モンスターコア

ざっくん

文字の大きさ
上 下
63 / 94
第一の神獣。死の軍勢の片鱗

53話 万軍の幼体

しおりを挟む
 万軍は様々な変化に晒されており思考が追いつかず錯乱状態にあった。

 彼らは元々本体から放たれた先遣隊の一つである。
 与えられた役目は獲物となる生物の情報を持ち帰ることである。
 本体は先遣隊が持ち帰った情報を照らし合わせて餌を決める。
 そのため、彼ら先遣隊は「攻撃を受けたら帰る」以外の知能を持ち合わせていなかった。本来ならばそれで十分に仕事を果たせるはずであった。
 しかし、偶然が重なり本体との連絡が途絶えてしまい何をすれば良いのか分からなくなっていた。

 まず、一つ目の偶然。出立した先が「黒牛」と言う本体に匹敵する力を持つ生物の縄張りであったことである。
 ただ、最も大きいのは黒牛が不在であった事だ。
 本来ならば縄張りに入った時点で跡形も無く消されていたところである。
 黒牛は変わった習性が存在する。彼は一定以上の力を持つ生物が縄張り内に入ろうとした時、それを喰らうわけでもなく瞬時に消し飛ばす。
 その点において彼らは運が良かった。

 次に、二つ目の偶然。着地地点に彼らが通って余りある大きさのが発生していた事である。
 そもそも、それほどの大きさで窓が発生することは今まで一度しか無かった。しかし、それは初めの一度目であり規模と状況から例外的なものと記録されている。
 つまり、今回の窓は一般的な物の中で異例の規模であった。

 だが、彼らを錯乱状態に追い込んだのはそれだけでは無かった。彼らを取り囲む全てが未知であり牙を剥いたのである。
 それは、自身の肉体であっても例外にはならなかった。


 パンゲアに上陸した時、彼らは経験したことのない激痛に襲われた。例えるなら体の内側から酸で溶かされているような感覚である。
 さらには、魔法の威力も落ち、一部魔法は発動すらしない。しまいには、ただ居るだけで大量にマナを消費してしまうのである。

 彼らは周辺に生息するモンスターの異様さも感じていた。初めは違和感を覚える程度の感覚であった。技量や戦術で多少の誤差は生じる内容である。
 しかし、彼らの前に人間が現れた時、それの確信を得た。ここの生物は餌に適していない。

(オカシイ…)
 
 通常モンスターとは強ければ強いほど大量のマナを有している。マナは自身を構成するエネルギー源であるため多ければ強いのは当然である。
 それは大陸のモンスターも例外では無い。しかし、彼らのもといた場所に比べてここの生物はマナが少ない。

(な…ぜ…?)

 「万軍の先兵」彼らは理解の出来ない物体を前に思考を始めた。
 今まで本能のまま行動してきた彼らであった。だが、度重なる未知への恐怖がストレスを生み出し知能を覚醒さる。
 その時、彼らは万軍の幼体となった。

(食べ物…)

 彼らが初めに考えたのはエネルギー源の確保である。莫大な消費に体が悲鳴を上げていたのである。
 彼らは目の前の「進化の波長」を発生させる物体と生物に擬態した魔法を横目に体を圧縮させる。そして、体の一部を四方に弾き飛ばした。

 擬態した魔法がその場から消えた。

 その時、彼らは自身の感覚が正しいと確信した。
 アレは身体全ての性質を同時に変化させた。通常、身体に作用する魔法は構成するマナを徐々に侵食する事でその効果を得る。その工程が必要無いのは精霊の類いのみである。
 
(来た!)

 彼らは先遣隊から餌の情報を受け取り悦びに震えた。彼らがコア貯蔵庫の場所を突き止めたのである。
 すぐさま、力を振り絞り海を超えた。

 迎撃の魔法が自身に向けて飛んでくる。しかし、そんなのは餌でしかない。
 霧散したマナを効率的に吸収してそのエネルギーを繁殖に回す。そして、マナを分け与え、『共感魔法』で経験を共有する。その後、少し待てば失った体は取り戻すことができる。
 
 あと少しで着地出来そうと言うところで薄紫色の薄い膜が行手を塞いだ。

(邪魔だ!)

 彼らは臆する事なく進んだ。そして。膜を構成する魔法を自らのマナで侵食し破壊する。
 どんなに強力な魔法であってもマナ出力の差で押し切ることは可能である。

(腹が減った!)

 彼らは着地と同時に手足を用いて地中を掘り進む。
 逃げ回る人間は無視する。奴らは手間と得られるマナが釣り合わない。

 この場合、彼らの手足とは蟻型外生生物アント系モンスター土竜型外生生物モグラ系モンスターなどの行動を起こす際に用いられるモンスターのことである。

 彼らが掘っていた穴が地震と比べても巨大な空間に繋がった。
 そこには、魂を消された大量の核が貯蔵されていた。その量は、彼らがコア風呂としてに浸かる事ができるほどである。

(キタキタキタキタキタキタキタ!)

 彼らは目の前に広がるコアの海に感極まった。すぐさま、吸収し群れの規模を拡大させる。このまま進化まで手を伸ばそうとした。
 その時、周囲のコアが急速に消費されていった。

(何かが、強大な何かが…いる)

 彼らは自身の足元に強大な力の存在を感じた。それはコアが減るほど力を増していく。

(コイツ!)

 彼らは自身の餌を横盗りされたと感じ、その存在に怒りの感情を覚えた。

(渡さない!)

 彼らは餌を取られまいとコアを胃に押し込む。


 その場のコアが全て消えた瞬間、周囲に莫大な被害を出しながら両者が衝突した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

王女、豹妃を狩る

遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。 ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。 マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

処理中です...