ディア・ドロップ

あめいろ

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「ひ、平井さん?な、何でここに.....?」
平井さんとは上司のことだ。
「日野くんこそ、珍しいじゃん。今時珍しい料理男子のくせに」
上司がフフッと含み笑いを浮かべる。
普段なら愛嬌あって良いなーと思うとこだが、今はそれどころではない。
「い、いや別に料理男子ではないですよ。自炊してるって程度なんで」
「それが凄いんだよー。よくお弁当とか毎日作れるよね。私は無理だよ多分」
「いやいや本気出したらいけますよ。花嫁修行だと思って、やってみたらどーですか?男寄ってきますよ」
「えー、3年は考えさせて欲しいかな」
「婚期過ぎますよソレ」
他愛もない雑談だ。だが、なんとかこのまま話を逸らしていきたい。
「じゃ、そろそろ行きますね。飯来てるかもなんで」
そう言って、ひらりと手を振り上司に背を向けようとしたそのとき、
「あ、日野くん?」
上司に呼び止められる。
一瞬ギクリと心臓が音を立てた気がした。
「良かったら一緒に食べない?」
避けていた爆弾が投下され内心震える。
普段なら全然問題ないことだが、この状況では爆弾以外の何物でもない。
必死に元々はよく出来ていた頭脳をこねくり回して思考する。
あーもう何で途中で勉強やめてんだよ自分!
「えーっと、実は今日は.....」
話始めようとしたとき、ふと背中にずっしり何かが乗ってきたことで視界が揺れる。
「陽太ー!!おそ~い!!」
背後から降り注ぐ陽気な女の子の声に、陽太は全てを悟った。
雫が自分の背中に乗ってきたのだ。まったく危なっかしい。
「ちょ、お前こんなとこで.....」
いや、今はそんなことよりも.....
思わずバッと視線を前に向ける。
見ると、上司がニヤリと笑いこちらを見ていた。
「へー、なるほど」
「いや、なるほどじゃない!!」
「日野くんも隅に置けないねー」
「いや違う!違いますから!」
「いーよいーよ、話は席で聞くから」
「いやちがっ....てかニヤニヤしないで!」
自分と上司の会話を聞いて、雫が目をキラキラさせる。
「何?もしかして陽太の知り合い?はじめまして、わたし陽太の女です!」
「お前一回黙ってくれる?」
収集つかなくなるわ!
てか早く降りろよ!!

そんなわけで、隣に目をキラキラさせる雫、目の前にニヤニヤと笑みを浮かべる上司との地獄の食事会が幕を開けることとなる。
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