら、やってみな」
「どこ行くんだよ?」
「アホか。俺は経営者。忙しいんだよ」
どこまで本当のことを言っているのか分からない。
「雇用契約書とか、その他諸々そこのオフィスに送るから。じゃあ精々頑張れ」
マサムネは、ひらりと手を振ると歩き去っていった。
何だったんだ、まったく。
まさに夢を見ているような感覚だ。
夢であって欲しかったけど。
色々と非現実的なことが起こりすぎた。
少しずつ暗くなり始めた茜空を見上げる。
小さく溜息を吐く。
「また、やるのか?」
改めて浮浪者の男に問う。
本当にこの薄汚いオッサンが会社なんてものを経営しているかも疑わしいが。
「疑ってるな?」
男は健太の心中を察したようにニヤリと笑うと、胸ポケットから何かを取り出し、健太に差し出した。
「ほれ、やるよ」
その何かを受け取る。
それは名刺だった。
株式会社夢見屋 代表 マサムネ
と記載されている。
思わず言っていた。
「嘘くさっ!」
「いや何でだ」
「嘘くさいだろ。何だ夢見屋って。ダサっ。てか何であだ名を名刺にしてんの?寒っ」
「おまっ.....ロマンのカケラもない奴だなー。絶対ラーメンも汁から飲まねー派だろ」
「当たり前だマヌケ」
浮浪者の男、マサムネは咳払いをした後、薄汚れたカーディガンをパンパンとはたく。
「ま、とりあえずだ。そこに書いてある住所に行け」
「は?」
「そこに俺のオフィスの1つがある」
「ホントかよ」
「会社をいくつかやってんだが、その夢見屋ってのは、うまくいかなくてなー。ちょっと手のかかる奴らに追われちまって、気付いたら河川敷にいたんだ」
「どういう状況なんだソレ」
まさかとは思うがヤーさんに追われてるのだろうか。だとしたら、とんでもないことを押し付けられているような気もするのだが。
「ま、俺はあくまで経営者。野球でいったら監督なのよ。プレイヤー向きじゃなかったわけだ」
「野球できない監督についていく選手なんていないと思うけど」
「いちいち正論を言うんじゃないよ、まったく」
もう一度、マサムネが咳払いをする。
「とにかく最初の業務命令だ。いや配属を言い渡す。今日からお前は夢見屋だ!あ、夢見屋シラケンだ!」
「絶対、今考えただろ」
健太は呆れた。
名刺をペラペラと振りながら聞く。
「で、俺は何したらいいんだよ?」
今の話では肝心なことが分かっていない。
「何したら?今日と同じことをすりゃ良い」
「は?どーいうこと?」
意味が分からず聞き返す。
「今日と同じように、依頼人の夢を叶えてやれば良いって言ってんだよ」
「今日って....別に夢叶えた気がしないんだけど」
「あの男は自分の人生と向き合いたかった。ある意味、アイツはお前に出会えて人生に向き合えたんだ。夢叶えたんだよ」
「こじつけだろ」
「どーだろうな」
ふと、マサムネが空を仰ぐ。
「それに、何も夢を叶えてやる必要はない。夢を見せてやりゃ、それで良いんだよ」
「夢を、見せる?」
マサムネの言葉が理解できず、聞き返す。
マサムネは言葉を続ける。
「人は現実を生きようとする内は、いつまで経っても夢を見ようとしない。だが、夢を叶えろと成功者は言う。誰も夢なんて見えていないというのに、だ」
「......」
「夢を叶えるキッカケを与える。それが夢見屋だ。叶えるのは、あくまで依頼人自身。叶えるのまで、コッチがやってやったら、つまんねーだろ?」
マサムネが笑う。
それはいつかに見た、ロマンを語る人間のソレだった。
同じ顔で語る奴を、健太は2人知っている。1人は生きていて、もう1人は、もうこの世にはいない。
マサムネのその顔を見ていたくなくて、どこを見るわけでもなく、健太は目を逸らした。
「いや、知らねーけど。少なくとも、俺に夢はない」
「いずれ、お前にもわかるときがくるさ」
そう言うと、マサムネは急に踵を返した。
「ま、興味があるなら、やってみな」
「どこ行くんだよ?」
「アホか。俺は経営者。忙しいんだよ」
どこまで本当のことを言っているのか分からない。
「雇用契約書とか、その他諸々そこのオフィスに送るから。じゃあ精々頑張れ」
マサムネは、ひらりと手を振ると歩き去っていった。
何だったんだ、まったく。
まさに夢を見ているような感覚だ。
夢であって欲しかったけど。
色々と非現実的なことが起こりすぎた。
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小さく溜息を吐く。
「また、やるのか?」
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