モンスターコア

ざっくん

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vs秘密結社クロノス

71話 グレー

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 サリアやミリナリスたちと部屋に閉じ込められたリュートは脱出するために淡々と動く。

「ここに杭お願い」

「これでいいか?綺麗にはまったが何する気だ?」

 カイザが壁の隙間に『水魔法』で形成した杭を突き立てる。杭は全力で圧縮し、さらに『硬質化魔法』を発動させることで限界まで強度を高めている。

「もちろん壊すつもり。学園と連絡が取れないから、救助は期待できない。取り敢えず移動できる様にして損は無いはず」

「出来るか?かなり硬ぇぞ」

「皆んなでやれば強さ的にいけると思う。一回じゃ成功しないだろうけど、そこは数をこなしてカバーする」

「皆んなで、って具体的にどうするつもり?お姉ちゃんにも教えて」

「あぁ、それは…待って今なんて?」

 お姉ちゃん?あれ聞き間違えた?僕に兄弟は居ないよ?彼女との関わりは受験の時に見かけただけだよね?え?え?

 リュートを”お兄ちゃん”と呼んだ彼女はカイザと共にミリナリスの背後にいた人間である。
 リュートと彼女には関わりが無い。あえてあげるとすればバトルロワイアルにて一瞬目撃しただけである。彼女はレイの『魔眼魔法』で退場させられていた。

「具体的にどうするつもり?って」

 彼女は疑問にも思ってないのか、”お姉ちゃん”の件はスルーした。

「…えっと、同化を使う。あとは掛け合わせて打ち込めばいい。分かる?」

「家族で力を合わせて、ってことね。」

 …やはり、おかしい。少なくても彼女は正常では無い。

「…ねぇ」

 リュートは彼女以外の三人に呼びかける。

サッ、

 すると、カイザとミリナリスが目を逸らした。サリアは特に何もすることなくこちらを見ている。

「脱出は二人を戻してからにしない?」

 リュートは彼女がなんらかの精神魔法の影響下にある事を理解した。
 そして、その効果はおそらく現実改変。彼女はここに居る五人が家族だと思い込んでしまっている。
 目を覚ます前は自分もこの魔法の影響下にあっただろう事は想像に難くない。

「…分かりました」

 ミリナリスは少し躊躇してから了承した。

「暴走するの?」

 精神魔法を受けた者はその効果を消される際に全力の抵抗を命じられていることがある。その場合はかなり厄介になり、自身の体を壊するまで暴れ続ける。

「それは無いです。それはそうと、後悔はしません?」

「後悔のしようが無いと思うんだけど」

 仲間を正気に戻すことに何の不都合があるのだろうか?それに、もし本当に後悔することがあっても、優先すべきは全体の得だ。

「分かりました。…リズお姉ちゃん!目瞑ってて」

 彼女は可愛らしい妹声でリズに話しかけた。

「えっと、何で?」

「いいからいいから~」

 ミリナリスは彼女の頭に左手を当ててマナを侵食する。魔法効果の乗ったマナを何の効果もない自身のマナで置き換える。

「そのまま、そのまま~」

 そして、右手を上げ顎に向けて振り下ろした。

バシッ!

「何やってんの!?」

 リュートが彼女の腕を掴む。
 治療自体はもう終わった。あと少しすれば、影響を受ける前と後の整理がつき完全に完治する。彼女の行為に意味はない。

「後悔することになりますよ!」

「だから、意味が分からないって!」

 リュートは『土魔法』で丸盾とショーテルを形成する。
 状況の理解はまだ済んでいないが、これ以上何かする気なら、ミリナリスを敵とする。

「待って!」

「「…ッ!」」

 二人の間に土の棒が差し込まれる。リズが正気に戻ったのだ。そこに今までの様な腑抜けた彼女の姿は無かった。二人が同時に牙を剥こうとも対処することができるだろう。

カラン、

 彼女は突然武器を放棄する。そして、顔を赤く染め何やら尻込みし始める。

「その、えっと…ぎゅってする?仲直り?」

 とても恥ずかしそうに両腕を広げた。

「え?」

「だから言ったじゃん!」

 ミリナリスは顔を真っ赤にして叫んだ。
ーーーーー
 クロノス襲撃の少し前、司令室。

「…平和ですね~」

 彼の名はアスズ、学長の補佐である。現在は体育祭の開会式に顔を出している学長に変わって司令室を仕切っている。
 彼は学長に「わし、必要なくね?」と言わせるべく仕事に没頭していた。

「それにしても、私は脆いですね~」

 彼は胸をさする。実はミーニャ握手を申し込んだ際の負傷が大きく最近まで療養していた。
 治癒院に行けばその日のうちに治すことができるが”彼女からの贈り物を治してしまうなんてもったいない!”と言って頑なに治さなかった。

「おっ!あら?あらら?」

 これはちょっと不味いですね…

 彼は監視カメラの映像が無数に映し出されたモニターからループする映像を見つけた。
 そのループの繋ぎ目は自然に繋がれており数と質から練度の高さが伺える。しかし、肝心の場所はランダムで重要施設からそうでないところまで様々である。

