モンスターコア

ざっくん

文字の大きさ
上 下
64 / 94
第一の神獣。死の軍勢の片鱗

54話 シル

しおりを挟む
 万軍の遥か下、巨大な地下空間で一体の魔動人形ゴーレムが起動した。

「マナの隆起を確認、シルの起動が完了しました。」

 一面壁ばかりの何もない空間に機械的な音声が響き渡る。

ギギッ…

 空間の底、大小様々なケーブルが収束する先で何かが動いた。

 それは人の形をしたゴーレムであった。
 起動するなり体から白いマナの光が漏れ出る。光は地面に垂れ落ち沈殿し広がる。

 その構造は非常にシンプルで平らな体に板二枚ののっぺりとした顔を持ち、全体は白、関節部は黒に塗装されていた。
 まるでマネキンのような見た目をしている。

 彼はひとしきり身震いをした後、自身のうなじに手を伸ばした。

バキッ!

 彼はある機械を握りつぶした。それは、制御装置である。体に刺されると緊急停止コードが入力されて力が抜けてしまうのである。

(コレ殺したらウィンに頭撫でてもらおう。でも、マルクが怒るんだよね…そうだ!)

 シルが上空の万軍を見上げる。彼の体を包む光が淡い青に変化する。その後、一瞬にして身体を吸収し、長身の美青年を形作った。

(これならきっと喜んでくれる!それどころか襲っても許されそう!)

 自身の持つスペックをフルに使用して二人を探し出した。
 シルの扱う魔法に呼称は無い。正確には付けることが出来ない。彼の魔法は数だけで言うならほぼ無限に存在する。

 最も正確な例えとして「」があげられる。色は組み合わせ次第でどのような色も作ることが出来る。
 シルの魔法も同様に既存の魔法の分解、統合を繰り返しあらゆる魔法の再現をすることができるのである。

「待っててね。パパ、ママ」

 シルは小さく呟く。その声は見た目に相応しい色気ある声だった。

 彼は魔法を発動させて浮かび上がる。
 不気味さを覚えるほどに自然で一切のブレも存在しない。まるでナノ単位の精密機器が所作全てを操作しているようである。
 
(僕は君と戦う気はないよ。そんな事よりも他にやりたい事があるんだ)

 シルは魔法で万軍に争う気がないことを伝える。
 魔法は電波のように発信され彼らの感覚を刺激してシルの考えを正確に伝える。守りの硬い脳への魔法ではなく守りの薄い外的刺激に魔法を使いそう錯覚させたのである。

 しかし、交渉は決裂した。万軍は壁に沿って広がりシルを包囲する。彼らは高さごとに適した駒を配置する。
 地下に蟻型アント系、地面に粘体型スライム系、そこから上に向けて鼠型ラット系蜂型ビー系蝙蝠型バット系、そして天井を覆い尽くす鳥型バード系。これらの外生生物モンスター達が綺麗な層となって臨戦態勢を取っていた。

 現在の彼らは飢えた獣であった。腹を空かせ餌を欲している。
 先程大量のコアを補充したが、その巨大を維持するには少しばかり心もとない。このままでは群れ内部で共食いをしなければならなくなるのも時間の問題だった。
 それに、異様なものが次々と現れる状況に慣れてきだこともあり、彼らはランク外を恐れなくなっていた。

 万軍は餌を取られた怒りをシルに向ける。彼らはシルに死角がないことを悟り手数の多さを利用した物量作戦を選択した。

 彼らは二つの弧を描きシルを挟んだ。代わる代わる爪や牙で攻撃する。シルを左右からを挟み回転方向の違う円で上下からすり潰す。

 シルは固く身を硬め攻撃のダメージを最小限に備える。 

「むーー…仕方ない…」
 
 シルは不服そうに顔をしかめた。
 衝撃波を放ち万軍の攻撃から抜け出すと、少し上に飛んで体を大きく広げた。

「さぁ、餌だよ!た~んとお食べ」

 自身のマナを周囲に放湿し始めた。

「……?」

 万軍は動きを止めた。流石に彼らも自身の体を明け渡す行為に理解できなかった。毒を混ぜられているようにも感じず、ただただ混乱してしまう。

 だが、シルの狙いは万軍とは関係ないところにあった。

(来た!)

 シルの背中が爆発した。
 すると、爆炎が昇るシルの背中からリオンが落下した。

「ガハッ…」

 リオンは爆発をまともに受けてしまった。

「僕に同じ手は通用しないのだよ。分かるよ、非j…え?」

 シルのがリオンを見下ろし罵ろうとした時、力が半分くらい抜けた。

「あっ…やばい」

 シルは覚束無おぼつかないながらも防御の体制を取る。
 しかし、努力も虚しく攻撃を受け地面に叩きつけられてしまう。

「うあぁぁーー!」

 シルはスライムの海にぽちゃりと落ちた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...