モンスターコア

ざっくん

文字の大きさ
上 下
90 / 94
vs秘密結社クロノス

79話 生命ではない者

しおりを挟む
「スイカ切りました!朝食のデザートです」
「ありがとうございます!」
「冷えててめっちゃ甘くて美味い!」
「サキさんが切ってくれたと思うとより美味い」

 昨日買ったスイカは流石に二人では大きかったので分けて皆で食べることにした。
 ミスカさんの所へ持っていき、少し耳に近づけてコソッと言う。

「ミスカさんの分、大きめに切ってみました」
「!ありがとう。良いのか?」
「勿論です」

 瑞々しい果汁が喉を通ると、じわじわ暑い毎日も爽やかに過ごせそうな気がした。
 スイカを食べてすっきりした団員たちは元気に仕事へ向かって行き、私とヴェルストリアくんも片付けを終える。

「サキさん、昨日町へ行ったんですね。ここに来てからは外に出ていなかったでしょうし、久しぶりでしたか?」
「あ……そう、だね」

 そっか、ヴェルストリアくんは私が異世界から来たことを知らないんだった。
 嘘をつくというのはやっぱり心苦しい。

「……昨日はね、調味料も買ったんだ!見て、こんなにいっぱい」
「ふふ、食べ物ばっかりですね」
「確かに言われて見ればそうかも」

 私は持ってきた物の中から、ラッピングされた小さな袋を取り出す。

「ヴェルストリアくんにお土産買ってきたの。良かったらどうぞ」
「僕に……?ありがとうございます……!開けても良いですか?」
「うん!」

 袋を開くとキラキラと輝くエメラルド色の飾りがささやかに付いたシンプルな髪飾り。

「これ見つけた時、ヴェルストリアくんぽいなって思ったの。髪ちょっと長めだから鍛錬中はいつも纏めているでしょ?」
「……いつも見てくれているんですか?」
「えっと、ちょっとこっそり?」

 ヴェルストリアくんが剣術に励んでいる姿はカッコよくて、つい目で追ってしまう。

「その時に使ってくれたら嬉しいな」
「使います!嬉しい……ありがとうございます……」

 ヴェルストリアくんは片手で口元を覆いながら、髪飾りを大事そうに見つめていた。
 喜んでもらえてよかった!

「あの、嫌じゃなかったら今私が付けさせて貰えないかな?」
「え!?」

 実はヴェルストリアくんの髪を一度いじってみたかったのだ。
 だって三つ編みとかしたら絶対可愛いもの。

「サキさんがそう言うのなら……お願いします。無理しないでくださいね」
「?うん、ありがとう!」

 早速後ろにまわり、そっと髪を梳くう。サラサラの白い髪が窓からの明かりに照らされてより一層輝いた。見惚れながらも両サイドから編み込みをしていく。

「痛くない?」
「は、はい……」

 二つの三つ編みを後ろの残りの髪と纏め、髪飾りで留めれば完成だ。
 手鏡で仕上がりを見てもらう

「わぁ……こんな結び方も出来るんですね」
「うん!慣れたら簡単だよ」

 不思議そうに横を向いて手鏡で見ている様子が嬉しくて、私はヴェルストリアくんの頭を撫でる。

「やっぱりこの髪飾り、綺麗な髪にとっても似合うなぁ」
「……っ!?」

 ふと、こちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。勢いよく食堂の扉が開く。

「リューク!?そんなに慌ててどうしたの」
「サキ……スイカ無くなっちゃった……?」
「スイカ?」
「朝練終わらなくて……出遅れたぁ」

 リュークがだいぶしょんぼりしているので、ヴェルストリアくんには先に仕事に戻ってもらった。

「そんなにスイカ食べたかったの?リュークの分あるよ」
「うん……食べたかっ……え、あるの?」
「特別だよ」
「サキ……!」

 というわけでリュークの分のスイカを持ってきた。ニコニコしながらスイカにかじりつくリュークは可愛い。

「ふふ、実はミスカさんからスイカ好きって聞いたから取っておいたんだ」
「優しすぎる……ありがとう!」
「どういたしまして。そういえば昨日シオンさんのお店にお邪魔したよ。リューク元気にしてるかって気にしてた」
「叔父さんここのところ会ってなかったなぁ。サキ、今度は俺と一緒に行こうよ!」
「うん!行きたい!」

 リュークはスイカをすっかり食べ終えて満足したみたいだ。

「リュークはミスカさんと幼なじみだったんだね」
「そうそう!近所に住んでてさ。ずっと一緒に遊んでたんだ。昔から剣術ごっことかしてたんだよ」

 リュークは懐かしむようにミスカさんとの思い出を話してくれて、本当に仲が良いのだと伝わってくる。

「そういえばヴェルストリア珍しく髪結んでたけど」
「あ、ヴェルストリアくんにお土産で髪飾りあげたの!それで髪結ばせてもらって」
「髪に……そっか。サキなら大丈夫だな」

 リュークは納得したように頷いた。

「リュークのお土産も一応……あるよ」
「え、一応って何」
「これなんだけど」
「……スイカ!?」

 黒い種であろう点がなんとも言えない絶妙な顔を作っているこのスイカのキーホルダーを、私は見つけてしまったのだ。

「リュークがスイカ好きって聞いたらもうこれしか目に入らなくて……」
「くっ……ふふっ、待って…顔が……!」
「ちなみにもう一個あるの」

 ピンクの色違いを取り出す。

「サキ面白すぎる……あはは!」
「ふ、ふふ……だって……」

 思った以上に笑われて、私も笑いが止まらなかった。
 なんとか二人とも落ち着いた頃にはお腹がだいぶ筋肉痛だった。

「はぁ……それでね、良かったらお揃いにしたいなって思ったの」
「お揃い……!そうしよう!すごく嬉しい。サキ、ありがとう」
「うん!喜んで貰えて良かった」

 赤いスイカを渡そうとすると、差し出した私の手にリュークの大きい手がそっと重なる。

「どうかした?」

 リュークが私の目を真っ直ぐ見つめている。

「俺、これ見る度にサキのこと考えちゃう。サキも……これ見たら俺のこと思い出してくれる?」

 少し首を傾げて微笑むリュークに私の胸はトクンと音をたてた。
 買った時は意識して無かったけど、お揃いにしたいってすぐ考えてた。これを見たらリュークも同じ物を持っているんだって嬉しくなる。リュークが私の事を考えてくれるのも嬉しい。
 でもそれって……独占欲みたいな……?もっと私のこと考えて欲しいなんて……。

「見てない時でも思い出しちゃうよ……」
「!!」

 自分の気持ちに恥ずかしくなって、俯いて空いている片手で顔を隠す。
 最近の私はなんだか変だ。そわそわして落ち着かないような、そんな気分。

「サキ……」
「す、スイカ、また食べようね。それじゃあ今日はお掃除しないとだから」

 キーホルダーをリュークの手に握らせて、目が合わせられないままそそくさ食堂を後にした。


 サキのくれた赤いスイカのキーホルダー。
 そのなんとなく微妙な顔を撫でながら、リュークは呟いた。

「意識、してくれてたよな……」

 正直このスイカがあってもなくても俺はサキのことばっかり考えている。
 でもサキはそうじゃない。彼女にとって俺は大勢いる騎士団員の一人。お土産だって他の人にも渡している。
 会っていない時でも俺の存在を忘れないで欲しい。お揃いだと言ってくれたその意味が特別なものであって欲しい。

「……ずっと俺のこと思い出してくれたらいいのになぁ……」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...