「現在の闘技場を写せますか?」

「…ッ!分かりました」

 ここに居るオペレーターは優秀である彼のこの言葉だけでやるべき事を理解する。しかし

「反応がありません!」

「これは、やられましたね…どう突破したのでしょう。」

 彼は司令室の基盤であるスーパーコンピュータが敵の手に落ちた事を理解した。

 敵は数々のセキュリティを素通り、さらに司令室ここの機器としか接続できないコンピュータを操作。人間の常識を超えている。そして、それは司令室に続く通路に設置されている。助けを呼ぶしかありませんね。化け物には化け物を…

 彼は机の下の非常ボタンを押す。だが、それは反応しなかった。

「……」

 完全に独立した機器のはずなんですがね。意味がわかりません。

「皆さん!通常ならば避難するべきなのでしょうが共に戦ってもらいます!ここを落とされる訳にはいきません!派手に戦いましょう外からでも分かるように!」

 それぞれでコアを装備し戦闘体制を整え、敵がドアを開けるのを待つ。

ウィーン、

 自動式のドアが開く。そこには手を前に向けた黒装束を身につけた子供と大男が立っていた。

「ストップ」

 黒装束の子供は手を前に出して一言発した。
 その瞬間、黒装束の二人とを除き全ての生物が動きを止めた。

「ここにも居たか!化け物が!」

 大男は背中から黒い触手を四本勢いよく生やした。触手の勢いにより黒装束が肌け舞い上がる。
 その下には学園に解き放たれたモンスターと同じ別々の皮膚をつなぎ合わせた様な不気味な皮膚をしていた。髪は無く正面の四つの目に加え四方に複数の眼を持つ。

「その首、貰いますよ!」

 アスズが『雷魔法』で右手に両剣、左手にトゲのついた球を形成して二人の頭上から奇襲する。

「グレー、お前は馬鹿げた記録魔法を撃ちまくれ守ったる!」

 大男は頭上のアスズに向けて触手を伸ばす。

 ここからの戦闘はグレーの目で捉えられないほど一瞬で行われた。

 大男はアスズの両剣を二本の触手で受け止める。片方は完全に断ち切られてしまったが、残るもう片方で刃を受け止め抑え込んだ。

 対してアスズは抑えられた両剣の片側を切り離し、同時に左手の球を二人に向けて投げた。
 球は二人に届く前に破裂し周囲に『射出魔法』でトゲを射出した。

 綺麗に決まったかのように見えたが大男はそれに対応した。素早くグレーと自分に一本ずつ触手を伸ばしてトゲを無傷で防ぎ切った。
 しかし、これで彼を守る者は無くなった。

「グッ!」

 彼は無防備にアスズの剣を受けた。その傷は肺から心臓、肝臓へと続いて切り裂いた。胴を切り離すまではいかなかったものの通常の人間では間違いなく致命傷である。
 だが、彼は怯むことすらしなかった。まるで怪我などしていないかの様に動き着地の隙を狩る。右腕を剣のように変形させて彼を襲う。

カァン!

 彼の腕は何者かの攻撃によって弾かれた。

「…ッ!」

 その方向を確認するとグレーの魔法影響下にあったはずのオペレーターが一人立ち上がり矢を射っていた。しかも、他のオペレーターも続々と動き始めている。

「数と地の利はこちらにあります!皆さん!気張りますよ!」

 アスズは再び両剣と球を形成し構えた。

ーーーーー
「クソ!ブラフだらけじゃねえか!」

 無惨に破壊された施設で大男が悪態をつく。周囲の物に当たり壊れた機材をさらに小さくする。

「作戦は半分成功。可もなく不可もなく。そんなに落ち込まなくてもいいと思う」

「気にしちゃいねえ。はー、疲れた。第一、戦闘はこんなに頭ってするもんじゃねえだろ。少し休憩だ」

 大男は積み重なり山となった瓦礫に腰を据えた。

「いいの?」

「お前も魔法連発して疲れたろ。休んどけ。なんか欲しい奴とかいたか?」

「居ない。全員、力不足。駒にすらならない」

「そうかそうか!コイツら頑張ってたのに報われねぇなぁ。可哀想に。俺はこのロン毛を貰う」

 大男はその場に倒れているアスズを拾い上げる。

「食べるのですか?」

「食うわけねえだろ!俺を何だと思ってる!てか、コイツでも役不足ってお前は何する気だ?」

「それは…神殺し」

 グレーは一度躊躇ったがその目的を口にした。

「はぁ、久遠の奴はその言葉を消しきれんかったか。いいか?グレー、仲間のよしみで教えてやるがそんな生物は存在しない」

 彼はため息をついて半ば呆れたように彼女を諭した。

「いいえ、存在するわ。証拠はこの私。私は記録係として作られ…あれ?私は人から生まれ、でも、しっかりとマナから生み出され…おかしい、記憶がグッ…!」

 彼女はは最初は堂々と話していたが、突然頭を抑えてふらついた。さらに、苦しそうにに臥して記憶の矛盾に悶え始めた。

「おい!大丈夫か!?…動けそうにないか?」

 大男は声をかけるが、彼女は唸り声をあげるだけで反応はない。

「…そうか」

 彼は苦しむ彼女を見て、静かにゆっくりと触手を伸ばした。
 その時、壁の一部が破壊され人影が一つ入ってきた。

「やあやあ、救護班が来たよー。コアがぶっ壊れた人とかいないよねー」

 彼はシルである。マネキンの様な体で関節部は黒い塗装がある。
 リオンに捕らえられ地下に監禁されているはずだが、どうやってかそこを抜け出しここに現れた。
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