ディア・ドロップ

あめいろ

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そんなこんなあって、雨宮雫という謎すぎる美女とご飯に行くことになった。
「どこに行くの?」
目を輝かせながら、雫が僕の顔を覗き込んでくる。
キュン死させにきてるのかよ。
雫から視線を逸らす。
「駅前にサ◯ゼがあるから、そこで良いだろ」
「サ◯ゼ!?なんかお洒落そう!」
「バカにしてんのか」
雫と並んで、黄昏の空の下を歩く。
なんとなく、どこか懐かしい感じがしないこともない。
ま、気のせいか。
「てか、仮に俺との記憶があるとして、それはいつからいつまでの記憶で、どうやって俺の今いる場所が分かったんだ?」
疑問は聞かないことには分からない。
この美女には考えても到底分からない謎が多すぎる。
雫がうーんと首を捻る。
「記憶だから正直、あやふやなんだけど、確か小4のときに会ってるんだ」
「どこで?」
「小学校で。私が転校してきたんだ。でも、会ってたのは半年間くらいで、私がまた転校しちゃって、それっきりかな」
「えらい他人事みたいに話すんだな」
「記憶があるだけで、今日初めて陽太に会ったからね。まー記憶の中で会ってるから実際には初めてには思えないんだけど」
もし雫の言っていることが本当なら、何とも奇妙な話だ。記憶があるのに会ったことがない。
まるで芸能人のようだ。実際に会っているわけではないけど、テレビで見たから記憶として存在しているところが、まさにそうだ。
「いつからその記憶があるわけ?」
「5年前に事故してから、それまでの記憶がなくなっちゃったんだけど、陽太との記憶だけは残ってたんだ」
「記憶があるんなら、何で会ってないんだ?矛盾してるだろ?」
「うんうん、だって私のこと呼ぶ時に陽太違う女の子の名前呼んでたんだよ。そりゃ会ってないんだって分かるよ」
「違う女の子の名前?」
「うん、ミハルって」
"ミハル"
その名前を聞いた時、世界が揺らいだ気がした。いや自分が動揺しただけなのだが。
ミハル。彼女のことは忘れない。


彼女は自分が『良い子』になるキッカケを与えた人物だったから。


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